ぼんやり令嬢と波乱の予感
「そういえば、今日は交流生が来るんだって?」
伯父様の問いかけにすこしウトウトしながら頷くと、伯父様は心配そうに首を傾げた。
「そんなに心配しなくてもいいと思うけど、昔は結構、私生児とか孤児が多くいたみたいでね……。しかもその頃は、今よりそういった人たちへのあたりも強かったからね」
まぁ、今は薄れているけどと付け加えた後にゆっくりと珈琲を飲んだあとに、心配からくるため息を吐いた。
「あれ?でも王室との関係はずっと良好……ですよね?」
思わず、首をかしげて問いかけると、伯父様はうぅんと一度天井を見てからこちらに向き直った。
「前王妃が神官だったしねぇ……それに、王室派や古参派の家門のほとんどは機関に寄付しているのを、上層部は分かっているんだけど……。それを、末端までわかっているとは思えないんだよね」
「そういわれると急に心配になっちゃった」
私がそういうや否や、胃薬をさっと出してくれるリノン、流石仕事が早い……と感心していると、横からオルハが現れ呟いた。
「お嬢、学校休みます?」
「いくよぉ……流石にぃ」
それは流石に、とカバンを持つ私を見て、エマが全くもうと腰に手を当てて、ほほを膨らませ前かがみに伯父様に言った。
「まったく、ヴォルフラム様、お嬢様を怖がらせるのはやめてください」
「えぇ……ごめんって」
いつもよりマイルドな怒り方で、可愛いなぁと私はほのぼのしているが、エマの身体能力を知っているせいか、伯父様は冷汗をかいていた。
「まぁ、あんまり関わらないように頑張ります」
「流石です」
にこにこと、リノンが私に答えるの横で満足そうに頷くオルハとエマを見て、伯父様ががっくりとうなだれた。
「君らさぁ、僕が言うのもあれだけど甘やかしすぎじゃない?」
「「だまらっしゃい」」
まさか、そんな即座にばっさりとエマとリノンに伯父様は、ながい睫毛に縁取られた瞳を大きく見開いて驚いた。
「だまらっしゃい!?」
思わず珈琲を吹くんじゃないかと思うくらいびっくりしている伯父様の後ろにある柱時計を見て、私はゆっくりと立ち上がった。
「あ、いってきます伯父様」
「え?あぁ……うん」
呆気にとられる伯父様を背に、オルハの送迎で学院の正門に着くとシャロは今日、交流生がくる関係でいないのを思い出しとぼとぼと迷子の子供のように歩いていると、見覚えのある長身の男性が目に入った。
「ニーチェさん」
「おはよ、フルル」
思わず駆け寄ると、ニーチェさんはよしよしと頭を撫でた後にすぐ本題に入った。
「今日、交流生がくるだろう?学院が終わったら、王宮の案内をするから来てくれって」
「わかりました」
そういえば昨日いわれたなぁと反芻し頷くと、ニーチェさんはよしっと笑顔を浮かべた。
「うん、じゃあまた迎えに来るからな」
「はい」
……と、甘くもなんともない普通のやり取りなのだが、私とニーチェさんの関係をうっすらとしか知らない方々は、あらあらまぁまぁと何やら言いたげな視線を向けられて、なるほどこれが穴があったら入りたいてやつね?
もしくは、今すぐ帰りたいってやつですかね?とほほという気持ちで、好奇にもよく似た視線を受けてようやく教室に入ると、あれ?いつもより教室暗くない?と思うのと同時にギャラン様の不在に気が付いた。
「おはようございます」
「あ、レベッカ様、リーセ様おはようございます。」
「シャルロット様は交流生の説明を受けにギャラン様と」
「はー、なるほどありがとうございます。」
疑問がすんなりと解消され、ようやく席に着いて、のんびり読書をしていると、シャロとギャラン様が教室に入ってきた。
「シャロ、ギャラン様おはようございます」
「おはよう、フルル」
「おはよう」
二人が席について一息つくのと同時にふと、疑問を口にしてみることにした。
「そういえば二人とも交流生の方とはお会いになられたんですか?」
「会ってないわねぇ、少なくとも私は」
シャロがため息交じりに答えると、ギャラン様も何とも言えない表情を浮かべて口を開いてくれた。
「俺も、なぁんか説明ばっか受けてるけどな」
「そうだったんですか」
意外だな、もう会ってるかと思ったのに、というか先んじて交流してる方が色々と円滑に進みそうだなぁとも考えるけど、色々あるんだねぇとしみじみしていると、朝礼の時間を知らせる鐘が鳴り、ふと耳を傾けるといつもより足音が多いことに気が付きあまり関わらないからいいや、と日和見していた割には気になっているんだな、私と、変な自己分析が終了するのと同時に、重そうなわりに案外軽く開けれると定評のあるドアが開いた。
「皆、揃っているな」
マオ先生がいつもと同じように淡々と朝礼をはじめたが、その内容はいつものものと変わっていた。
「さて、休暇前にも言ってあったが今日から神官養成機関から交流生が二名編入してくる、短い間だがよろしく頼む」
先生の言葉に全員が頷くと、視線で先生はドアの向こうへ視線を移し、交流生たちが入ってきた。
一人は金髪金眼の、清潔感のある凛々しい、いかにも聖職者といった雰囲気を持った少年。
もう一人は、赤髪赤目の可愛らしい、どこかのお姫様と言われても信じてしまいそうになるほどの可憐な少女だった。
「では自己紹介を」
マオ先生が促すと、金髪の少年が一度、教室を私の考えすぎかもしれないが、すこし軽蔑のような視線で見てから口を開いた。
「ルギオス・マクシミリアンです。よろしくお願いします。」
ルギオス様の自己紹介が終わると、今度は少女がにっこりと可愛らしく微笑んでから口を開いた。
「ラフレーズ・ドミニオンです。よろしくお願いいたします。」
そして、先生が空席……一つはギャラン様の隣にルギオス様が、もう一つがシャロの隣に行くように言ったがここでラフレーズ様が私を指さしてこういった。
「そこの貴女、席変わってもらっていいかしら?」
「え?私?」
まさか自分が指さされるとは思っておらず素っ頓狂な声をあげるも、マオ先生は淡々とラフレーズ様に告げた。
「……補助者の隣に座るようにと機関から言われている、よっぽどの理由がなければ変更はできない」
ばっさりと告げる先生に流石だなぁと思う気持ちと、別に替わるけど?と思う自分がいたが、ラフレーズ様があっさり納得したため、その場は何とかなったが、なんとなく大丈夫かなぁと不安になったのは私だけではないらしく、隣のギャラン様を見てみると困ったような笑顔を浮かべていた。
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