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ぼんやり令嬢と何かを察した眼帯従者

「邪魔……?」


 信じられない、ありえない、なんでそんなことを言われないといけないんだと言いたげな表情を浮かべ、口元を震えさせているエミリィ様をみて、苛立たし気に一気に息を吐いた後に、不愉快そうに眉を顰めルギオス様は続けた。


「えぇ、邪魔です。それにこれ以上ベルバニア伯爵令嬢に失礼なことをするのはマクシミリアン子爵次期当主として許しません」


「でもっ……」


 立ち上がろうとしたエミリィ様を、猛禽類のような鋭い視線で座らせた後に、相変わらず冷たい声で容赦なく告げた。


「そもそも私は、アイリナは呼びましたが貴女の同席を許した覚えはありませんが?」


「お兄様……」


 えぇぇぇ、えぇぇぇ……どうしようこの空気……。なんか険悪過ぎてお腹痛くなりそう……。というかもう既に痛い。

 だからといってこの場で胃薬を飲む勇気は更々なく途方に暮れていると、ニーチェさんと目があい安心させるように手を重ねてきた。


「……あー喋っていいですかね?」


「ニーチェさん……」


 どうするんだろうこの空気、とルギオス様の方を見ると一瞬きょとんとしていたがすぐにいつもの表情に戻った。


「……どうぞ」


「取り敢えず、俺とフルルは純粋にアイリナ様から聞きたいことがある、それだけ怖がらせたなら謝る」


「いえ……」


 ならよかった。と笑顔を浮かべてからニーチェさんは更に続けた。


「アイリナ様がどうしても子爵夫人にいてほしいならいてもらって構わない……けど、貴女はあくまでもこの件に関しては部外者。こちらの話を今みたいに遮られては進むものも進みません。」


 おわかりいただけますか?と優しく言うと少し意固地になっていたエミリィ様も、毒気を抜かれたように肩をなで下ろした。


「すいません」


 エミリィ様が頭を下げている横で、ニーチェさんが私に話すように促してくれた。

 なるほど、ここまで空気を変えてくれればたしかに喋りやすいかも……。


「安心してください。私たちはアイリナ様を罰そうだとか、子爵家に賠償金を請求しようだとかそんなことは考えておりません。今回、私の婚約者がこちらに来た主な理由は、学友であるルギオス様の為です。アイリナ様に聞きたいことがあるというのは、一般生徒の間で出回っている噂について聞きたいことがあるだけなんです」


「はい……」


 しゅん、とうなだれる姿はアイリナ様そっくりだなぁと思いながらも、さてこれで敵愾心がないことも分かってくれたし、さて本題に入るかなぁと思ったら予期せぬ言葉がニーチェさんから放たれた。


「じゃあフルルに謝ってくれますか?」


「え?」


「え?じゃないですよ。貴女は先程先入観だけでフルルがまるでアイリナ様に詰め寄ってるように糾弾した……フルルは優しくアイリナ様に話しかけていただけなのに」


「……すいませんでした。ベルバニア伯爵令嬢」


「あっえ?はい、大丈夫です」


 まさかニーチェさんがエミリィ様を謝らせるなんて思っておらず、首を横に振りながら咄嗟に答えた後、一度深呼吸をしてから彼女に向き直った。


「こちらも意図していなかったとはいえ、晒し者にするような真似をしてしまったんです。警戒する気持ちはわかります」


「フルストゥル様……」


「先程ニーチェさんが言った通り、同席するもしないもどちらでも私は大丈夫です」


 にこっと人畜無害な笑顔を浮かべるが、エミリィ様は納得したように首を横に振った。


 「いえ、大丈夫です。お騒がせいたしました」


 ぱたんと静かに扉が閉まり、エミリィ様が出ていき少し空気が和んだような、張りつめた空気が霧散したように感じ無意識にこわばらせていた肩を下した。


 「……邪魔が入ってしまい申し訳ないです」


 「いえいえ……」


 今、さりげなくエミリィ様のこと邪魔って一蹴した?というのがどうしても引っ掛かったが、まぁ人様の家のことだ触れないでおこう……と一度呼吸を置いた後に、言葉をつづけた。


 「謝罪は受け取ります。そもそもそこまで怒ってないですし……それより聴きたい話がアイリナ様にありまして」


 「えぇ…何のことでしょう?」


 「一般生徒の間で私が魔女って呼ばれてるのはいつ頃とかわかる?あと、ラフレーズ様の影響もしりたいんだけどいいかな?」


 「はい……時期は大体、夏季休暇あけてすぐだったと思います。……元々、婚約破棄の話が流れてきたときはそこまでじゃなかったんです。そもそもほとんどの人があぁ、上位貴族って大変だなぁくらいだったんですけど……お兄様たちが編入してきたら急にそんな噂が流れてきて……」


 大体予測できていた答えが返ってきて、思わず上半身をのんびり横に揺らした。


 「なるほどね……」


 「まぁおそらく新興派や古参の貴族派連中だろうな……」


 ニーチェさんも同じ感情だったらしく、どことなくまったりした雰囲気で頷いていた。


 「でしょうねぇ……あと最近そういう感じの少女小説流行ってるからですかねー」


 「そんなのあるのか?」


 「ありますよ?読みます?おすすめありますよ」


 「読む読む」


 と、和やかさと穏やかさ全開の会話を少しした後に、ルギオス様がじっとこちらを見ていることに気が付いて向き直ると相変わらず淡々とした表情で答えた。


 「……仲がいいようで何よりです」


 「「すいません……」」

 

 「いや、大丈夫です」


 一連の話の流れを聞いた後に、おずおずと手をあげてアイリナ様が口を開いた。


 「あの……」


 「あぁごめんね?なに?」


 「気になることがあると言えばラフレーズ様のことなんですけど……ラフレーズ様が編入してから男子生徒の様子があきらかに変わったような気がするんです……それに私も、ラフレーズ様のために何かしなきゃって気持ちになって……」


 その話を聞いて、私は驚いてしまったがニーチェさんは淡々と呟いた。


 「なるほどなぁ……」


 「なるほど?」


 何が?と思うのは私だけでなくその場にいるニーチェさん以外全員が、彼に視線を送っていたが、ニーチェさんはいつもどおり涼しい顔をしていた。

いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。

いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。


お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。

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