ぼんやり令嬢はやや脱力気味だそうです
学院で色々あったせいか、フロルウィッチに着くころには課外授業に必要なものって何を買えばいいんだったっけ?とぼやぼやしてしまっていたが、まぁまだ去年に買ったものがあるしなぁ……と考えているうちにつくりのいいドアを誰かが開いた。
相変わらず、可愛らしいなぁと嘆息をあげた後に、リーセ様に声をかけた。
「フロルウィッチは基本一般向けですからそこまで値段はしませんよ」
「よかった……」
ほっとした表情を浮かべるリーセ様を横目で見つつ、まぁかくなる上には、私の所持金からこっそりとリーセ様に必要なものを買ってもいいかなと考えていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「フルストゥル嬢」
「ノージュさん」
そこに現れたのは、ノージュ・ハイルガーデンこと、未来の義母候補つまりはニーチェさんのお母様なわけですけど、相変わらず美人だなぁ……と見ほれるもつかの間、ノージュさんは私たちを一度見た後にゆっくりと口を開いた。
「久しぶりね……お友達?」
「はい……すいません、大人数で」
広いとはいえ一気に4人で来ちゃって迷惑だったよなと思ったが、私の杞憂に反してノージュさんは全く何も気にしてない様子でさらりとした口調で答えてくれた。
「いいのよ、何を探してるのかしら?」
「今度の課外授業で……えっと」
何が必要だっけ?と後ろを振り返るとレベッカ様がいいですよとすんなりと説明役を買って出てくれた。
「そうですね……とりあえず」
あぁ、助かると思いながらレベッカ様の後ろでそれを聞いていると、説明を聞いたノージュさんは頷いてちょっとまっててと行ったあとに一度裏へとまわっていったと思ったら、色んな種類の日常で着まわせる上に気軽に使える服や、まるっと洗えるカバン、薄手のカーディガン等、脳内では、腕を組んで頷いて流石だわと、評論家気取りをしてしまったが何とか気を取り直した。
「ありがとうございます」
「いいのよ」
選択肢は多い方がいいしね、と優しくいってくれた後にちらりと私にだけ見える角度で手招いてくれた。
「?はい」
首を傾げつつノージュさん近づくと、ノージュさんは心配そうな表情を浮かべていた。
「よければ奥の部屋使う?その方がゆっくりできると思うし」
「いえ……でも」
急にきて迷惑かけちゃってるのに……と思ったら、従業員の一人が賛成と声をあげた。
「その方がいいと思いますよ?結構疲れてるみたいですし……」
「え?あぁ……」
そうなのかな?とくびを傾げていると、脳裏にアイリナ様の声がきんきんと響いてきた気がして遠い目を浮かべてしまった。
「そうね……せっかくなら休んでいくといいわ」
「じゃあ案内しますね」
そうして案内された部屋は、アンティーク調の大きいテーブルをはじめ、アンティーク家具でそろえられた落ち着く雰囲気の部屋で、そこでゆっくり服や雑貨を選ばせてくれたし、多分友達割引なのか少し安くしてくれたのもありがたかった……何よりリーセ様が嬉しそうでこちらも同じくらい嬉しかったが、みんなと別れた後、ふと学院であったことを思い出してどっと疲れが押し寄せてきてしまった。
「大丈夫?何かあったの?」
「あぁ、すいません」
なんでもないです、と言おうとしたらノージュさんが優しい表情を浮かべて口を開いた。
「……無理に言えとは言わないけれど、本当に辛かったら何でも言ってね?」
「ありがとうございます。ノージュさん」
多分、本当にノージュさんは私を心配してくれているんだろうなということが分かっているのに、心のどこかで失望されたりしたらやだなぁという思いが顔を出してしまい、その場は親切を棒に振るようで申し訳ないが流してしまった。
人の親切を棒に振るのはちょっと心が痛むけれど、正直アイリナ様のことで疲れ切っている今、否定とか失望とかされたら一か月は引きずるなぁ、いやもっとかも?ともかく自分の気持ちを最優先にしたのだった。
「そう、そういえば貴女は課外授業で必要なものないの?」
「多分?」
「そう……もし、よければなんだけど……」
そういって、抱えきれないほどの服や雑貨をもらってしまい、一回自分でもってみようとしたが持てるわけがなくオルハを呼んで帰るのだった。
……が、そのことを聞いたオルハに
「えー、色々聞いてもらえばよかったのに」
と、あっけらかんとした口調で言われ、私はやや脱力した口調で答えた。
「やだよぉ、呆れられたらニーチェさんとどうかかわればいいのよ」
「それ聞いて、呆れたり叩いてくるのって奥様くらいでしょ?」
「そうなの?」
意外、身近な大人が母親なせいか、ほとんどの大人がそうだと思い込んでいたがどうやら違うらしい。
まぁ言われてみれば、お母様以外の大人にそんなことされたことないしなぁ……と思い返していると、またまたオルハがラフに頷いた。
「そうっすよぉ」
そんな話をしながらようやくタウンハウスに戻り、あまりに多い衣類の数にみんなで驚いてから、その日の疲れを取るためにゆっくりと湯船につかり、何も考えないように努めつつ目を閉じるのだった。
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