ぼんやり令嬢と次々放り込まれる油
「あら?呼んでもないお客さんが来たようね?」
顔面蒼白な私と比べて通常運転なアイン様は感情が見えず私はそれが逆に怒っているように見え、速攻で頭を下げた。
「すいません本当に……」
「フルルちゃんがよんだわけじゃないでしょ?」
「ですけど……」
でも、申し訳ないとしどろもどろになっているとアイン様はにっこりとほほ笑みながら、私の頭を撫でながら続けた。
「大丈夫、こんなことで狼狽えるようじゃこの国の王族なんて務まらないわよ」
「アイン様、かっこいい……」
「ふふ、ありがとう」
アイン様はほほ笑んだ後、下でなにやら言い合っている守衛さんとラフレーズ様を見てにこやかに、美しい声で声をかけた。
「あげていいわよ」
「殿下……しかし」
「そこでずっと騒がれる方が迷惑だもの」
ね?と有無を言わせない笑みで守衛さんを黙らせた後、野良猫に餌をあげるようにラフレーズ様を手招きすると、ずんずんと階段を登ってきて、私の心は穏やかじゃなかった。
「言いたいことがあるんでしょう?いらっしゃい」
あまりにも優美なその表情、いつもなら画家を呼んでという気持ちになるのだが冷汗が止まらなかったのは私だけでニーチェさんは仕方がないなぁというような余裕の笑みを浮かべていた。
それだけみて、少しだけほっとしたのもつかの間、すれ違いざまにラフレーズ様は私の耳元でささやいた。
「私が何とかしてあげますから」
いや、なにも困ってないから、本当にお願いだから何もしないで……と、そんな願いは虚しく客間に、アイン様とラフレーズ様が対峙してしまって、一瞬わぁ二人とも華があるなぁと現実逃避をしてしまったが相変わらず悪寒は止まらなかった。
「さて、私は暇人じゃないのだけれど何の用かしら」
「フルストゥル様のことです。」
「へぇ……聞かせて?」
優雅に手を組んで、微笑みを崩さないアイン様に対し、ラフレーズ様はそれすらも気に食わないといった様子で、本題で殴りこんできた。
「心が弱り果てているフルストゥル様を無理やり側仕えにしていじめて、その上で無理やり婚約させるなんて許せません」
机をたたきながらそういうラフレーズ様を見ても、アイン様は一切表情を変えず頷いた。
浅い付き合いだけどなんとなくわかる、アイン様のルビーよりも美しい瞳は一切笑っていない。
「あら、それは事実であれば許せないわね」
「は?」
まさかの返しに驚くラフレーズ様をきれいさっぱり無視して、アイン様はまるであらかじめ台本があるかのようにすらすらと話し始めた。
「確かに、フルルちゃんを側仕え見習いにした経緯はちょっと強引だったけれど、福利厚生はちゃんとしてるわよ?狩猟祭前はちょっとばたばたしちゃったけれど、基本学業、プライベート優先してもらってるわ。もちろん働いた分お給料はちゃんと出してます。」
そうですね、かなり優しい条件ですし、狩猟祭前後分があるとはいえ、割ともらってるんだよね……。
それこそ、タウンハウスの古くなった家具とか、みんなの服とか仕事とかで使うもの買い換えて、貯金しても割と余裕あるんだよなぁと思い返しているうちにアイン様はラフレーズ様に何か言わせる前にさらに続けた。
「あといじめるっていうのは無いわね、そもそも私嫌いな子をそばに置いていじめるほど暇じゃないのよ?あぁ、あと婚約だけどね?あまりにフルルちゃんが色々と被害を被っていたから、ニーチェに守ってもらうための建前よ?そもそも正式な婚約者じゃなくてあくまで候補、いつでも白紙にできるしその後のフォローもちゃんとするって書面も書いてあるけれど?」
「もしかして、事実確認もせずに先入観だけで殴り込みにきちゃったのかな?あらあら……神殿とドミニオン家はどういう教育をしたのかしら?」
子供に語りかけるような話し方から一変、だれでも馬鹿にしてることがまるわかりな話し方に、やめればいいのにラフレーズ様の怒りはますますヒートアップしていった。
「馬鹿にしないでください、私が元平民だからって馬鹿にしてるんですか?」
「あぁ、怖いわぁこんな凶暴で短絡的な子が弟と同じクラスだなんて」
のらりくらり、わざとらしい口調でアイン様がそういうと、ラフレーズ様は目を吊り上げた。
「いい加減にしてください」
「こっちのセリフなんだけど?何様のつもりなのかしら?」
「う……」
「流石に、王族を何も証拠もなく誹謗中傷だなんて……最近嫌なことでもあって死にたくなっちゃったかな?」
「ちなみにね、私はフルルちゃんと二人っきりになることはないわね。基本、ニーチェもいるし護衛もいるしね?」
ね?とニーチェさんに目配せすると、ニーチェさんはこほんと咳ばらいをした後に答えた。
「どこをどう勘違いしても、フルルのことを可愛がってるな しいて言えば構いすぎってところかな?それに、確かにフルルはあった時弱ってたかもしれないけど、むしろ守るために側仕えにしたのと、心配だから俺に守らせた……全部君の誤解だよ」
「さて、ぜーんぶあなたの勘違いだったみたいだけれど?」
「でっでも、フルストゥル様はきっと王宮内でいじめられ……」
「あの……それもないです。」
流石にそれは風評被害すぎる、とおずおずと手をあげると、ラフレーズ様は心底不思議と言わんばかりに目を点にしていた。
「え?じゃあなんであなたなんかが王女の側仕えが出来てるの?大したとりえもなさそうなのに」
その言葉を聞いた瞬間、アイン様は一切表情を変えなかったが、いつも穏やかで優しいニーチェさんの表情が、今まで見てきたどの表情よりも恐ろしいものへと変わっていた。
「……今、なんていった?」
たったその一言で、その場の空気は一気に冷え込んだのだった。
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