ぼんやり令嬢は自制をするそうです。
これは穏やかな国外追放だよなぁ……。
そもそも、大事にはしていないから、公には大きい罰を与えられないけれど、リーセ様のいう名目でレイラントに送ってしまえば、表面上はと納得しているとさらにリーセ様、いや今はイブリス皇后と呼んだ方がいいだろう、彼女が更に妃殿下に話す。
「申し訳ないですが、レイラントまで彼らを移送する船を用意するのに、時間がかかるかと」
「いえ、それはこちらで出しましょう」
「ありがとうございます。それから……」
その後もこまごまと色々と話していたが、妃殿下もイブリス皇后も、ロイエンタール皇帝の方を見るわけでもなく、終わったのをみて、いやいやいや、ここまで優秀な方、何冷遇しちゃってたんですかあんたって人は、とロイエンタール皇帝を心の中で叱咤するも、最終的に、私何でここにいるんだろうという、シンプルな疑問が浮かんだのだが、それを見通したのであろう妃殿下が、にこにこと口を開いた。
「だって皇后と一緒にいたのに、置き去りにするのもねぇ」
という、割と平和な理由だった。
ありがたいといえばありがたいけれど、それより、私がこの場にいることの、緊迫感のが上回ってない?とも思ってしまったが
そこは居合わせた自分の運のなさかなぁトホホと、うなだれながらも、ロイエンタール皇帝をちらりとみると、唇を噛みしめつつイブリス皇后を、恨めしそうとも受け止れる表情で見てるのが見えたが、それを知らんぷりしているイブリス皇后と同調して、妃殿下に視界を戻した。
「そういえばなんだけど……フルストゥル嬢、リーセの学院いりの話は聞いてるかしら」
「はい」
「そう ならよかったわ。来期からフルストゥル嬢と同じクラスになるから、仲良くしてね」
「はい……はい?」
いま、とんでもないことをさらっと言わなかったかい?と、いつもと違う語尾で考えているせいなのか、動揺が顔に伝達されて、いつもより多くまばたきして言葉を失っていると、妃殿下はまるでいたずらが成功した子供のように、可愛らしく笑ったあと説明を始めた。
「正確にいえばギャランがいるからって言うのが大きいんだけどね。あのクラスは根っからの王室派が多いから、私たちも安心できるしね。なにより、優秀なロゼットロアの長女もいるし」
「なるほど わかりました」
そういえば、普通に過ごしていたせいか見落としがちだけれど、私のクラスって、すごい人が多いんだよなぁと思い返すのと同時に、いや、でもよく私をあのクラスにぶち込めたなブランデンブルグ……。
賄賂?賄賂なのか、やっぱりまぁあの頃はお金ありましたもんね、と没落の一途を辿った元婚約者一家を思い返した後に、当たり前だが、王妃に認知されてるシャロすごいなぁと感心した。
「学院入り?」
それまで黙っていたロイエンタール皇帝が、信じられないという表情でこちらを、というよりリーセ様を眺めていた。
「ええリーセは17歳だし、学力も問題ないし、学院に入れる年齢でしょう?今まで同年代と関わったことがないみたいだしいい機会じゃない?」
「それは……」
そうだけれど、と言いよどむ皇帝に、妃殿下はほほ笑んだ。
「何か問題があるかしら?」
その笑みは相変わらず美しいけれど、含まれた冷たさの中にある棘には、お前は口出しするなと言っているように聞こえたのか、皇帝はそれ以上口を挟むことは無かった。
「リーセ、もうレイラントとかかわりがないのに、いい案を出してくれてありがとう。感謝するわ」
「いえ お役に立てて何よりです」
リーセ様にほほ笑んだ後に、皇帝を見たその瞳には失望の色が濃く映ったのは、気のせいなのだろうか……。
いやこれ以上変な勘繰りはやめておこうと、妃殿下に促されるままその場を後にした。
「ふぅ」
広間を出た途端、緊張感から解放されたせいか、割と深いため息を吐いていると、リーセ様はくすくすとほほ笑んだ。
「気疲れしますよねぇ」
「あはは……」
聞かれてた、ちいさく言ったつもりなのにと、気恥ずかしくなってしまうと同時に、そういえばと気になったことが口から出た。
「リーセ様、17歳なんですか?」
「ええ、そうなんですよ」
そういってほほ笑むリーセ様は、とても愛らしく映るがその美貌のせいなのか、はたまた自分が子供っぽいせいなのか、いや後者かな?だって美人なレベッカ様と並ぶと、お姉ちゃんと妹みたいになるし……と、ぐるぐる考え事をしていると、今度はリーセ様が首を傾げた。
「そういえばお話に上がったロゼットロア公爵令嬢って、どんな方なんですか?」
「……控えめに言って、この世に舞い降りた天使ですかね」
「え?」
いけないいけない、シャロが天使とはいえ事実とは言えいきなり感想がすごい方向にいってしまったと自制し、一度咳ばらいをした。
「こほん、ロゼットロア公爵令嬢は聡明で愛らしいお方です、それにとても正義感も強いですし……」
それにそれにと付け加えて、シャロのことを説明しているのを、リーセ様はうんうんと子供の話を聞く先生のように、聞いてくれるのを見て、またしまったと自制しようとすると、リーセ様は優しく声で言った。
「フルストゥル様がそこまで言う方なら、信頼できますね」
「……ありがとうございます」
急に早口になってしまったことにひくわけでもなく、本心からそういっているリーセ様に、心から感謝しながら歩いているうちに、リーセ様のお部屋に着き、そこで別れると先ほどまでいろいろあったせいか、不思議と心にぽっかり穴が開いた気分になったのは、最近忙しすぎたからかなと納得したあとに、折角王宮にいるし何か仕事しようそうしようと、アイン様の元へと向かうと、意外そうな表情を浮かべていた。
「あれ 、フルルちゃんもう戻ってきたの?」
「はい」
「寄り道しないで偉いねぇ」
よしよしとアイン様から撫でられるのを甘んじて受けているとニーチェさんが心配そうにこちらを覗き込んだ。
「というか本当に休んでなくて大丈夫か?」
「あー、家にいるとみんなに気を使われすぎて……。逆に申し訳なくなるというか」
「それだけ心配されてるってことよ。まぁ、体動かしてる方が楽なら止めないけれど」
「はい、なんか一人でいると、色々考えちゃうんで」
それこそ、枕だけでなくベッドごとぬらす勢いで泣き散らかすか、逆に天井見てぼーっとしたまま過ごすかという、貴族令嬢としてというか、人としてかなり限界な一日を過ごすことになるだろうし、多分、その状態にみんな心配しすぎて、混沌とした雰囲気になってしまうのが、予想できてしまった。
本当、リノンをはじめ、ベルバニアから来てくれた三人だけでなく、アーレンスマイヤの人々たちにも大切にされてるなぁと思うのと同時に、沢山心配かけている事実に、申し訳なくなってしまった。
「……この後って仕事ありましたっけ?」
「ん?ないわよ?」
「じゃあ、ちょっと俺ら外出してもいいですか?」
「そうね。せっかくの一般開放の日だしいってきたら?」
アイン様がそういうのと同時に、ニーチェさんは私の手を取った。
「よし 行くか」
「……え?あぁはい」
相変わらずニーチェさんは足が長いなぁとか、のんきなことを考えていたせいか、それともみんなへの申し訳なさからなのか、反応が少し遅れてしまったけれど、その場の誰も、私の遅さを咎めることは無かった。
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