ぼんやり令嬢と雲行きの怪しい王宮案内
最初はやや疲れた表情を浮かべていたギャラン様に疑問符を浮かべていたアイン様だったが、その表情が、あぁなるほどといった納得の表情になるまでにそこまで時間はかからなかった。
「なるほどね……なるほど……」
「ですよねぇ」
アイン様のくらい納得に、私は悲しい同意しかできなかった。
というのも、ラフレーズ様がまぁギャラン様やニーチェさんに猛アプローチをかけていて、私たちは蚊帳の外のような雰囲気の中だった。
なんなら、アイン様が親切で来るように差配してくれた侍女さんも、少し冷めた表情を浮かべていた。
ルギオス様はただ淡々と、王宮内を眺めておりそこに関しては本当にありがたかった。
「アイン様、どうしますか?バックレます?」
「そうねぇ、美味しい紅茶でも飲む?そういえばアギラから桃の風味がついたお茶が届いてるんだけど……」
いつもだったら可愛らしくこらこらと怒るところなのだが、アイン様も何かにつかれているのか、あっさり同調してきて本来ここで軌道修正すべき私もそれをせず、話に乗っかった。
「アギラのお茶ですか、いいですね」
「ミルクティーにしても美味しいのよ、帰りに包んであげる……いいわよね?」
「はい」
私、アイン様、侍女さんと三人でお茶の話をし始め、さぁこの場からどう逃げようかと考え始めた途端に、話している内容に気づいたのか先ほどまでラフレーズ様に捕まりながらも、ルギオス様に説明しつつ、ギャラン様のフォローをするという高等技術を披露していたニーチェさんが、ものすごい勢いでこちらに振り返ってきた。
その表情は、他人から見たらわかりづらいがちょっとだけ辟易しているのが見えた。
「待て待て待て待て……」
「あら?どうしたのニィリエ案内頑張って?」
さーて、行こうかと私たちに振り返るとニーチェさんが、小さくうめいた。
「お願い、見捨てないで……」
「頼む、姉さん待ってくれ」
「やぁよ」
ギャラン様の言葉を聞いてふんっと可愛らしくアイン様がそっぽ向いて呟くと、ニーチェさんとギャラン様はがくりとうなだれていた。
「全くもういい男が情けない」
「まぁまぁ……仕事ですし……」
ここでラフレーズ様とルギオス様機嫌を損ねて、神殿との関係に直接溝とまではいかずとも嫌な噂なんてたてられたらたまったものじゃないということを、ニーチェさんは理解しているのだろう。
たまに私の方をチラチラとみていたり、困ったような笑みでラフレーズ様と接しているのをみてなんとなくそれは理解していたし、アイン様の誘いに乗ったのも、まぁニーチェさんとギャラン様がいれば王宮の案内は難なくできるだろうし、というだけでそこまでへそを曲げたわけでもないのはアイン様もそうだったらしく、うーんと首を傾げた。
「そうねぇ……でも仮とはいえ婚約者の前で他の女の子の相手ばっかりするような男放っておきましょ」
「……婚約者?」
婚約者というワードが引っ掛かったのかラフレーズ様が、やや冷たく少しだけ鋭ささえ感じさせるような表情と声で振り返るのとは反対に、アイン様は少し眠いのか、面倒くさいのか特に目を合わせることもなく、それまで私に向けていた優しさを削ぎ落した声で答えた。
「あぁ、聞こえた?……そうそう、貴女がさっきからずっと話しかけてるニィリエ・ハイルガーデン男爵子息は、私の秘書でこのフルストゥル・ベルバニア伯爵令嬢とは仮とはいえ婚約者同士よ」
アイン様のその説明を聞いた後に、ラフレーズ様の表情は更に冷たいものに変わり、私の方を見て、先ほどギャラン様やニーチェさんと話してた声とは打って変わって怖ささえ感じさせる声で、こちらに話しかけた。
「……隠してたの?」
「いや、隠すってそんな……」
ラフレーズ様の変わりように私は一歩後ずさって何とか言葉を紡ぐも、ラフレーズ様の瞳にはいら立ちが渦巻いていた。
何に対してそこまで苛立っているのか分からず困っていると、予期せぬところから助け船が現れた。
「ラフレーズ……いい加減にしないか」
「ルギオス様……」
まさか、ルギオス様が私とラフレーズ様の間に立ち、ラフレーズ様ではなく私を庇うようにそう発言したのが意外だったが、ラフレーズ様はそれも気に食わなかったのか食って掛かるようにルギオス様に答えた。
「ルギオス、でも……」
「でもじゃない、失礼なことをしているのはこっちだ……同期が申し訳ありません」
颯爽と、潔くこちらに頭を下げた後に、ニーチェさんとギャラン様にも頭を下げるのを見ていたアイン様が、仕方がないなと言わんばかりに浅く息を吐いた。
「いいのよ……でもちょっと止めるのが遅かったかもね?」
「……はい」
「あの、私は気にしてませんから……」
フォローのつもりでそういうも、ニーチェさんが小さい声で即答した。
「いや、気にして?」
「え?」
何を?と思っている私の顔を見てギャラン様は、ふっと悲し気な笑みを浮かべ、ニーチェさんの肩に手を置いた。
「無茶ですよニーチェさん」
「そっかぁ」
……馬鹿にされてるのは分かるけど、具体的に何を馬鹿にされてるのか分からず久しぶりの王宮の見事なシャンデリアをただ眺めることしかできなかったが、その後なんとか王宮の案内を終えることができるのだった。
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