ぼんやり令嬢と休暇明けの朝礼
「おはようございます」
「おはよう」
夏季休暇明けの学院では、どこもかしこも久しぶりにあう級友と言葉を交わし談笑する様子がちらほらと見えた。
「久しぶり、フルストゥル嬢」
「お久しぶりです。ギャラン様」
……相変わらず眩しいな、このお方は、と鞄を下ろしながら事実に打ちのめされつつ着席すると、ギャラン様は珍しくさらに続けた。
「編入生のことだけど、一応フルストゥル嬢の遠縁だから、気遣ってやれって姉さんが」
暗にリーセ様のことだろう。
一応、遠縁とはいえ親類という設定だからそのことも含めてだろう。
ギャラン様も彼女が皇太子妃の頃から知っているから、アシストはするだろうけれど、異性で、しかも誰もかれもが目を引き、とにかく目立つ上に、王太子であるギャラン様が表立ったら逆に周囲と軋轢を生みかねないし、そうなると、ささやかながら私が主にかかわったほうがいいだろうと、一度頷いてから口を開いた。
「はい、勿論そのつもりです」
「ははっ心強いな」
軽い笑みだが、慣れてる私以外だったら何かを失いかねん、とぎりぎり目を瞑らずにこらえて居ると、まるで助け船のようにシャロが控えめにギャラン様に、声をかけた。
「ギャラン様、そろそろ」
「あぁ、もうそんな時間だっけ?」
まるで示し合わせたかの会話を目の前でされ、何も疑問に感じない程大人ではなく、小さく手を上げた。
「シャロ?何かあるの?」
「交流生と編入生が来るにあたっての注意事項とか説明……一応、成績上位者が面倒見ることになってるからね。学年主任のところに呼ばれてるのよ」
「あぁ、そうなんだ。頭がいいと大変だねぇ」
本心からの感想を呟く、そうシャロは、文系レポート作成がちょっと苦手なだけで、私とは本当に比にならないくらい頭いいんだよなぁ、あとギャラン様は相変わらず父親に似てできないことないんでしょうか……。
努力はしてるんだろうけど、流石王族と思ってしまうのは失礼だろうかとも思ったが、ギャラン様はそうは受け取らなかったらしく、不思議そうな表情を浮かべていた。
「……何かフルストゥル嬢がいうと、嫌みに見えないの不思議だな」
「純粋な感想だからじゃないですかね?さ、いきましょうか」
「了解」
どこかのんびりしたギャラン様を、言葉で引っ張るように促すシャロを見送ると同時に、レベッカ様が教室に入ってきた。
「おはようございます」
「おはようございます。フルストゥル様とはなんだか久しぶりってかんじがしませんね」
「そうですねぇ、あれからお元気でしたか?」
「ええ、見てのとおりです」
のんびりとした会話をした後に、レベッカ様は教室を見渡してから、こちらを振り向いて呟いた。
「全く、交流生たちが来るというのに狩猟祭の話題ばかりですね」
「まぁ大きな行事でしたしね」
「仕方ないと言えば仕方ないんですかね?」
少し、うんざりと言わんばかりの表情を浮かべるレベッカ様を見て、改めて教室を見渡すと、確かに男子生徒らは少し浮足立っているように見えた。
その様は、最近男性と言ったら身内とニーチェさんとばかり関わっていたせいか、子供だなぁとまではいかないが、若いなぁと、ほほえましさまで感じてしまい、レベッカ様ほどの呆れは感じなかった。
「若いっていいねぇ」
「……同い年なんですけどね?」
ふぅと肩を落としレベッカ様はため息をついてから続けた。
「今回のことでここまで盛り上がるなら、もしマナガルム公爵家や剣聖ウゼル様が健在だったならどうなってしまうんでしょう」
マナガルム公爵家も、剣聖の話も、あまり聞きなじみもなく首を傾げているうちに、朝礼の時間になったのだった。
「おはよう……よし、ギャラン様とシャルロット嬢以外、全員いるな」
マオ先生は、教室を見渡した後、どこかほっとしたような表情を浮かべた後に、教卓の前に立つと、それまでざわざわしていた教室が一瞬で静かになった。
相変わらずこのクラス、切り替ええぐいなぁ……と思っていると、ふと教室のそとに見覚えのある美しい金の髪が見え、それがリーセ様だと気づくのに時間はかからなかった。
「交流生の紹介の前に、今日から正式に皆のクラスメイトになる……入ってくれ。」
そして入ってきたのは学院の制服に身を包んだ春の女神こと、リーセ様が入るとクラスは一瞬その美貌に見惚れるのを眺め、それはそうなるよなと、謎の後方彼氏面を決めながら、美しいリーセ様の制服姿を目に焼き付けた。
「リーセ・ドミートリィです。よろしくお願いします。」
リーセ様が頭を下げるのと同時に、教室のあちこちから拍手が湧き、それを見てリーセ様は心のそこから嬉しそうな表情を浮かべるのだった。
「彼女はずっと北部の領地にいたから色々と不慣れだと思う……皆、助けてやってくれ」
マオ先生のその言葉にクラスのほぼ全員が頷いたり、返答していると丁度、説明が終わったのか、シャロとギャラン様が後ろのドアから入ってきた。
「丁度いい……困ったことがあったら、シャルロット嬢や遠縁であるフルストゥル嬢を頼るように」
「はい、ありがとうございます」
「先生、俺は?」
無邪気に問いかけるギャラン様に、マオ先生はふぅと肩を落としてからギャラン様の方を見て呟いた。
「……トラブルの原因になりかねない」
「え?何で?」
相変わらず、この王太子無自覚すぎるなぁと、心の中でマオ先生と同じ何とも言えない表情を浮かべるのだった。
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