強気な公爵令嬢は水面下で動く。(シャルロット視点)
今回はフルストゥルの親友通称シャロことシャルロット視点でお送りします。
「あぁ、婚約破棄したいなぁ」
シャルロット・ロゼットロア公爵令嬢は、この時は驚いた声をあげたものの。
心の中で、あぁようやくかと思っていた。
というのも、フルストゥルがしびれを切らす前から、シャルロットはレヴィエのことを心の底から軽蔑していた。
「シャルロット様、申し訳ないんですけど一緒にきてもらっていいですか?」
それは一年前、偶然フルストゥルが婚約者であるレヴィエ・ブランデンブルグに、授業でわからないところをきくという建前で、数年振りに会いに、あのフルストゥルが、人見知りでずっと私としかしゃべったことのないような内気な子が、なけなしの勇気を振り絞って上級生の教室に行ったとき。
あろうことか、レヴィエ・ブランデンブルグは、沢山の女生徒に囲まれて今度の休日どこに遊びに行こうか何て話をして盛り上がっていた。
それだけならまだ、情状酌量の余地があったものの、絶対にフルストゥルが目に入っているのにフルストゥルの元へ来ることも、話を止めるわけでもなく、令嬢たちと話すのをとめるわけでも、体をよせる令嬢を振り払う様子もなかった。
「レヴィエ様、この前のパーティー楽しかったですね。」
「そう、ならよかった。また呼ぶからきてよ、今度は別荘地でも行かない?」
「えーいいの?」
きゃあきゃあ、と盛り上がる光景とは逆に、フルストゥルの瞳には大きく失望が浮かんでいた。
それもそうだろう、きっと知り合いが誰もおらず、人見知りで心細いなか、唯一の幼なじみを未来の伴侶を頼ろうと思ったら、自分以外の大勢の女性に囲まれ、自身を無視されたらそうもなるだろう。
「ちょっと……」
「あ……大丈夫、シャルロット様」
思わず喧嘩腰になってしまった私を抑えて、フルストゥルは答えた。
「もう、大丈夫です。」
その日以来、彼女は上級生の婚約者のクラスに行くことはしなくなった。
わからないところは、私に聞くか担任に聞いたりして自己解決をするようになった。
婚約者に期待をすることもやめたのか、色んな令嬢と一緒にいても微動だにしなくなった。
それでいいのか、と聞いたらフルストゥルはきょとんとした顔で
「そもそも家同士が勝手に決めた婚約ですから」
と前置きをしつつ、溜め息を吐いたあとぽつぽつと続けた。
「単に交遊関係が広いだけかも知れないですし、もしかしたら本当に好きな方が出来たのかも知れないですし」
「……好きな方が出来たのかもってもしそうだったらどうするの?」
「その時はお互いの家に相談して円満に解消するのがいいかな、と」
淡々とした口調でそう言い切るフルストゥルを見て、あまり傷ついてなさそうだな、と思い安心しつつも、だったらこの子の努力はどうなってしまうのだろう。
なんて同情のような気持ちになった。
フルストゥルの話によれば、婚約が決まったことで本来期待されてなかったのにも関わらず、厳しい淑女教育をあの社交界の華であるティルディア様に叩き込まれる。
毎月必ず、手紙とプレゼントを義務とはいえちゃんと婚約者に送り続けた。
さらに言うなれば、首都ではなく、領地に近い学園でのんびり過ごしたかった彼女を、無理やり王立学院に入学させ要らない苦労をさせた。
端からみて理不尽すぎる現状だというのに、一切怒りもしないフルストゥルが、心配でたまらなかったが、事態はそれだけで収まらなかった。
たまに珍しく夜会であったと思えば、フルストゥルとは一曲踊るだけで放置なんてザラで、最悪フルストゥル不在のなか、彼女以外の令嬢を伴うことなんてよくあった。
まぁ人見知りだし、社交は苦手だといっていたフルストゥルは、逆によかったなんて笑うくらいだったが、到底許せることではないだろう。
しかも意味がわからないことに、わざわざそれらをフルストゥルに見せつけたり、会うたびに嫌みを言ってくることだ。
別にフルストゥルはそれらに対して、非難したわけでもなんでもなくただ静観していただけ。
静観しつつ、黙々と婚約者の役目を勤めていただけで、むしろ感謝すべきなのにわざわざ見せつけて何がしたいんだろうか。
好きな子をいじめる子供でもあるまいし・・・。
「……いや、まさかねそんなわけないか。」
「どうしたの?」
「何でもないわよ、マリアン様」
そうシャルロットの目の前にいるマリアンに告げると、マリアンは肩を落とした。
「様はいいわよ、本来だったら私貴女と口も聞けないんだから。」
「じゃあお互い楽に喋りますか。」
「…で私だけ呼んだってことはもしかして敵討ちってやつ?」
「マリアンさんはしっかり謝った、フルルはそれを許した。それで終わりよ私の出番ははなからないない」
まぁ、殴ってたら別だけどね?と心のなかでだけ悪どく笑うも、それを抑えつつ疑問符が消えないマリアンに問いかける。
「ねぇ マリアンさんってレヴィエ様と付き合い始めた頃って婚約者がいること知らなかったのよね?」
「えぇ そうよ?で何回目かのお出掛けの時に私にしか言えないんだけどって婚約者がいることと関係がもう冷えているんだって悲しい顔で言われて……あとはシャルロットさんが知るとおりって感じ」
シャルロットはやっぱりねぇ、と納得しながら紅茶を一口飲んだあと、さらに続けた。
「じゃあ、もし最初からレヴィエ様に婚約者がいるって分かってたら、彼処まで親密にはならなかった?」
「そんな酷いこと平気で出来ないわよ」
シャルロットの予想通り、マリアンはレヴィエとフルストゥルの関係を知らなかった。
後に知ったときも、レヴィエからもう関係が冷えきっている。
だの、本当に好きなのは君だけだ。
みたいなことを言われたのだと。
マリアンはきっとそれを真に受けて、レヴィエを婚約者から解放するくらいの正義感で、突っ走った。
その結果、レヴィエはフルストゥルを守ったヒーロー……。
多分、フルストゥルはそんなこと微塵も思っていないのは分かりきっているが、もしわざとそうなるように仕向けたとしたら、この件の被害者はもちろんフルストゥルだけではなく、マリアンもレヴィエの下らない自尊心の為に踊らされた被害者だろう。
「マリアン様、上級生の間でレヴィエ様に婚約者がいるのを知っているのって…」
「ごく僅かだと思う、誰もその事で咎める方いないし みたこともない」
マリアンは首を横にふると
「婚約者がいるのに親密にするのって貴族社会だと物凄く良くないことなんでしょう?」
マリアンの素朴な問いにシャルロットは深く頷いた、お互いが公認黙認していても第三者からみたら心証はかなり悪いのは明らかだし当たり前だが悪評が広まるだろう。
「……私自分でも愚かだったなって思うんだけど、いやだからこそかな」
マリアンはそういうと、シャルロットの瞳をみて告げた。
それこそ、シャルロットの求めてる言葉だった。
「私みたいに、レヴィエ様に婚約者がいることを知らないで踊らされる人はもう出てほしくないなって」
シャルロットは、マリアンのその言葉を待っていたとばかりに、可愛らしく頬杖をついてほほ笑んだ。
「……もし、わたしがその術を知っているといったら乗る?」
そうして、マリアンはただレヴィエに謝った。
そう、この国の高位貴族の子息や令嬢が多く所属するクラスで、彼らが見ている前で。
そうしてしまえば、噂はあっという間に拡散され、上級生らにはほとんどしれわたった。
本来、レヴィエはマリアンを責めたいだろうが、それも出来ない。
なぜなら、マリアンはただ謝っただけである。
どこの世界に、ただ謝っただけの人間を攻撃できるだろう。
そうして、レヴィエ・ブランデンブルグの評判が落ちるなか、あえてフルストゥルにはそれを教えず、シャルロットは普段どうりに過ごしながらも、裏で沢山の証拠を手に入れながらフルストゥルよりも先に、ペルシュワール法律事務所と連絡をとって証拠のバックアップを取っていた。
「なぁ、お嬢さん お嬢さんはどうしてそこまであのこのためにがんばるんだ?」
と、敏腕弁護士であるウィンターバルド・ペルシュワールに問われ、シャルロットは堂々と華やかに告げた。
「あら、この程度のことで?」
そう微笑むシャルロットの潔さに、ウィンターバルドは目を見開いたが、すぐに納得したように微笑んだ。
「いや、悪い 野暮だったな。」
言いながら、ウィンターバルドは目の前の少女はきっと、社交界を手玉にとることなんてたやすいんだろうと、感心しつつ恐ろしい少女だなとも、目の前にいる生まれながらにしての正当な権力の使い手に嘆息してしまった。
「ところでこれってあちらの有責になりますよね?」
「ここまであったらもはや言い逃れは出来ないだろう、勝ち確定だ」
レヴィエ・ブランデンブルグの評判を落としながら、証拠を保全。
なおかつ、社交界で今までのフルストゥルの努力を軽く演技しながら拡散することで、シャルロットの思った通り、全てがフルストゥルにとって有利でしかない状況まで作り上げた。
ちなみにこのことを後々知ったフルストゥルに驚かれ、崇拝されかけたのはいつも通りの展開だった。
そのうちもっと詳しくシャルロットはフルストゥルがどうしてこんな仲良しになったのかも書けたらいいな、と思ってます。もし読みたいなと思った方はいいね、ブクマ等していただけるとモチベーションにつながるのでよかったらお願いします。
いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。
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