表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
167/302

ぼんやり令嬢は同級生に挨拶するそうです。

あっけなく杞憂は消え去り、私たちも開会式のために、パーティーホールへと向かうことになった。


 「それにしても、今更過ぎる悩みだったわねぇ」


 「今まで気にしてなかったというか……。そんな余裕なかったというか」


 アイン様の指摘に唸っていると、ニーチェさんは苦笑していた。


 「まぁ、嫌われてないならなんでもいいよ」


 「うぅぅ」


 あまりにも優しい声色に、申しわけなく思うも、それすら見透かしたニーチェさんは続けた。


 「まぁ色々考えてくれてありがとうな」


 「ご心配おかけしました……」


 「あんまり頭下げすぎると髪乱れるぞー」


 「はいー」


 何度も頭を下げて、少しだけ乱れた前髪をニーチェさんが軽く直してくれ、心の中でそういうところですよ……。

普通の女子なら、こんなことされたらうっかりときめいてしまうところを、何とか持ちこたえ、平常心ですよという、表情を取り繕っているのを見て、アイン様は相変わらず、穏やかな笑顔を浮かべていた。

 

 「あぁ、おはよう」


 「お父様」


 ホールに着くと、陛下が、穏やかにアイン様に声をかけると同時に、ニーチェさんと頭を下げ、二人のやり取りを流し聞きしていた。

 こうやって聞いていると、普通の親子に見えるし、アイン様も年相応に見えるなぁ……。

あ、いま頭下げてるから見えないけど、なんかこう、雰囲気的なものですよ……と、弁明していると、陛下からお声がかかった。

 

 「君たちも、頭を上げていいよ」


 「はい」


 頭を上げると、陛下は満足そうに頷いてから、相変わらず、底知れない雰囲気を漂わせながら、笑顔でこちらを見ていた。


 「君たちのお陰で、今日を迎えることができたよ。ありがとう」


 「もったいないお言葉です」


 多分、表面上のお礼かもしれないけど、そもそも、陛下からこうして、直接言葉をかけられるだなんて、一年前の私だったら、全然想像もつかなかっただろうし、そこに真心まで求めたら、贅沢なんてもんじゃないのよ……と、考えていると、陛下は笑顔のまま続ける。


 「いやいや本心だよ?君のお陰で色々と早く片付いたし、色々面倒ごとも解決したしねぇ」


 「そうねぇ、今年は徹夜もなかったし」


 「いえ……えっとぉ」


 買いかぶりすぎでは、と思いながら否定するのもと思った矢先、徹夜してたことがあったんだという、純粋な驚きが混ざり合って、どう返したらいいんだろうと悩んでいると、陛下はそんな私の反応は無視して、満足げに頷いていた。


 「いやぁまさか、レイラントの話もうまくいったし、幸先良いねぇ」


 「……陛下なら、もっとうまくできたんじゃ……」


 「いやぁ、皇后の呪いとかもろもろわかってたけどね。格下と思っている君に指摘された方が、あそこで本性出すだろうし?それになかなかギャランからは言えないしねぇ・・・国際問題になっちゃうし?」


 「なるほど……」


 確かに、言えないよね、国交問題になっちゃうし。

 それに私が気に障ることいったとしても、ここで怒ってうっかり殺したり、暴行を加えるなんてできないしねぇ……。やっぱり、私みたいな凡人ではわからないけど、あれはあれで、最適解だったのかと脱帽した。


 「まぁ解決の仕方は色々あるんだよ」


 「なるほど……」


 「まぁ、フルルちゃん平和主義だもんねぇ」


 よしよしとアイン様に撫でられ、陛下の考えに感銘を受けていると、ホールには前夜祭とはちがい、騎士のような動きやすい衣服をまとった貴族や、ドレスや正装に身を包んだ令嬢や、貴婦人が集まっていた。


 「さて、じゃあそろそろ開会式としようか」


 陛下はそういって壇上へ上がっていき、私たちはアイン様の側に控えた。

 ……まさか、自分が壇上にいるだなんて、幼い私に教えたら絶対、嘘だと思うだろうなぁと、遠い目になりながらも短くも雑ではなく、むしろ簡潔に、それでいて高貴さは忘れさせない陛下の開会の言葉が終わり、全員が狩場へと向かって行った。

 こういう所を見ると、おじい様が言っていた、陛下は最初から王として生まれてきた方、といっていいただけあるなぁと、深く頷いてしまった。


 「さて、私たちも向かおうか」


 「はい」


 そうして 王族用の竜車に乗り 狩場……ではなく王族の休憩所について、ようやく 本当に今更だけれど、今日が狩猟祭なんだという自覚が、急に背中から這い上がってきて、しなくてもいいはずの緊張に襲われてしまった。


 「フルル 大丈夫か?」


 「ちょっと緊張してきました……」


 「まぁ人、多いしなぁ。それに初参加だろ?無理もないって」


 「ありがとうございますぅ……」


 「ふふ、でも、私たちの仕事は、もうほとんどといっていいほどないから、肩の力抜こうね」


 そのために今まで準備してきたし、とアイン様が言うと、ニーチェさんもそうだなと頷いたあとに、いつものように雑談をしたせいか、嫌な緊張感は少しだけ和らいだところで、各々の家からか騎士の方々か、今回の狩猟祭に力を入れてるかたがたの円陣やら、気合の声が聞こえてきた。

 

 「おぉ 盛り上がってるなぁ」


 「そうねぇ」


 「いい声でてますねぇ」


 どこか殺気立った声とは真逆に、のどかな雰囲気で話しているのを見ていたギャラン様は、どこか気の抜けた表情を浮かべ。


 「完璧に他人事なんだよなぁ」


 その呟きに他人事なんですよねぇ……。自分は参加しないし、と言葉には出さずに頷くことで、肯定していると、ギャラン様は何かに気づいたのか、目を少しだけ見開いた。


 「あ、レベッカ嬢じゃないか?あれ」


 「え?レベッカ様?」

 

ギャラン様が示した先には、深い緑色の騎士服に身を包んだレベッカ様がいた。いつもおろしているつややかな黒髪は、一つに束ねられており、腰にはレイピアを差していて、まさに、凛々しく美しい女騎士といった風貌で、思わず見ほれて、心の底からの声が欲望と共にあふれ出た。


 「レベッカ様かっこいいぃぃ」


 そんな私の様子を見て、アイン様はそうねぇと頷いていたが、さらにその後ろでギャラン様がやや憐みの表情で、ニーチェさんの肩に手をおいて静かに、本当に小さな声で告げた。


 「……苦労しますね」


 「うーん、まぁ喜んでるならいいかな?」


 「はい?」

 

 何か失礼しでかしたかな、と心配になって振り返るも、ニーチェさんは、やさしく首を横に振った。


 「なんでもないよ 時間もあるし少し喋っていくか?同級生もいると思うし」


 「そうねぇ 大会がはじまっちゃうとなかなか会えないと思うし……いっておいで」


 「ありがとうございます」


 そうして、私は各家門のテントがある中、それも、大人数の中を、どうにか服や髪が乱れないように、ガリアーノ家の紋章のテントへ行くと、レベッカ様が一瞬でこちらに気づいてくれた。

 

 「フルストゥル様」


 「レベッカ様」


 まじかで見るレベッカ様はそれはそれは美麗で、凛々しくて戦乙女といった雰囲気で息が止まりそうになったが、レベッカ様はそれを知ってか知らずか、にこにこと、教室で見せるような笑顔を見せてくれた。


 「かっこいいです」


 「ありがとうございます。あ、見てください。タッセルちゃんとつけたんですよ」


 そういって、剣の柄についてるタッセルを見せてくれ、思わず、恋する乙女のように顔を赤らめてしまった。


 「ありがとうございます。嬉しいです」

 

 そのあとも軽く話していると、テントからお父様よりかやや若い男性が現れた。


 「おや……君は」


 「お父様、この方フルストゥル・ベルバニア伯爵令嬢です」


 「あぁ、娘から話は聞いてるよ。いつもありがとう」


 意外と友好的な、ガリアーノ伯爵にほっと胸を撫でおろしていると、レベッカ様は笑顔のまま、伯爵に告げる。


 「お父様、フルストゥル様が怖がるので、引っ込んでてくれます?」


 「え?あぁ……すまない」


 レベッカ様に言い負かされるその姿に、いつも、お母様に一方的に、いろいろ言われているお父様が重なって見え、少しだけ何とも言えない気持ちになったのだった。

いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。

いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。


お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ