ぼんやり令嬢の家族会議と遅すぎるお礼
フルストゥルが領地から首都に戻ったその日の夜。
ベルバニア伯爵邸の雰囲気は、普段の和やかな空気ではなく、どこかピリピリとした緊迫した、いや殺気に近い空気が流れていた。
その空気を放出してる主は、チェーザレ・ベルバニア伯爵。
フルストゥルの優しい理解者であり、良き父親ではある。
彼女の前で一切見せないような表情を、さすがに妻であるティルディア・ベルバニア伯爵夫人は、言及せずにはいられなかった。
「あなた、どうしたの?」
「ティア……昨日一昨日とフルストゥルが来てただろう?」
「そうねぇ、私は実家に用があって会えなかったけど何かあったの?」
ティルディアの問いに、チェーザレは深い深いため息をついた後、フルストゥルが持ってきた証拠の数々と、今まで受けてきた仕打ちを説明した。
そして一度深くため息をついた後、アメジストのように美しい紫の、凛と吊り上がった長いまつげに縁どられた瞳には、明らかな怒りが浮かんでいた。
「いくらあの子はぼんやりしているとはいえこれは流石にやりすぎね。」
ティルディアは、自身の淡い金の髪をもてあそびながら、嘆息をついた。
活発で、社交的な性格であるティルディアと、内向的で人見知りなフルストゥルは、性格が真反対でありことあるごとに衝突。
・・・というよりかは、なにかと目についてしまうのだろう。
特に、フルストゥルのどこかのんびりしたところとか、全くと言って競争心がないところ、他人にあまり興味がなさすぎるところに対し、あまり理解をできない節があるせいか、少し厳しい目線でみているものの、流石にレヴィエの行動は度を過ぎていると思ったのだろう。
「あぁ、私はてっきり仲がいいと思っていたから正直驚いてしまったよ。」
まさかここまでひどいとはと落胆を隠さずにチェーザレ俯いた。
「流石にフルストゥルでも最低限のことはしてたわよ、というかさせてたんだけどね。
それで役目果たしてないと言われてもそもそも学院に入学するだけでいいって話だったでしょう?」
「あぁ、そうだ元々は学院を卒業するだけでいいといわれていたからな」
チェーザレは頭を抱え呟くと、それを知ってか知らずかティルディアは続けた。
「フィリアとは話すけどアレとあっても挨拶くらいしかしなかったしね。
まったく何が娘さんをお任せくださいよ本当に」
自身の勘の悪さと、レヴィエの性格のゆがみに呆れたと言わんばかりに、頭を抱えたるティルディアに、チェーザレは流石にレヴィエがやったことがやったことのせいか、侯爵子息のことをあれよばわりしたことを指摘する気は全く起きなかった。
とにかくフルストゥルが、自分の娘にこういうのもあれだが、あんな毒にも害にも絶対ならないような子に、本来しなくてもいい努力。
それこそ、長女であるツィリアーデよりも厳しい淑女教育を受け。
人見知りだというのに、あんな大きな学院に入らされて、それだけでも心配でたまらなかったのに。
頼りにしていた婚約者の、不貞や言葉の暴力、怪我をさせられかけるなどなど、その心労は計り知れない。
多分良くも悪くも、そういう悪意にそこまで敏感じゃないし、いろんなことに疎いおかげか最悪の事態は避けられたが、あまり感情をあらわにしない子があんな泣きそうになるのは、本当にいつぶりだろうか。
それを思い出し、チェーザレはさらに怒りがこみ上げたが、そんなチェーザレの気持ちを察したティルディアは傷だらけの手を包み込み、優しい言葉を投げかけるわけではなく。
チェーザレ同様の、怒りがにじんだ表情で告げた。
「とりあえずさっさと侯爵家と話つけに行きましょうか」
「あぁ、そうだな。」
ベルバニア伯爵夫妻はお互いの手を取り合い、大事な大事な末っ子を傷つけた侯爵家をどう料理してやろうかと、当事者であるフルストゥルよりも、過激な思想を脳裏にめぐらせていた。
そんなことはつゆ知らず。
ベルバニアの末姫こと、フルストゥルは、のんびりと学院の準備をしながら、いつぞやから借りたままになっていたフロルウィッチのミントグリーンのパジャマワンピースを、洗濯とアイロンをして紙袋に入れ、明日の私忘れるなよと念を押していた。
そしてそのおかげか、忘れることなく登校することができた。
もしかしたら気のせいかもしれないが、お父様に話して心がだいぶ軽くなったせいか、目覚めはだいぶすっきりしていたがそれを見たオルハに。
「まさか、朝は暗殺者みたいな目つきに定評があるお嬢の瞳がぱっちり綺麗に開いてるだなんて」
と割と失礼なことを驚きながら言われた気がしたので、電話片手に一言告げる。
「……エマに電話しようかな?」
「すいませんなんでもありません、お嬢カフェモカ飲みますか?飲みますよね入れてきます。」
「なるはやでね~」
エマって優しいのに何がそんなこわいんだろうか、と思いながらも穏やかな気持ちで学院へ向かった。
「ベルバニア伯爵がそう言ったの?あまり想像できないわね」
シャロに領地のお土産、ベルバニアの葡萄ジュースを渡し、実家での話をすると、シャロは苺色の瞳を大きく見開いた。
どうやらお父様は基本社交界に出てこないし、たまに来ても野心とかなく、ただ淡々と仕事をするだけして帰るだけだから、はたから見たら冷たい人にみえるそうな。
言えないですよ、お父様基本こっちのほうに友人とか少ないし、私と一緒で人見知りの気があるだけなんだけどなぁ。
と口にはせずシャロに答えた。
「まぁ証拠が証拠だからかな?とりあえず大きな壁が一個終わった感じだよ。ありがとうね」
「私はなぁんもしてないわよ」
「いやでも弁護士事務所のときの……」
「ん?あれ?あれは返さなくていいのよだって初回相談無料って言われて返されたもの」
「えぇ、知らなかった。」
本心から驚き、ウィンターバルドさん良心的すぎない?っていう気持ちと、シャロが一時でも、何かを失ったわけではないことに、とても安心していると、シャロは少し口を尖らせた。
「……もしかして返そうとしてたの、相変わらず律儀ねぇ」
「不義理はしたくないんだよぉ」
「まぁそういうところ好きだけどね」
「え?大丈夫結婚する?」
「しないわよ~」
「そっかぁ~」
いつも通りの、もはや鉄板と言っても過言ではないほどのやり取りをして、いつもより和やかな気持ちで授業を受けれたが、相変わらず属性魔法とかの話はあまりよくわからないままだった。
正直、魔法と錬金術と呪術の違いも微妙に分からないんですよね。とマオ先生に言ったら。一瞬眉間に皺を刻まれた。
……申し訳ないねぇ、劣等生で、でもそろそろ先生も慣れてね。
「すいません、今日はちょっと用事がありまして。」
「あぁ大丈夫ですよ。」
臨時募集は、基本出勤したら出勤した分お給金をもらえるが、週何回来なければいけないという決まりは特にないが少しだけ申し訳なくなってしまった。
なんなら担当さんの優しさが痛い。
学生だものね、むりしないでねと、心配されお菓子も渡されてしまった。
「あの 今日の分になるかはわからないですけど、週末でここまでは縫ってきました。」
いいながら、実家でのんびりしながら、少し異国の縫い方や模様に興味を持ち、ひたすら縫い続けた結果。
食事の際に使う布コースターにする刺繍は、一人分のおおよそのノルマの大半が終わったので、せっかくならと提出したら驚かれた。
「え?こんなに?しかも難しい模様ばっかじゃない助かるわ、これは残業分で加算しておくわね」
「ありがとうございます。」
なんだかんだ、加算強いてくれるようで助かるな。
お金はやっぱ大事なのでありがたい、そんな思いで頭を下げ、そのまま王都のメイン道りにあるフロルウィッチへ向かった。
可愛いなぁ、何か普段着を買おうかなと思い、しばらくぼんやりしていたがしばらくしてようやく。
あぁ違う違う、そうじゃないって今日はお買い物じゃないんだって。と頭を振ってお客さんが少なくなったころ、ようやくなけなしの勇気をだして優しそうな女性の店員さんに声をかけると、あの雨の日にお風呂に案内してくれた店員さんで、スムーズに話はトントンと進んだ。
「わざわざ返しに来てくれたのね?ありがとう」
「いえ遅くなってすいません、お口に合うかわかりませんが、地元の紅茶とお菓子を入れておいたので、皆さんで召し上がってください」
「あら、ありがとうね」
そういうと、店員さんは嬉しそうに微笑んだ。
それを見て、喜んでもらってよかったという気持ちと、怒られなくてよかった、という気持ちでまぜこぜになった。
「よかったらゆっくり見ていって、新作が出たばかりだから」
店員さんはそういうと、ゆっくり持ち場に戻っていった。
そういえばこうやって、服を見るのも久しぶりだな、どれもこれも可愛らしい服をみて、心が潤されていくのだった。
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