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ぼんやり令嬢とくしゃみと姉の威光

マクシミリアン子爵令嬢と別れて、アイン様に連れられて、ホールへと向かっている最中、その光景を反対側の廊下から見る人物がいた。


「あれは……」


「あぁ、アイン第一王女ですよ……おや、珍しいベルバニア伯爵令嬢まで……そういえば夏季休暇終わったんですね。」


 王宮の案内係であり、神殿との伝達も務める初老の神官が、珍しそうに呟くと、それまですたすた歩いていた、長い金髪に同じ色の瞳をした少年が立ち止まった。

 


「ベルバニア伯爵令嬢……」


「おや、知っていましたか?」


 意外そうな表情を浮かべる神官に対し、少年はそっけなく答えた。


「……いや、妹が狩猟祭で世話になったみたいで」


「そうですか」


 神官はそれ以上、少年のそっけない態度や、事の詳細に触れずに歩みを進めようとすると、今度は可愛らしい声が聞こえた。


「……じゃあ、あの、王女の側にいる人は?」


「あぁ、ニィリエ・ハイルガーデン様ですよ……王女の秘書であり護衛です。若いですが、かなり仕事が出きるともっぱらの噂ですよ」


「……王女の秘書……」


 少女の意味深な視線と、間に思わず神官は一度振り返った。


「なにか?」


「いえ、素敵な方だなぁと」


 少女の素直な感想に、男性は悪気なく笑った。


「ははっ違いない、なんせニィリエ様は、あの見た目でしょう?実は王宮内でもかなり人気なんですよ」


「へぇ」


 じっと、横を向いている二人を見て、こほんとわざとらしく咳ばらいをしてから二人に向き直った。


「さぁ、明日から学院生活ですし、宿舎に戻りましょう」


「はい」


そうして、宿舎に行く途中、神官はふと、ニィリエ・ハイルガーデン男爵子息とフルストゥル・ベルバニア伯爵令嬢が婚約者候補という、ほぼ婚約者同士の関係であることを教えたほうがいいのか悩んだのは何故だったか、理由は分からないままだった。


 その同時刻、反対側の廊下にて――。


「「へっくしょん」」


「あら、くしゃみまで仲良しなのねぇ」


 くしゃみをするニィリエとフルストゥルをみて、アインは不思議そうに首を傾げた。


「年ですかね?」


「え?私も?」


 流石に聞き捨てならないと間髪入れずに言うと、アイン様は笑顔で答えた。


「ニィリエのは否定しないけど、フルルちゃんは栄養不足ってことで」


 ご飯食べてますよ、大丈夫ですよという前にニーチェさんが、ちょっとだけ拗ねたような表情を浮かべた。


「いいんですか?そんなこと言って、いい年した男が泣きますよ?」


「好きにしなさいよ」


「ひどくない?」


 相変わらずの、妹に弱い兄みたいなちょっとだけかわいいニーチェさんを堪能した後に肩を軽くたたいた。


「大丈夫です。ハンカチの貯蔵は充分です」


「えぇ…普通にありがたいけど何で……?」


ニーチェさんの疑問に答える前に、ホールに到着すると、広いはずのホールは色んな商人が、各々の商品を広げていた。

 布系の小物や、動物の毛皮、宝石からガラス細工だけでなく多岐にわたる品に目移りしながらも、この中からリーセ様のプレゼントを選ぶのか、と少しだけ気が遠くなってしまうのと同時に、私たちが入った途端、商人さんたちはいっせいにこちらを振り向いた。


 「王女殿下…………に、ベルバニア伯爵令嬢!?」


 「?え、あぁはい」


 皆さんのあまりの驚き様に一瞬、あっけにとられてしまったがニーチェさんがこっそりと耳元でささやいた。


 「ここにいるほとんどの商人が、ロンドリーナ商会と懇意にしてるんだよ」


 「あぁ、お姉さまの」


 「そゆこと、まぁ最近になって知ったんだろうけど」


 ニーチェさんの言葉に、それもそうかと頷いた。

 確かに懇意にしている商会の長の妹が急に来たら構えるよなぁ……。私だったら視察か?視察なのか?ってなるだろうし、と商人さんたちが少し気の毒になってしまった。


 「あの、別に、お姉さまや侯爵様に何も言いませんけど……」


 気にしないでいただけると……と付け加える前に、アイン様がにっこりとほほ笑んだ。


 「ふふ、いい機会だから色々と紹介してもらおうか?」


 ね?と、まるでお姉さまのように優しく言われ、一瞬見とれてしまったが何とか頷くと、アイン様が手を引いて色々とみていると、ロンドリーナ商会のハンドクリームやボディクリーム、せっけんなどが目に入った。


 「新作ですか?」


 「ええ、今までの製品より、より保湿成分にこだわってまして」


 「ただでさえすべすべになるのに?」


 「えぇ、こだわりました」


 すごいな、流石、美に並々ならぬ関心を持つお姉さまが取り仕切るだけあるなぁと頷いていると、アイン様も深く頷いた。


 「すごいわよね。フルルちゃんのお姉さん」


 「ありがとうございます。自分でも同じ遺伝子を持っていることが不思議でなりません」


 「堂々と言うんじゃないのそんな悲しいこと」


 よしよし、と頭を撫でられた後に、色々と眺めた後、ようやくリーセ様へのプレゼントが買えてよかったとほっとしていると、

 とある商人さんたちの声がふと耳に入った。


 「はぁ……これで首の皮がつながった……」


 「何かあったらツィリアーデ様に何をされるか……」


 その噂話を聞き、改めて姉の偉大さをひしひしと感じたのだった。


 その後、リーセ様にアイン様から転入祝いを無事渡し喜んでくれたそうで、本当に良かったと安堵を超え、軽い感動を覚えた。


あぁ、平和、何と平和な日常だろう……。

なんて、休暇前よりそう感じるのは、色んなことが終わったからだろう。

 のほほんとした気持ちで、その日はゆっくり眠ったのだった。

いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。

いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。


お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。

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