ぼんやり令嬢はとりあえず証拠を出すそうです。
「まぁ、慕われてないよりかはいいんじゃない」
シャロの言葉に頷いて、すこしおしゃべりをしながら食事をしているとすこし小さい人影が近づいてきた。
「あの……」
「どうしました?えぇと……アイリナ様」
何か聞きたいことでもあるのだろうか、アイリナ様はゆっくりと私と視線をあわせてから意を決したように口を開いた。
「どっ……どうしてラフレーズ様をそこまで邪険にするんですか?」
「邪険?誰が誰を?」
全く身に覚えがなさすぎることを急にぶつけられ、思わずぽかんとした顔で聞き返すと、アイリナ様は私のそんな態度が気に食わなかったのか、アイリナ様は火が付いたように声をあげた。
「見損ないました!!!フルストゥル様はそんな方じゃないと思ってたのに」
「いや、だからなにがです?」
正直、急に大きい声出して嫌だなぁ……と、少し冷めた気持になりながら表情に出さずに聞くもアイリナ様の勢いは止まらない。
「しらばっくれないでください!!!」
「あのねぇ……」
一部始終を見ていたシャロはこめかみを抑えながら苦言を呈そうとしてくれているのを見て、私はありがたい気持ちになりながらも、流石にこのくらいは自分で何とかしないとなぁという思いで笑顔を向けた。
「大丈夫、ありがとうシャロ……レベッカ様、リーセ様、私のせいでごめんなさい」
「大丈夫ですよ」
レベッカ様がにっこり微笑んでいる後ろで、リーセ様が一瞬、アイリナ様を冷めた目つきで見ていた気がするが、コホンと気を取り直してアイリナ様に向き合った。
「取り敢えず落ち着いて?大丈夫、聞きたいことがあれば私は嘘偽りなく答えるし逃げないから」
「え……?」
あまりに私が冷静に話しかけ、それこそあの狩猟祭の時の時のように言ったせいか、アイリナ様は虚を突かれた表情を浮かべていた。
……よかったこれで少しは普通に話を聞いてくれそうだな、と安心した後にまわりを見ると色んな生徒、それこそラフレーズ様のことを慕っている人、噂だけなんとなく聞いてる人、きっとこの中には私がレウデールの魔女、いわば悪女だと思ってる人たちもいそうだ。
まぁ一番多いのはアイリナ様の大声に引き寄せられた興味本位の人々ってところかなぁと思いながら、アイリナ様に提案した。
「それにここは目立つし、ちょっと場所を変えようか?」
「……その必要はないわ。聞いてもらったほうがいいかもしれないし公正な判断をしてもらいましょうよ」
ね?と周囲の人々に振り返って首を傾げると、シャロの可愛さにあてられたのかほぅっと息を吐いていた。
わかるわかる、可愛いもんねと思いながらその様子を見ていると、シャロはアイリナ様に問いかけた。
「貴女もそれでいいかしら?アイリナ・マクシミリアン子爵令嬢」
にっこりと、傍からみたらとてもとても愛らしい笑みだが、その瞳は全く笑っていないことに気づいてるのは、角度的にも私にしかわからないだろう。
アイリナ様は気圧されたように頷いた。
「……え、えぇ」
「じゃあ、座りなさいな」
そうしてシャロがアイリナ様を座らせて、場を整えてくれたおかげかさっきまで騒々しかった周囲の雰囲気も少しだけ落ち着いてきた。
流石シャロだなぁと感謝しながら、私はゆっくりとアイリナ様に話しかけた。
「で、私がラフレーズ様を邪険にしてるってどういうこと?」
あまりに私が淡々と説明すると、自分の発言を振り返ったのか少し戸惑いながらもおずおず説明し始めた。
「えっと……ラフレーズ様にアイン王女を取られないために先に悪評をいったりとか、神殿に手をまわしたとか、王女の護衛をけしかけて暴力を振ったとか」
とかってことは噂を聞いただけってことか、と脳内で相槌を打った後に少したったそれだけの話だけを片手によくここまで大事に、とため息を吐きながら
「明確な証拠はないんですよね?それともこの中に明確な証拠、証言があるひとはいますか?」
周囲を振り返って問いかけても、返事がないのを確認して、私は、胸ポケットについているピンバッジを外して提示した。
「では、こちらを」
「これは、記録再生機です。ちゃんとしたお店で買ったやつでちゃんと保証書もあります。なにも細工もしてません一度見てもらってもいいですよ?」
正直、婚約破棄でしか使わないだろうと思っていたんだけれど、ニーチェさんやウィンターバルドさんに、「一応女の子なんだからつけておきなさい」といわれ、タウンハウスのみんなにも「まぁないよりはあったほうが」と言われてつけていたのがまさかこんな時に役に立つとは……と内心で思いながらアイリナ様に見せると目をものすごく見開いていた。
「なんでそんなものを?」
「……色々あったもので」
流石に、婚約破棄の一件を赤裸々に今言うのはちょっと違うな、と思い乾いた笑顔と共に言葉を濁し、証拠をアイリナ様に渡すと、周囲もそんなものが出てくるとは思っていなかったのかすこし騒然としているなか、アイリナ様が再生ボタンを押すのと同時に私はゆっくりと目を閉じるのだった。
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