神官見習いはため息が止まらない(ルギオス目線)
マクシミリアン子爵邸
「アイリナ、何度も言っているだろう?もう平民の頃とは違うんだ」
「すいませんお父様……」
「よりにもよって、あのベルバニア伯爵家が相手ってだけでなくそれを大衆の前で見られるとは……」
マクシミリアン子爵家当主、ロバート・マクシミリアンは嘆き、頭を抱えた後に、鋭い目つきでルギオスを睨んで叫んだ。
「どうしてお前も止めなかった!!!!お前がついていながらこんな!!!」
「やめてお父様、私が全部悪いの!!!!」
「アイリナ……」
相変わらず、ロバートはアイリナに甘いなその甘さが今回のことを招いたのに……そういえばフルストゥル嬢はあの時、怒っているというよりも困ったような、いやむしろ他のことを考えているようなぼんやりとした表情を浮かべていたな。
あの後、すぐにアイリナを連れて帰ってきてしまったせいで謝罪できなかったなと考えていると、また父親がこちらを睨みつけていた。
「ルギオス、お前はたしかベルバニア伯爵令嬢と同じクラスだろう?なんとかしろ」
何とかしろと丸投げされ、親の責任を放棄かと呆れながら、おざなりに頭を下げた。
こういうことにならないようにアイリナを今までできなかった分と甘やかすばかりでなく、もっときちんと貴族としての振舞いを教えればよかったのにと言いたい気持ちを抑えながら口を開いた。
「えぇ、謝罪するつもりです。ですが当主としてお父様も謝罪した方がいいかと」
「どうして私があんな外様貴族の小娘程度に頭を下げなければならない」
相変わらず、選民意識が強い。
確かにマクシミリアン子爵家は純粋なキャシャラトの貴族であり、しかも神殿との関係も深いいわば名門だ。
そのせいか父親は、純粋なキャシャラト人以外を見下している節がある。
それは、この子爵家より多く税を納めていて爵位も上なベルバニア伯爵家も論外ではないらしい。
短絡的な思考の父に呆れながらも、そんな父の意見を曲げるためにとあることを告げた。
「彼女は王女のお気に入りなのはそうですが、王太子とも親交があります。何より彼女の友人はシャルロット・ロゼットロア、レベッカ・ガリアーノ、そしてリーセ・ドミートリィ、どこの家門も名家です。特に例の婚約破棄による貴族のパワーバランスの変動にはロゼットロア公爵令嬢が強く関わっているとか……」
そこまで言うと、ロバートも理解したのか、それ以上ベルバニア家を下げるような発言はしなかったがやや不満げな表情を浮かべている。
きっと可愛い可愛い、本妻を蔑ろにしてまで寵愛した妾の、本妻が死んだ後にすぐに探し出した可愛い可愛いアイリナではなく、本妻によく似た目をした自分に言われたからだろう。
このまま話せばきっと、母の悪口を言いかねないと思い父を黙らせるために、こちらもあることを言わせてもらった。
「それを知っているから貴方も私にあんなことを言ったのでしょう?」
「あんなこと?」
アイリナは先ほどまで流していた涙は何処へやら、興味津々で父の方を見るが父は気まずいのかアイリナから目をそらした。
「……余計なことを言うな、アイリナの前だぞ」
「失礼しました」
そうしてその場から退散しようとすると、二人が心配できたのだろう。
後妻であるエミリィ様と目があい彼女は逃げるように部屋に入っていった。
全く不愉快だ。
自分程度に怯える程度なら、こんな家に母がなくなってすぐに嫁がなければよかったのに……あの怯える目を見れば見るほどにそのいら立ちは募っていくばかりだ。
「ルギオス様……」
「心配かけてすまないな、こんな時間に申し訳ないが明日ベルバニア伯爵令嬢にお詫びがしたいんだ。焼き菓子を頼んでもいいか?」
使用人の一人にそういうと、彼は深々と頷いた。
「もちろんです」
「あぁ、あと花もあったほうがいいだろうか」
「そうですね……」
使用人のアドバイスの元、彼女への詫びの品を考えていると、使用人たちは口を開いた。
「これでルギオス様のことを好きになってくれればいいんですけど」
「そう簡単じゃないだろ、それに彼女は今現在、仮とはいえ婚約中だ」
「でもいつでも白紙にできるような簡易的なものなんですよね?」
「あの王太子の隣の席で、しかもあんな婚約者相手だったのに心変わりをしなかった彼女がそんな簡単に心変わりするようには見えないが……」
それに、といおうとしたら使用人たちはいえいえと首を強く横に振った。
「でもルギオス様は神殿でも指折りの優秀さです。今だって家業の半分はまわしていますし、見た目だってかなりいい方じゃないですか」
「……彼女の婚約者候補とやらは、王女の護衛で家業をかなりまわしていて個人資産もかなりあると聞いている」
セレスのドレスを難なく買うくらいには彼女を大切にしているし、と自分で分析しながら言っていながら流石に敵わないな、と脱力してしまったが、使用人たちはそんなことありませんと鼓舞してくれた。
「……こんなので、フルストゥル・ベルバニアと婚約関係になるなんて無理がありすぎる」
そう、父に言ったあのことというのは、学院入り前に言われた王女のお気に入りであるフルストゥル・ベルバニア伯爵令嬢と親交を深めて、彼女と婚約関係になれという無理難題な命令だった。
きっとそれは王家のお目こぼしをもらいたいという考えだろう。
けれど、貴族として生まれた以上、この家を守らなければいけないのはみな一緒だろうと、ため息を吐きつつ明日の準備をするのだった。
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