ぼんやり令嬢と狩猟祭の始まりの始まり
昨年はお世話になりました
今年は体調などに気を付けつつ のんびり更新していけたらなぁと思います。
今年もよろしくお願いします。
前夜祭の後、久しぶりにベルバニアのタウンハウスに戻り、お父様やお兄様……。
最近なぜか、攻撃力が減ったお母様と、お姉さまとディルフィニウム侯爵様とで、軽食をつまみながら歓談をした後に、部屋に戻り、少し興奮していたせいか、なかなか寝付けず本を読みつつ紅茶を飲んでいると、上品なノックと共に聞いだけで緊張する声が聞こえた。
「フルストゥル……今、いいかしら」
「お母様?はい……大丈夫ですけど」
あぁ、いやだなぁ。
最近やや攻撃力が下がったとはいえ、絶対小言じゃないですかこれ、じゃあ断れってなるけど、これ断ったほうが怖いんですよねぇ、と半ばあきらめ、健やかな胃とサヨナラして、お母様を部屋に招いた。
「また本を読んでいたの?」
「……はい」
またって言われましても……と思いながら、腰を掛ける母に、なるべく目を合わせないように頷いた。
どうせ陰気とか、また言われるんだろうなぁと思ったが、以外にも追撃は来なかった。
「最近 ハイルガーデン男爵子息との仲はどうなの」
「どう……とは」
質問の意図が分からずに首を傾げると、お母様は少し煩わしそうにため息をついた後、言葉を続けた。
「喧嘩とかしたりしてないかしら、ぞんざいに扱われていたりだとか」
「まさか、とても優しくしてもらってます」
ぶんぶんと手を振ると、お母様は安心したようにため息をついた。
「なら、いいんだけれど……」
でも、と付け加えてお母様は続けた。
「フルストゥル……。ニィリエ様が悪い人とは私も思っていないわけどね。あんな奴との後だから、余計、いい人に見えてる可能性もあると思うの……」
「大丈夫です。舞い上がったりなどいたしません」
要するに反動で、ものすごく分厚い盲目フィルターがかかっているのでは、と心配らしい。
確かに、あんな人の後じゃニーチェさんじゃなくても、後光がさすレベルで、ものすごくいい人に見えてしまうのは、無理もないなぁと思い、お母様のいうことには素直に頷いた。
「あと、気になっていたのだけれど、このまま、男爵子息と婚約しても後悔はない?」
「へ……?」
一体、何の話だろうと言わんばかりに、間抜けな表情をしていたのだろう、お母様はため息をついた後に、小さく呟いた。
「……少し、気が早かったかもしれないわね」
「あまり、深く考えてなかったです」
そもそも、ニーチェさんは未だ婚約者候補……。
つまり正式な婚約者ではないが、側にいても咎められない曖昧な立場。
よくよく考えれば、わけわからない立場なんだよなぁ。しかもこの期間中、私はもともと男性が苦手なのと、長年の習性であまり不便には思っていないけれど……。
ニーチェさんは、恋人作れないという大きすぎるデメリットが……、いつも振られる側とはいえ、まだ数か月だが、貴重な時間を奪っていることも思い出して、ようやく自分が、どれだけニーチェさんの負担になっているかを、思い知らされた気分だった。
「急ぎではないのよ。でももし、このままこの関係をずるずる続けた結果……」
「二人とも傷つく……ってことになりかねませんもんね……考えます」
「そう、わかっているならいいの」
「はい」
「明日 怪我しないようにね」
お母様はそれ以上言及するわけではなくそれだけ言った後、部屋を後にしたのを確認して、思わずため息が出てしまった。
それはお母様の言葉が煩わしいだとか、そういうのではなくて、ただ自分と、ニーチェさんの立場だとか、どれだけ、ニーチェさんの自由を奪っているだとか、そういうことに、全く気付かなかった自分に呆れてしまった。
凹むほどではないが、何とも言えない気持ちと今後のこともあるし、今度、アイン様も含めて相談しなければなぁと思う反面、もしニーチェさんが、心底迷惑がっているとしたら、どうしようという思いが混じっていたのは、それだけニーチェさんの優しさが、知らず知らず、ささくれた心にしみていたんだろう。
少し冷めてしまった紅茶をゆっくり飲んでから、ゆっくり眠りについた。
そして迎えた翌日、支度のために、学院に行く時よりやや早起きをしたのだが、相変わらずオルハに
「相変わらず、人ひとりくらい闇に葬ってきた顔っすね」
と言われたが、毎回思うのは、人葬った人見たことあるのか、見たことあったとしても、どこで見たんだろうと聞きたかったが、まだ眠気交じりのせいか、それが音として発せられることは無かった。
「お嬢様 おはようございます」
いつ見ても変わらないリノンの挨拶に頷いた後、顔を洗ってようやく目が開き、眠気が少し冴え、テーブルに置かれた朝食に手を付けた。
「みんなはもう食べたの?」
「食べましたよ」
「そっかぁ」
もそもそと食事を食べ終わる頃、ようやく伯父様が起きてきた。
「おはようフルル、はやいねぇ」
「伯父様おはようございます。はい、仕度とか打ち合わせがあるので」
「大変なんだねぇ……無理しないようにね」
「はい」
まだどこか半分夢心地なのか、いつもより、ふわふわした口調のまま答える伯父様を横目に、リノンは、てきぱきと支度をしてくれている。
相変わらず手際がいいなぁ、と呆けていると、エフレムさんが手首にバングルをはめてくれた。
「お嬢様 ニィリエ様がいるから大丈夫だとは思いますが気をつけてくださいね」
「うん ありがとう エフレムさん」
私がそうお礼をいうと優しく微笑んだ後、リノンが頷きつつ心配そうにつぶやいた。
「それにしても、初めての参加が運営側というのも、なかなか異例ですよね」
「……言われてみれば?」
確かに、というか、今まで出席してないのもちょっと、貴族令嬢として大丈夫なんだろうかと、本当に今更過ぎる心配と、本当にそんなこと考えてもなかった……。
むしろ、大人数のパーティーを、回避できた喜びが強すぎた……ってこれもどうなんだろうと、呆けていると、オルハがぼやいた。
「あ、お嬢自覚なかったんですね」
「うん」
「そんな堂々と返すのお嬢だけなんですよ」
「オンリーワン……ってやつ?」
そうともいうのかもと、オルハが感心する横で、リノンが困ったようにほほ笑んでいた。
紅茶を飲んで一休みした後、王宮へつき馬車から降りると、少しだけひんやりした風を肌に受けふと前を見ると、まだ朝の澄んだ青い空気の中だが、国を挙げての行事だからか、人も多いし少しにぎやかさを感じ取った。
そんな空気感のせいか、こちらまで心がそわそわしてきたが、落ち着くために深呼吸をしたと同時に、聞きなれた優しい声が降ってきた。
「おはよう、フルル」
「ニーチェさん、おはようございます」
……あ、どうしよう。お母様とあんな話したせいか、少しだけ、どう接していいか分からなくなったかもしれない。
別に今まで、公衆の面前で、必要以上にさわりあったりだなんてしていないけど、今までの接し方であってるかなぁと考えていると、私が、大きな行事の前に緊張していると感じたのか、ニーチェさんは優しく笑った。
「大丈夫だよ そこまで緊張しなくても」
「う……はい」
……そうだ、今日は大事な行事なんだから、お母様のお言葉とかは、いったん頭の片隅に除けて、とにかくちゃんと仕事をしなければ、とどうにか頭を切り替え、アイン様の元に到着した。
「おはよう 二人とも 今日からがんばろうね」
「はい」
ここまで来るのに色々あったけれど、狩猟祭が今日から始まる。
いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。
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