ぼんやり令嬢は王女へ報告するそうです。
「ふぅん、じゃあリーセは大丈夫そうね」
アイン様のサロンに案内され、仕事……ではなく、王室御用達のお茶を飲みながら、今日一日のリーセ様の様子を簡単に報告すると、アイン様は漸く安心したのか紅茶に口をつけた。
「はい」
「それにしても、大変ね明日には交流生が来るんでしょう?」
「まぁ、あまり関わらないかもですし大変なのはシャルロット嬢と殿下でしょう」
少し冷たいかもしれないけれど、シャロを通さないと関わることも少ないだろうという思いからの言葉だったが、アイン様はけろっとした表情で続けた。
「でも、フルルちゃん人見知りよね?」
「うぐぅ……」
「いたいとこ突かれたなぁ」
その言葉に、思わず胸を押さえると、ニーチェさんは衛生兵のように側に来て、ただいつもどおりに頭を撫でた。
「突くを超えて貫通してます」
「致命傷だなぁ」
よしよし、と頭を撫でた後に、ニーチェさんはアイン様に答えた。
「それにしても、神官候補生との交流ですか……」
「まぁ、学院とは違って養成所は適正さえあれば色んな立場の子がいるからね」
「あー……馴染めますかね?」
それすなわち、主に貴族の子息や子女が主に通っている学院において、彼らは少数派……。
あまり周囲では見ないが、階級や生まれだけで相手を見るものも少なくない。
それどころか、新興貴族を快く思わない方々もいるという……。
まぁ、平民の方々が多くいる学舎、割と離れてるし、貴族が平民を虐げるといった場面はあまり見ないけど、それは同じ空間にいないからなだけであって、同じ空間にいたらどういったことが起こるのか、悪い方に考えるときりがない。
流石に、神殿との関係もあるから害するとかそういうことはなさそうだけれど、人間って理性だけじゃどうにもならないときあるしなぁとか、好き嫌いはあるしなぁと考えこんでいると、アイン様がにっこりとほほ笑んだ。
「まぁそこはギャランに頑張ってもらいましょう……っていいたいところだけど、明日その子たちに王宮の案内頼んでもいいかしら?同じクラスの子がいたほうがいいと思うし、シャロちゃんよりフルルちゃんの方が詳しいと思うんだけれど」
「そうですか……頑張ります。」
「まぁニーチェもつけるから、なんなら侍女もいるし」
「あぁ、安心です」
「信頼されてるようで、何より」
ニーチェさんがいてくれるの本当に助かる~。
いや、ギャラン様が頼りないとかではなく、王族に助け求めるのはなんなんだってだけで……
あと、やっぱり同性の方がいてくれるのも助かる~。
相変わらずアイン様、そういった気遣いしてくれるところありがたいと思いながら、紅茶に口をつけた。
「そういえば、フルルちゃん最近やけに下級生に慕われているんだって?」
「あぁ……まぁ……」
そうそう、やけに狩猟祭後に転んだのを助けた令嬢が、登校する私を見つけるたびにわざわざあいさつしに来るのだ。
「たしか……マクシミリアン子爵家の……あそこも複雑よねぇ」
「そうなんですか?」
「まぁ、フルルちゃん達みたいな一般的な貴族家庭と比べたらって感じかな」
「なるほど……」
正直、狩猟祭で聞いた話、最近なんやかんやあって、平民として暮らしていたところを子爵家に引き取られたとだけ聞いたけれど、変な話貴族社会では珍しくない。
それを嫌というほど知っているアイン様が言及するほどだとしたら、相当こんがらがっているんだろう。
気にならないと言えば噓になるが、ここで変に人様の家のことを探るのは、ましてや、望んでいないとはいえ、自分を慕ってくれている後輩の家となればなおさらだった。
「聞かないの?」
「聞いて、私が解決できるのなら」
即ち、聞きませんという意思表示にアイン様は、予想があったったと言わんばかりにゆっくり頷いた。
「賢明ね」
「いえ、興味がないだけです」
全くではないけれど、と内心で付け加えて返事をすると予想の範疇だからだろうか、それ以上何か聞くわけでもなくアイン様は柔らかく微笑んだ。
「そうだ、私からリーセに転入祝いを渡そうかと思っているのだけれど何がいいか一緒に選んでくれる?」
丁度、商人が来てるのとアイン様に促される私と、それを後ろから眺めつつ、ついてきてくれるニーチェさんとでサロンから、商人たちが集まっているホールへと歩いていると、突如背後から、この優美な王宮には似合わない足音が聞こえた。
「あっ……フルストゥル様」
「うん?」
「噂をすればなんとやらね」
アイン様の言葉の通り、そこにいたのは、狩猟祭後何かと私を慕ってくれるマクシミリアン子爵家の令嬢だった。
「えぇと……私に何か用ですか?急ぎであれば……」
「あぁ……そういうわけではなくて……」
じゃあ何の用かなと、首を傾げていると助け船を出すかのように自然と間に入ってくれた。
「ははっ憧れの上級生がいて、気がはやっちゃったかぁ?怪我しないようにな」
「すっすいません」
その様子を見て、相変わらずニーチェさんは空気を換えるのがうまいなと感心しながらも、自然と疑問が口からこぼれた。
「でも、どうしてここに?」
そう、確かに王宮は一部一般開放されている部分もあるが、私たちが今いるここは、基本、何も手続きがなければ入ることはできないし、この子にそういった手続きをしてまで、ここに来る理由が分からなかった。
「えぇと、実は兄に会いに来ていて……」
「そうだったんですか……学院にいるとき、普通に話しかけてくれて大丈夫ですからね?」
「ありがとうございます。フルストゥル様」
そうして頭をすごい勢いで下げるマクシミリアン子爵令嬢を見て、何時ぞやのエフレムさんが脳裏をよぎるのだった。
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