ぼんやり令嬢とため息の朝
「人気ですね、聖女さんは」
レベッカ様はやや毒のある言い方で言うと心配そうな表情でこちらをみながら頭を撫でてきた。
「彼女は、平民とそれに近い新興貴族たちに崇められてますからね……彼らからすると私達みたいな、古参の王室派なんて言うのはきっと冷たい人間に映るんでしょうね」
「偏見ですねぇ」
あぁ、だからかと先ほどラフレーズ様の周りにいた方々が、敵意や畏怖のような感情を向けていたことにようやく合点がいった。
ほとぼり、冷めてくれるといいなぁなんて思いながら教室に入り、カバンを下したのと同時に、シャロがため息を吐きながら教室に入った。
その表情はどこか、昨日の二人を彷彿としてしまうほどの、やや疲れ切った表情だった。
「……全く、何が赤髪の聖女よ……前王妃くらいになってから名乗れって感じよね」
シャロがここまで毒づくなんて珍しいなぁ、と眺めているとレベッカ様は困ったような、呆れたような表情を浮かべていた。
「まぁ、流石に自称じゃないんじゃないですか?」
「そうであってほしいけど……」
シャロもシャロで好奇の、それも社交界で向けられることのない幼稚な正義感も織り混ぜられたあの視線にさらされたのだろう。
レベッカ様の一言で散った彼らのことだ。
きっとシャロの猛毒を含んだ笑顔で倒れているにちがいない。
想像の中のシャロとは正反対の、心配そうな表情で私の頭をポンポンしながら私の顔を覗き込んだ。
「……そういえば、フルル、昨日大丈夫だった?」
「あぁ、いや私はともかくギャラン様とニーチェさんが……」
ものすごく猛アタック?のようなものと、ギャラン様は私のフォローと、ニーチェさんの心労を考えるとごめんなさい私、無傷で、しかもその後ちゃんとアイン様と侍女さんと一緒にお茶飲みました。
まことに申し訳ないなぁ、でも美味しかったなぁ。
帰りに茶葉貰ったし家でも淹れてみようとしている私とは反対に、シャロは深くため息を吐いた。
「だろうね」
「想像しやすいです」
レベッカ様は困り笑顔で頷いた後、何かが引っ掛かった様子で首を傾げた。
「じゃあ、なんでフルルさんに取り入ろうと」
「……昨日何かあった?」
まるで推理小説に出てくる探偵のようにふむと考えこみながら聞かれ、私も思わず少し考えた後によくある第一発見者のように、そういえばと記憶を思い返し状況をそのまま伝えた。
「え?あぁ、私とニーチェさんが婚約者同士なのを知って驚いてる様子ではあったけど……」
「それねぇ」
「ですね」
即答する二人をみて、何がどう答えに、そもそも答えが何かも分からずただぼーっと天井を眺め、首を傾げ天井を眺めるも、相変わらず教室にしては豪華な照明が目に入った。
「うん?」
「……王太子か、資産家にして優秀な秘書かってところですかね……」
レベッカ様の呟きに、もしかしてという思いから恐る恐る口を開いた。
「……もしかして、ギャラン様とニーチェさんに惚れちゃったてやつ?」
「単純にそれだけだったらいいんだけどね」
シャロの呆れたと言わんばかりの仕草を眺めながら、うーん、流石にそれだけであってほしいなぁと思いながらも、この場合私、どうしたらいいんだろう。
この泥棒猫って言って罵るほど怒ってないし、とはいえお好きにどうぞとも言えないし……。と腕を組みながら唸っていると、ルギオス様が申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「……同期がすいません」
ルギオス様はなんにも悪くないのになぁ、それにラフレーズ様も、ちょっとぐいぐいいきすぎただけで、別に何か傷つけてきたわけじゃないしと考えれば考えるほど、じゃあこのもやもやはなんだろうと首をかしげてしまった。
「いえ、怒っているというより……うぅん」
「?なんでしょう」
「多分、困ってる……のかな?」
自分の感情をなんとか言葉にしたものの、確信が全く持てず首をかしげたまましどろもどろに答えるとシャロが、わかっていたかのようにため息をついた。
「そこは断言しなさいよ、もう」
「うーん、攻撃されたわけでもないしなぁ」
先ほどとは反対側に首を傾げ呟く。
正直、敵意を向けられて明確に攻撃されたなら……、それこそレヴィエ様とか、あったばかりの頃のジョシュア様やマリアン様みたいだったら怖いなぁ、いやだなぁとは若干思うけど、あの程度のことで嫌だなんだっていったら流石に軟弱すぎませんこと?
ただでさえ伯父様が閉めた後の瓶の蓋あけられないくらい非力の極みなのに、精神面まで軟弱なのは笑えないんだよなぁ……と他人事のように
「嫌な思いしたら嫌だって言っていいのよ?」
ぽやぽや色々と考えこんでいる私にシャロが心配そうに言ってくれたその言葉はあまりにも優しすぎて、思わず本音が出てきた。
「え?今までの人生でそんなことあまり言われたことないんだけど……」
「……チョコレート食べる?」
「いいのーわーい」
「無邪気ですねぇ」
餌付けされる私を見ながらレベッカ様が、ほほえましいような心配そうな表情を浮かべているうちに、ようやく朝礼が始まるのだった。
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