ぼんやり令嬢の代わりに公爵令嬢はお灸をすえるそうです。
登校してそうそう、座った瞬間にルギオス様が綺麗に頭を下げた。
「ベルバニア伯爵令嬢、昨日は妹が申し訳ありませんでした」
わぁ、綺麗な金色の髪の毛がはらはらと落ちて小麦畑みたいだなぁと一瞬、全然違うこと考えていたが一向に頭を上げようとしないルギオス様に気が付いて、急いで口を開いた。
「あぁ、いや……誤解もあったみたいですし」
というより、ラフレーズ様が好きすぎての暴走って言ったところかな?とりあえず誤解は解けたみたいだし、何か行動を起こすなんて全く考えていないから何もそこまで綺麗に頭下げなくても……と思ったけど、謝らないほうが周りの人の印象も悪いしなぁとうんうんと自分で自分を納得させてからルギオス様に頭を上げるように声をかけた。
「ありがとうございます」
「いえ、あのあと大丈夫でしたか?」
「まぁ流石にちょっとはもめましたけど」
「え?あぁ、殴られたりとか?」
とっさに自身の体験談から反射的に答えてしまったが、しまったと思うのもつかの間、割と早い速度でルギオス様が反応してきた。
「ないですよ?」
もしかしてあるんですか?と聞きたげなルギオス様の視線に、いやぁやられたことがあるんですよビンタですけどね、なんて言えずにというか言えるわけもなくすいませんと頭を下げた後、ルギオス様が可愛らしい包みを差しだしていた。
「これでお詫びになるとは思っていませんが、うちの使用人に作らせました」
「え?あ……わざわざありがとうございます」
何だろう?お菓子かな?と思いながら包みと可愛らしいお花を置いてから、ルギオス様に向き直った。
「アイリナ様も噂に惑わされただけみたいですし、私は怒ってませんから」
びっくりはしたけどねぇ、やっぱりねぇ……あれで何も感じていません、今何かしたか?って言えるほど猛者じゃないしねぇと遠い目をしていると、隣で聞いていたシャロが呆れて口を開いた。
「いや、もっと怒りなさいよ」
「別にいいよぉ怒って時間が巻き戻るわけでもないし」
「嫌な思いはしたでしょ?」
「したけども」
いろんな人に一斉に見られて、疑惑の目を向けられてはちゃめちゃ嫌な思いをしたけども、正直怒るとか面倒だしさっさと終わらせたいなぁと思っていると、シャロが心配そうに眉を下げた。
「謝罪されたら何でも許しちゃう癖直した方がいいわよ?」
「そっかぁ……」
シャロが言うならそうなのかも?まぁ、でも明確な攻撃とかじゃないし?以前狩猟祭にいたミエレッタ様は人様の婚約者に手を出したあげく、逆上、そのトラブルを狩猟祭に持ち込まれちょっと怒ったけど……。
「まぁ今すぐには無理だろうけれど……とりあえず、貴女の妹に土下座でもさせなさいな。話はそこからじゃない?」
「土下座って……」
「まぁ、」
確かに、当事者はアイリナ様だしなぁという思いと、流石に土下座させるのは、ようやく払しょくできた「レウデールの魔女」っていうかっこいいけど、物騒な二つ名が舞い降りてしまうからどうにか穏便に済ませよう。
……という私の願いはかなうものではなかった。
「フルストゥル様、本当に申し訳ありませんでした」
しちゃったよ……土下座……。
しかも食堂のど真ん中でされちゃったよ……。
どうしようとシャロの方を見ると、棘を含んだ視線を一瞬、アイリナ様に向けてから私にいつものように告げた。
「フルル、お昼何食べる?」
「え?」
こちらもまさかのお昼ご飯の話をされてぽかんとしていると、シャロはにこにこと笑ったまま続けた。
「私は今日、ベーグルとスープのセットにしようかしら」
「え?シャロ?」
いいの?と土下座したままのアイリナ様とシャロを何回も見返す私と、見事すぎる無視っぷりにその場にいた全員が私と同じ表情をしていたが、シャロは当然と言った風に私を見た。
「だって、約束もなにもしてないでしょ?」
「してない……」
「じゃあ行きましょう?」
アイリナ様が土下座したまま無視をされ信じられないという表情でこちらを見ていて、正直私は心が痛んだがシャロは動じず、アイリナ様に言い放つ。
「……どうして貴女のためにフルルが時間を取らなきゃいけないの?」
「どうしてって……え?」
疑問符を浮かべたアイリナ様に、シャロは軽く笑いながら肩をすくめた。
「わからない?貴女のせいでフルルが困ってるのよ、アイリナ・マクシミリアン子爵令嬢」
そこまで言うと、周囲から流石にいいすぎでは?と言おうとしているのが肌でひしひし伝わったが、シャロもそれに気づいたらしいが、全く何も動じずに言葉を続けた。
「……根も葉もないうわさをうのみにして、公衆の面前でフルルを糾弾した。しかもそれが全くの濡れ衣だった……のにもかかわらず好奇の目線にさらされた。今この瞬間もね」
「あ……」
「さ、行くわよ?」
「あ、え?うん……」
シャロに手を引かれるまま、シャロの手は温かくまぎれもなくシャロは私の為に怒ってくれたんだなということがしっかりと伝わったが、アイリナ様の今後と、シャロに悪評がつかないかそれだけが心配だった。
そうして二人が去った後の食堂
「確かに、シャルロット様が言う通りよね……」
「でも、俺らだってあの噂信じてたし……」
「……だからってあんなことしたら……ねぇ?」
と、うずくまったままのアイリナを見てひそひそと話す彼らの話題はマクシミリアン子爵家の事情について触れた。
「やっぱり、本妻が亡くなってすぐ後妻に収まるような悪女の娘……程度が知れてるというもの」
「っ……」
大好きな母の悪口を言われてアイリナは叫びたい気持ちだったが、そんなことはできずただどうしてこうなってしまったのだろうと後悔するばかりだった。
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