ぼんやり令嬢と見知った転入生
「先生、ひどくない?」
いや、戦いの火ぶたを、あらかじめ除去する見事な危機管理能力ですけどね?と思いながら、マオ先生を庇うように思わず口を出してしまった。
「まぁ、交流生のこともありますし」
「うーん、そうかぁ」
少しだけまだ不服そうな表情を浮かべた後に、ギャラン様は小さく呟いた。
「リーセ様、馴染めそうだな」
「ですね、まぁこのクラス治安いいですし大丈夫でしょう」
「治安って……まぁそうか」
確かに、ギャラン様が、力の抜けた笑みを浮かべると同時に、朝礼が終わったのだった。
朝礼が終わると同時に、リーセ様がにこやかな表情を浮かべ、私のところまで来てくれた。
その表情は狩猟祭の時のような少し、威厳を感じさせるような表情ではなく、年頃の少女らしさがそこにはあった。
「フルストゥル様、お久しぶりです」
「リーセ様も元気そうでよかったです」
傍から見れば自然な遠縁同士の会話だろうけど、まさかこれが元皇后と接待係の会話だなんてわからないだろう。
わかるとしてもギャラン様、ないしはマオ先生だけだろう。
ちなみに、イブリス皇后とばれないかどうか少し心配だったが、皇帝がアシュリー様を寵愛していたせいか、皇后があまり目立っていなかったのと、レイラントとそこまで交流がなかったせいかその心配は薄い。
それに、そのためにわざわざこちらに戸籍を移し、貴族としての家名まで用意したのだから当たり前といえば当たり前だった。
「そういえば、遠縁なんですっけ?」
「ええ、おばあさまのご実家の……」
「へぇ、フルルのおばあ様、北部の方だったのね……それにしてもドミートリィとベルバニアって結構離れてない?」
「あぁ、おじい様が戦争の時に北部に派遣されたのが出会いのきっかけだったんですって」
「なるほど……」
こういうと、意外とキャシャラトって、つい最近まで戦争あったんだなぁと痛感する。
確か、お父様とお母様が若かりし頃もあったと聞いたし、それでなくなった家も多くあるらしい。
……平和な時代に生まれたことに感謝だなぁとしみじみと考えていると、シャロがリーセ様に向き直った。
「あぁ、ごめんなさい……私はシャルロット・ロゼットロア、北部から来てなにかと大変だと思うし、何かあったら何でも言って?」
「私はレベッカ・ガリアーノと申します。仲良くしていただけたら幸いです」
「ありがとうございます。」
レベッカ様とシャロとリーセ様が、挨拶しあうほほえましい場面を、心の底から目の前に妖精と姫しかいない花園かな?なんて思いながらひとまずの安心を得たのだった。
ひとしきり、授業……というより休暇あけてすぐだからか、課題提出と今後の授業の軽い見通しなどを聞く程度のオリエンテーリングのようなものが終わり、お昼休みを迎えた。
基本、私たちがリーセ様と一緒にいるせいか、周りのクラスメイトは遠巻きに眺める程度だったが、ぱっと見た感じ悪い雰囲気は感じなかったので、そこまで心配することも無いだろう。
「それにしても 北部から首都は変化が多いでしょう?リーセ様はなれましたか?」
「えぇ まだ完全にではないですけど」
「大丈夫ですよ 私なんてまだ慣れてないですし」
リーセ様に親指をあげて少し得意げに言う私を見て、シャロはがっくりと肩を落とした。
「頼むから一回大丈夫って辞書でひいてくれない?」
「シャロの頼みなら仕方ないなぁ~」
シャロにすり寄る私を見てレベッカ様は困ったようにほほ笑んだ。
「違う そうじゃないって思うのは私だけなんでしょうか…」
「いや、全員だけど?」
「シャロぉ?」
真顔で、瞬きする間も与えずに言い切るシャロに、驚く私を見てリーセ様はそれを、まるで猫のじゃれあいを見ているかのようにほほえましくて仕方がないと言わんばかりの表情で眺めていた。
シャロの言葉にバッサリ切られながらも、楽しそうなリーセ様を見てよかったなと心の底から思うのだった。
「そうだ、学院の案内なんだけど、明日交流生がくるからその時でもいいかしら、今日は色々と疲れたでしょうし」
「えぇ、お願いします」
確かに、今日は慣れない学院生活一日目で疲れただろうし、その方がいいだろうと私も小さく頷いたあとに、そういうことならとシャロに一応の確認をするべく、手を挙げた。
「じゃあ私もいたほうがいい?」
「そらそうよ」
「はーい」
何を当たり前のことを、と言わんばかりのシャロに答える私を見てリーセ様はにこにことほほ笑むのだった。
そして、午前同様軽めの授業が終わり、リーセ様の様子も報告すべく私は王宮へと向かおうとすると、校門の前にはニーチェさんが待ってくれていた。
「ニーチェさん」
「フルル、お疲れ 行こうか」
「あれ?今日……」
お迎え頼んだっけ?と思って首を傾げていると、ニーチェさんは少し大げさに肩を落とした。
「迎えに行ってあげなさいって怒られてな」
「あぁ、お疲れ様です。」
可愛らしく怒るアイン様が容易に想像できてしまったのはニーチェさんと何とも言えない表情を浮かべるのだった。
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