ぼんやり令嬢はそんなこと考えたことも無かったようです
「じゃあまた学院でね」
「うん」
「ニーチェさん、この子ぽやってしてるからよろしくお願いしますね」
「はい」
シャロは血のつながった姉のようにそういうとニーチェさんは、快く頷き、その様子を見たシャロはどこか満足そうだった。
本当、シャロって私のこと大事にしてくれているんだなぁとほっこりしていると、ニーチェさんも同じ思いなのかのほほんとした表情を浮かべていた。
「そういえばロバート様はいなかったな」
「忙しかったんじゃないですか?」
「だとしても……うーん」
まず当主が謝るべきなのに……と少し怒った様子だったが私は、そういえばそうだねーくらいにしか思えず、むしろ言われるまで気づかなかったなぁとぼんやりしていると、その様子に気づいたニーチェさんが、肩を下げた。
「傷ついてないならいいけど……」
「傷つく理由ないですし……多分、謝罪しつつ変なマウントを取って来たり品定めしてくるのがおちですよ」
どうしてこういう発言が出るかって?
ブランデンブルグ侯爵家でフィリア様に連れられて行ったパーティなんてそんな人ばっかりだったし、そもそもフィリア様が地方貴族を下に見ていたし……否、ダイアン様もか、そしてレヴィエ様もそうだったし……、思い出すと胃が痛く……なるほどではないが起こるほどでもない何とも言えない気持ちになった。
なんというか
「嫌な思いしてきたんだなぁ」
よしよしと頭を撫でてから、ニーチェさんは飴を手渡してくれた。
ニーチェさんは、私がこういうこと言っても、もっと大変な人だっているんだからとか言わずに優しくしてくれるからか、ついつい昔のことを掘り起こしてしまうが、甘えすぎかなぁと思いながら、柑橘系の飴をころころ口の中で転がしているとニーチェさんはさらに続けた。
「嫌なことがあったら遠慮なく言っていいからな?」
「ありがとうございます……およよ」
きっと本心からの言葉に感謝していると、背後からアイリナ様同様にこちらに向かってくる足音が聞こえたと同時に、ニーチェさんが背後に庇うようにしてくれた。
流石王女護衛、流れるような手さばき、鮮やかすぎてなぁんにも見えませんでしたわ、と放心している私を叩き起こすようにきゃぁきゃぁと可愛らしい声が聞こえてきた。
「ニィリエ様じゃないですか、おひとりで?」
「……ごきげんよう。ラフレーズ・ドミニオン伯爵令嬢」
一瞬、嫌そうな顔をしたなぁと思っているのは私だけらしく、ラフレーズ様は気にしない様子で……いや、よく気にせずいられるなぁ……。
貴女、結構ニーチェさんに冷たくされてませんでしたっけ?あれ?その記憶あるの私だけかしら……と考えているせいかころころ転がしていた飴も一時停止してしまった。
あ、この飴美味しいなぁ……とほのぼのと感想を一人、脳内でつぶやいていると私の存在が認識できていないラフレーズ様は上機嫌そうに口を開いた。
「そんな、私の名前覚えててくれたんですね」
キラキラとした……こちらからは声しか聞こえないが、さぞ瞳も輝かせてるんだろうなぁと思って、もう一度ニーチェさんの表情チェックをするも、一瞬だけ眉をひそめただけで、通常運転に戻っていった。
「得意分野なので」
そうだよねぇ~、だって王宮、意外と人の出入り激しいしね……。
と、脳内で普段から出入りしている業者や侍女さんたち、たまに来る行商の方々ともスムーズにお話しているところを思い出しつつ息をひそめた。
「流石です」
「いえ、では」
さっとこれも早く踵を返そうとするニーチェさんの腕をラフレーズ様がつかんで引き止める。
「待って下さい」
「何でしょう」
……あんな美少女に腕捕まれて何も動じない人間いるんだぁ……。
得意げな顔もしないし……かといって雑でもないしと蚊帳の外から見ていると、ラフレーズ様はさらに続けた。
「あの……ニィリエさんは、ベルバニア伯爵令嬢のことどう思っているんですか?」
「質問の意図が分からないんですが」
やや険しく、声が硬くなったニーチェさんに気づかずラフレーズ様は続けた。
「いや、変な意味ではなくって……そのフルストゥル様は確かに守ってもらえて得がありますけど……ニィリエさんには得が全くないじゃないですか」
「得?」
「もしかして、お姉さまであるツィリアーデ様の商会とのつてとかが目当てですか?それともアーレンスマイヤ家の資産?ベルバニアの土地ですか?」
つらつらと答えるラフレーズ様に、たしかにそれなら辻褄あうかも?と同意しているとその同意をも粉々に砕け散るほどの冷たい空気が流れた。
「…………黙ってくれないかな?上っ面だけみて浅ましい予想を立てられるの楽しくないな。正直不愉快だ」
ニーチェさんが不機嫌を笑顔で隠しているようだが、隠れてないってぇ……と思っていると、さらにニーチェさんは続けた。
「……母さんは俺が余計なことしなくても、フロルウィッチを大きくできる。それにうちは爵位こそ男爵だけど資産はどこかに頼るほど困窮してないよ。俺は俺の意志でフルストゥルと婚約関係を続けてるだけ、そこに損得勘定は無いよ……むしろメリットがないのはフルルも一緒だからな」
え?そうなの?そんなこと思ったことないけど?
「ベルバニア家もアーレンスマイヤ家も名家中の名家、元の婚約者の家は侯爵家……爵位だけみたら俺の家は下だしな。年も離れてるしな」
あーないないない、そんなことないって……とニーチェさんの背後で首をぶんぶんと振っていると、ラフレーズ様は食って掛かるわけでもなく大人しくそれを聞いていた。
「そう……ですか……急に失礼しました」
淑女の礼……とまではいかないが丁寧にお辞儀をしてから、ラフレーズ様はその場から去っていった。
「何が聞きたかったんだろうなぁ……フルル出てきていいよ」
「ふぁい~」
おずおずとニーチェさんの背から出てくるも、何をいったらいいか分からず固まっているとニーチェさんはいつものように優しく微笑んだ。
「色々あったし家まで送るよ」
「……ありがとうございます」
そうして帰る途中、いつものように話していたがまさかニーチェさんが、私との爵位の差や年の差を気にしていることが意外だったなぁと、予想外の言葉に驚くばかりでラフレーズ様の真意には気づけないのだった。
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