ぼんやり令嬢と可愛いお説教
「ありがとうございました」
「いえ」
いつものアイン様だったら、それこそリーセ様やシャロに対しては「いつでも遊びに来てね」と優しく言う所なのだが、控えめに一言だけ言うのをみて相当考えることがあったんだなぁ、と思っているとアイン様は可愛らしくむくれていた。
「はぁ……あぁいうこっているのねぇ」
「ですねぇ……元気元気……」
苛立ちを頭痛と共に抑え込む表情すら美しいアイン様を眺めながら、あまりに自分と性格が違いすぎるラフレーズ様に気圧された余韻で少しゆっくり呟くと、アイン様は私を撫でながらしみじみ呟いた。
「元気を超えて失礼だったけどね……ニィリエ、お茶」
「はい……」
「猫背になっても背が高いんだなぁ……」
そう呟くもニーチェさんの背中からはなんとも言えない哀愁が漂っていた。
ニーチェさんが持ってきてくれたお茶を飲みつつ、アイン様は心配そうにこちらを見た。
「ギャランはともかくフルルちゃん大丈夫?」
「まぁ、大丈夫かと私には興味無さそうですし」
「でもニーチェには興味深々だったからそこを経由して……ねぇ?」
「あー……うーん、うーん……?」
まさかニーチェさん目当てで私に危害を加えようっていうことかな?流石にないとは思うけれど……と思っているとアイン様はふぅとため息を吐いた。
「心配ねぇ……ちょっとニィリエ学生のふりして潜入しといてくれない?」
「アイン様、多分ニーチェさん脚が長すぎて制服はいりませんよ」
「それもそうねぇ」
「それもそうねぇ???」
聞き捨てならない、とニーチェさんは疑問符に驚きを混ぜた後にまたまたため息を吐いた。
「まぁ、あの女生徒より俺はルギオスってやつの方が心配だけど?」
何でそこでルギオス様が出てきたんだろうと、首を傾げる私の隣でアイン様は今日何回目になるかわからないため息をついた。
「ニィリエも気づいてたのねぇ」
「…………うん?」
まさかの同調に思わず二度見どころではなく四度見している私をみて、ニーチェさんが私の頭に手を置きながら呟いた。
「心配だなぁ」
「……ごめんなさい?」
とりあえず、この流れ的に私が何かしら悪いことが明確なので疑問符を浮かべたせいか、アイン様は私と同じくらい眉毛を下げたまま優しい笑顔で私に語りかけた。
「まぁ、最悪ギャランを盾にして逃げなさい。あの子なら何とかなるでしょう」
「えぇ?」
王太子ですけど?と後ずさる私を見てアイン様はぐっと親指を立て続ける。
「大丈夫、あのこは頑丈よ?」
「その頑丈さは国のためにとっておいた方がいいんじゃ……?」
「女の子一人守ったところでどうにかなるものじゃないから大丈夫よ」
「あぁ、いち国民として安心です」
そういいながらも、いやその力を私に使うんじゃなくていつか現れる伴侶に使うべきじゃない?国を守る力とは別にと考えてしまうあたり、お父様同様、地方貴族根性が染みついているなぁ。
まぁ、そもそもギャラン様と初対面の時には一応とはいえ私にも婚約者いましたし、そんな中でギャラン様に興味津々だなんて、あまり外聞がよろしくないしなぁ……という建前であまり関わらないように努めていたし、お姉さまからギャラン様のとある噂も聞いていたしなぁ。
そもそも今はそこまででもないけど、ギャラン様の隣の席になった当時、悲しいことに勉強にややついていけて無くて、それどころじゃなかったしなぁと遠い目をしているとアイン様は困ったようにほほ笑んでいた。
「前から思っていたけど本当にフルルちゃんってギャランに興味ないわよね……猛アタックされても困るけど、ここまで興味ないのも複雑ねぇ」
「いやぁ……いかんせん眩しくてぇ……」
美貌とか、カリスマとか、人望とかもろもろ……と、自分と比べたらもはや神のような域にいる架空のギャラン様を見上げていると、ニーチェさんはいつもの、小さい子の話を聞くお父さんのような表情で頷き答えた。
「目が痛くなるもんなぁ」
わかるわかると頷くニーチェさんを見て、アイン様は可愛らしく首を傾げ呟いた。
「うちの弟はなんなのかしら……」
「立派な方です」
「立派ならいいかな」
何とも言えない緩い会話の後に、アイン様はそういえばと手を叩いた。
その表情は先ほどの困った笑みとは打って変わって、少し意地悪な笑みだった。
「色々あって怒るの忘れてたけど、二人とも夏季休暇会わな過ぎ、候補とはいえ婚約者なんだからもっと盛大にいちゃつきなさいよ」
いちゃつくって、と思わず反論しそうになるのを抑えアイン様を見るとアイン様は更に続けた。
ニーチェさんはそれが予想できていたんだろう。降参モードと言わんばかりに直立不動で瞳を閉じ、全てを受け入れますと言わんばかりの姿勢だった。
「まぁ、フルルちゃんはいいわよ?夏季休暇楽しんでたみたいだし、ちょこちょこ王都にはいたみたいだし、問題はニィリエよニィリエ」
「え?俺?」
アイン様に指さされ意外だったのか、目を開いて驚くニーチェさんを庇うように手をあげて答えた。
「まぁ、忙しいと思って私もあまり連絡しませんでしたし……」
「あらぁ気遣いができるいい子ねぇ、全ての私と仕事どっちが大事なのとかのたまう輩に聞かせてやりたいわ」
「一体どこで何を聞いたんだうちのお姫様は……」
そんなことを呟いたが最後、私ともども、もっといちゃつけという旨をこんこんせつせつお説教されてしまったのだった。
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