ぼんやり令嬢と帰り道雑談
歩き始めたはいいものの、来る時より門番さんの、何とも視線を受け続け、もう何なんだろうかという思いで振り返った。
「あのぉ、何かあります?」
「いや……」
……うん、嘘だろうよ、それは。だったら何でそんななんか言いたげな表情でこちらに見てくるんだよぉ、もぉ、と言いたいのを抑えるも、多分身分とかのせいもあって、自分から話しかけられないのかな、律儀だなぁと思ったが、普段、学院やアイン様の元だと、そこまで上下関係とか、身分とかきにしなくてもいい環境な上に、首都に来るまでは、淑女教育以外では本当に貴族かと、眉を顰められるくらいには、のびのびと使用人のみんなと、友人のようにのほほんと過ごしてきたせいか、こういったことにたまに鈍いけど、冷静に考えたら、話しかけるの躊躇うよね……。
心の中とはいえ、いぶかしんで申し訳ないという思いで、口を開いた。
「黙って歩くのもあれですし、おしゃべりしながら戻りましょうか」
「はい」
「……えっとぉ」
言ったはいいものの、何から切り出せばいいのか分からず沈黙してしまう自分に、またまた頭を悩ませてしまった。
私ってやつは本当……、学院ではシャロに話しかけてもらっていたし、最近はニーチェさんとばっか話していたし……。
ニーチェさん、私がどんなに喋るの遅くても待ってくれるし、否定とかもしないから、話すのがものすごい楽なんだよ……。あとアイン様も優しいしね。本当、最近甘やかされすぎだなぁ……。甘やかされた結果、これだもんなぁと、自分の残念さと、周囲への感謝が止まらなくなったと同時に、元婚約者が言ってた通り、私、一緒にいてつまらない女すぎない?今からでも、面白い女になれる方法、探した方がいいんじゃない?と頭を悩ませていると、門番さんが心配そうにつぶやいた。
「大丈夫ですか?」
「すいません なんか面白い話題もなく……うぅん……何か聞きたいこととかあります?」
もう、取り繕っても仕方がないか、うなだれながら、ほぼやけっぱちのような気持ちで聞くと、少し間を置いた後に門番さんは呟いた。
「聞きたいことですか……」
「……いいんですよないなら無いで」
我ながら言った後に、会ってそんな経たない小娘に、聞きたいことなんて、なくて当たり前だよねぇと、また虚しい気持ちに襲われた。
「……ベルバニア伯爵令嬢は、どうしてビクトワール子爵令嬢に、あのようなことを言われても、平気だったんですか?」
あのようなこと、というのはおそらく、婚約者に愛されなかったくせにとか、そのあたりの言葉だろうかと思いつつ、その答えはすんなりと出てきた。
「まぁ、事実ですしねぇ」
「……傷ついてないんですか?」
門番さんは一瞬だけ目を見開いたがそういった反応をされるのが意外でこちらも少し驚いた後に当時を振り返って子言葉を返した。
「どうですかね?確かに、蔑ろにされて何も感じなかったわけじゃないんですけど、嫉妬とかは全然しませんでしたし……。むしろ正直、好きな人ができたと言われれば、全面的に協力したんですけどねぇ」
正直、その方がどれだけよかったことかと、肩を落としていると、さらに質問が飛んできた。
「……ブランデンブルグ侯爵子息のこと、好きではなかったんですか?」
うーん、まぁ努力はしたんだけどなぁ……と頭痛を起こしそうになりながら過去を思い起こしてみた。
レヴィエ様、やらかす前は魔法の才能あり、美貌もあり、侯爵家の三拍子そろっていて、性格くらい目をつむれよ、つむれよ?と自分に言い聞かせて、色々と我慢というかなんというかはしてきたけれど、流石に、他人に迷惑をかけるのはダメだろうと、マリアン様のことがきっかけとはいえ多分薄々、もう無理に寄り添おうとするのは限界だし、何より、私たちのせいで悲しむ人を増やしたくないなぁとか、婚約破棄したら、レヴィエ様も堂々と女生徒と遊べるし、私は、社交界のあれこれとかから解放されるし、多少痛手はあるけれど、割と最善なのでは?と正規の手続きを取った……って、ずれてるずれてる、と脳内で軌道修正をした。
「好きとかは無かったというか……、そういう感情が生まれる前に、決まった婚約でしたから……」
だから、好きとかはあんまり考えてなかったなぁと自分でも思い返して、少し意外に思うと、門番さんは、何とも言えない表情でこちらを見ていた。
というかこんな痴情のもつれというか、過去の傷というか、黒歴史を聞かれるとは思ってなかったなぁ……。
聞きたいことどうぞといった手前、やめてくれって言うのはあれだしなぁと考え、逆に質問をしてみることにした。
「門番さんは 好きな人とかいますか?」
「……いました」
いきなり、とんでもない地雷を踏みぬいてしまった……。思わず一気に血の気が引いてしまった。
「……すいません」
「いえ、死別してるわけではないです。ご安心を」
「あぁ、そうなんですね」
よかった、と言いかけたのもつかの間、いやいやいや、よかったのか?どう考えても失恋、ないしは離れてしまっているのが確定しているのに、よかったもなんもないよな……と、硬直している私を見て、門番さんがゆっくりと口を開いた。
「ベルバニア伯爵令嬢……私の話を聞いてくれますか?」
「え……えぇ 聞いていいのなら……」
まるで罪人が罪を告白するような表情と、重々しい声にたじろぎながら答えると、重い深呼吸の後に話し始めた。
「自分には、幼いころからの婚約者がいたんです」
「へぇ……」
意外な共通点にやや間抜けな声を出してしまったが、それに気づかずに彼は続けた。
「……彼女は人見知りで、それに小さい、守らないといけないと思うような存在だったんです」
「ほぉ……」
なるほど、深窓の令嬢ってやつなのかなと脳内で勝手にイメージを膨らませながら耳を傾ける
「幼い頃は、そんな彼女を守ってやらねばと思っていたんです……けど」
「けど?」
おいおい、空気変わったよ……やめてよ、ここから、ものすごい不穏なことになる流れじゃない……、とある種の覚悟をしていると、その後の言葉は予想外なものだった。
「親の期待や周りの環境に流されて、何も悪いことをしていない彼女に、つらく当たるようになってしまったのです。彼女はそんな私にも、婚約者の義務だからと手紙や贈り物をくれたり、パーティーに出席してくれたりしていたんです……。それなのに私は……結局、愛想をつかされたのです」
「うぅん……」
すまない、申し訳ない、ここまでいろいろしてくれた門番さんよ……。それは、どう考えたってあなたが悪いよ。それは愛想つかすよ……、と大きい声ではいえない、というか、声には出せないけれど、表情には出ていたんだろうか、門番さんは苦し気な表情になった。
その表情をみて、どうにか場の雰囲気を温めるために、自分的には、驚異的な速さで言葉を選んだ。
「過ちに気づいて、認めることは難しいことです。でもそれができるなら大丈夫ですよ」
「……ありがとうございます」
あっでも謝罪はしないとだめですよ?というのを忘れたが、まぁ他人の事情に、そこまで首つっこむのも……。というか、本当にぽっとでの私に、頭ごなしに言われるのも嫌だろうしなぁ、というセーフティがかかり、その言葉が音として出てくることは無かった。
それにしても、こんな真面目な人の過去が、まるでレヴィエ様っぽいのが意外だなぁと思ったのと、同時に、彼を突き放した婚約者に幸あれと願うばかりだった。
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