ぼんやり令嬢と眼帯従者の一方その頃
そんなこんなで、さる噂などの調査をまさかのニーチェさんにしてもらうことになったのだが、本当に申し訳ない……。
こんなことになるんだったら、シャロがいつも言う通り野放しにしすぎだったかもしれない。
「申し訳ないの極み……」
タウンハウスのサンルームでぽつりとつぶやき、本を閉じて何度も何度も自分の情けなさが脳裏を駆け巡り思わず頭を抱えた。
「お嬢様?」
「リノン~」
私の本当にかき消されてもおかしくない独り言を、リノンが拾い側に来て話を聞いてくれた。
「……なるほどそういうことでしたか」
一通り聞いた後、リノンはほっとした表情を浮かべて、小さい子供を諭すように言葉を紡いでくれた。
「大丈夫ですよそこまで気負わなくても、そもそもお嬢様は一人で抱え込みすぎです」
「そうなのかなぁ……」
お母様やお姉さまはこういうの鮮やかに、手早く自分の力だけで処理できてるのになぁ……と情けない気持ちになっていると、リノンは優しく答えてくれた。
「奥様とツィリアーデ様と比べる必要はありません……それを言ったらお二人は女学校出身で偏差値はお嬢様の通っている学院の方が高いですし、二人とも王宮勤めは経験してません」
リノンはそう言い切るも、すんなりとそれを受け入れるにはあまりに自分と比べて高すぎる社交能力と美しさが脳裏にかすめて素直に受け取れなかった。
王立学院に入っているとはいえ成績は頑張ってようやく普通程度なんだよなぁ……と、目を瞑ってしみじみと呟いた。
「そういうものなのかなぁ」
「そういうものです。お嬢様はお嬢様自身が思っているよりちゃんと頑張れていますよ……いいじゃないですか、たまには他人に頼ったって候補とはいえ婚約者なんですから」
きっぱりとそういった後に、リノンはお茶を入れてくれ、相変わらずのおいしさだったが性分なのか、ニーチェさんに対しての申し訳なさは消化されることは無かった。
同時刻、ハイルガーデン男爵家
「おかえり……ってすごい顔してるわね?」
ノージュは傍からみたら涼しい顔をしていたが、基本そこまで感情を表に出さないニーチェがあからさまに不機嫌で少し驚いているのは身内にしか分からないだろう。
きょとんとしているノージュを見て、ニーチェは少しうなだれた。
「ごめん、色々あってさ……」
「もしかしてフルストゥルちゃんのこと?」
「え?」
まさかとうとう人の心を読めるようになったのか?と母の方を見るとあぁ、やっぱりといった表情を浮かべていた。
「この前うちに来てくれてね……何かものすごく思いつめたような、疲れたような表情だったのよね」
荷物を置いてから、改めて聞くとやっぱり相当きてるよなぁと心配になったと同時に、すぐに言ってくれてもいいのにと思いながらも、ようやくあのバカ侯爵たちと縁が切れたのに……と同情するほかないが、そんな話を聞いてしまったらさっさとやることをやって、フルルが楽しく過ごせるように努めないとなと、自分の気を引き締めると母がふぅとため息をついた。
「私が言うのもあれだけど、貴方優しい子よねぇ」
「まぁ、親の教育がいいから」
「あら、それはうれしいわね」
そうして穏やかな空気の中、ニーチェはものすごい速度で色んな調査を始めるのだった……が、調査が進めば進むほど穏やかな空気はどんどん遠ざかっていき、自分でもわかるくらい顔が険しくなっているのを感じた。
全くどうしてあそこまで無害な子に、魔女だなんて仰々しいあだ名をつけるんだ、確かにティルディア様は美魔女だけど……とわけのわからない方向に考えながら、でもきっとフルルは優しいから「そこまで魔力ないんですよねぇ……」くらいしか言わなさそうだし、「それはそれでかっこいいかも?」と首を傾げそうだなぁ……と想像するだけで眉間に寄った皺が少しだけ和らいだ。
そんな様子をいつから見ていたのか、聞きなれた声が聞こえてきた。
「わかりやすいなぁ」
「うるさい……というかいたんだ」
「ひどいなぁ」
けらけらと笑いながらウィンターバルドが返答したあとに、ニーチェはそういえばと答えた。
「あのさぁ、聞きたいことあるんだけど……」
「ん?何だなんだ?」
そうして敏腕弁護士という頼りがいのある相手を見つけ、ニーチェの調査は進んでいくのだった……が。
「俺ってさぁそんなに頼りない?」
「いや?そんなことは無いんじゃないか?」
「そうかなぁ……なんかフルルに全然頼ってもらえないんだけど……」
そこにはこんな相談も混ざっていることを、フルストゥルは知る由もないのだった。
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