偽皇后はその座を降りるそうです(リーセ視点)
今年 ラスト更新です。
今年色々ありましたが よんでくれた皆さま本当にありがとうございます。
年明けものんびり更新していくのでよろしくお願いします。
来年はぼんやり令嬢シリーズも書きつつ 短編なんかも書いてみたいなぁ などなど思っています。
とりあえず目指せ完結!!!
イブリス・ジークレスト・レイラント
それが私の《今の》名前。
本当の名前を呼ばれなくなったのは、お母さんが倒れてからは呼ばれていない。
父は私を政略の道具としか思っていない、だからこそ、私が疑わしく感じ、このようなまじないをかけたのだろう。
夫は私を疑い、虐げる。
死んでしまいたいと思うが、お母さんをのこしてはいけない。
一体、一体いつまでこの耐えがたき日々が続くのだろうか。
今回の外遊が終わってもきっとなにも変わらない、そう思っていた。
相変わらず、ロイエンタールは公爵家のものが疑わしいと、私にだれかつけるのを嫌うのと同時に、皇妃であるアシュリーを寵愛しているのを私に見せつけ、私の心を逆なでしたいのだろう。
……正直、好きでもないから不快でしかないけれど、そのせいで、他国に迷惑をかけるのはどうなのだろうと、思うと同時に、そんな風だから、ジークレスト公爵に足元をすくわれるんだと、冷めた気持になった。
そんな事情を知ってか知らずか、ソロン王妃様がいい笑顔で問いかけた。
「イブリス皇后、慣れない国で色々と困ってないかしら?」
「え……えぇと」
「よければ、皇后と年が近い子をつかわせましょうか?私の娘の、侍女候補の子なんだけれどね」
ほぼ彼女の中で決定したのか、その少女の説明を始めてくれた。
正直、不慣れな国で誰もそばにいないのは少し不安だったのと、少しの間でも、レイラントと全くかかわりを感じたくなかったから、ありがたかった。
しばらく用意された個室に現れたのは、海や夜空を思わせる色をした髪と、目が鮮やかで目を奪われたが、肩まで伸びた可愛らしくふわふわと波打った髪に、どこか猫のように吊り上がっているものの、怖い印象はないのは、少し垂れた眉毛のせいだろう。
ともかく彼女からは、当たり前だがこちらを軽蔑したような視線や、疑うような態度は見受けられなかった。
「あら……貴女がソロン様が言っていた…ええと…」
しまった 少し緊張していたからか、名前をうっかり忘れてしまい、言いよどんでいると、目の前の少女は、上品に礼をしてくれた。
「フルストゥル・ベルバニアと申します」
フルストゥル、なんだか詩的で綺麗な響きが、どこか楚々とした雰囲気を持つ彼女に、似合っていると思い、かなり久しぶりに本心からの言葉が口からこぼれた。
「フルストゥル……美しい響きの名前ですね」
「ありがとうございます」
ありがとう、ただそれだけの言葉だが、その言葉をかけられるのも久しぶりすぎて、少し涙が出てきそうになったのは、それだけ私の心が冷え切っていたからだろうか……。
そのあとも、彼女は暖かいお茶をいれてくれたり、ハンドクリームを塗ってくれたり、髪を整えてくれたり……。
当たり前と言われれば当たり前だが、皇室に入ってから、こんな待遇すらも受けられなかった。
ジークレストにいたころは、人間扱いをされていたのかも怪しいかった。
とにかく、久しぶりの優しさに、じわじわと凍った心が、とかされていくのを確かに感じた。
その後も、緊張している私を気遣ってくれた。
それだけでも嬉しい、充分だと思ったのに、まさか、父が掛けた呪術に気づいてあっさり解呪のきっかけをくれ、長年苦しんでいた呪術を解いてもらい、なんと、母の無事も確認できた。
まさに、すべての呪縛が一気に解かれて、あまりの身軽さに浮遊感さえ覚え、呼吸がだいぶ楽になった。
別室に通され聞いた話によると、母を保護したのは、私たちがレイラントを去ってすぐだったのと、どうしてここまで手を貸してくれるのかという疑問は、要するに、レイラントとの国交を円滑にする為、つまり、ことあるごとに皇室に干渉する父が邪魔ではあるが、私と母が、無害であることは分かりきっていたことだったらしく、この狩猟祭で、いろいろとそういった問題を解決したかったらしい。
それと同時に、ロイエンタールへの見切りもつけるつもりだったのだろう……。
けれど、王に許しをもらったフルストゥル様に、あそこまで言われて、ギャラハッド殿下にも冷ややかな視線を向けられ、思うところがあったのだろう。
控室で、ロイエンタール皇帝から直々に頭を下げられた。
「皇后 今まですまなかった」
「……もういいのです」
「皇后……」
「……アシュリー皇妃とお幸せになってください」
私がそう頭を下げると、ロイエンタール皇帝は、あわてたように言葉を吐いた。
「違うんだ 今まで私は君を誤解していた」
「誤解?」
何をいまさら、という思いと、もうこの際だから、ため込んでいたものを、すべて吐いてしまおうという思いから次々と言葉が出た。
「皇帝の言葉に間違いなどありません……。血の通っていない、蛇のように狡猾で冷たい女ですから、そんな私が、陛下の側にいるのは場違いでしょう」
「……それは……」
「どうか、私を廃妃としてください……。私には皇后など、貴女のつがいなど務まらない、いえ、務めたくないのです」
そこまで言い切ると、胸の中のおもりが、すっと解けていくのを感じた。
晴れやかな気持ちになるのと同時に、今度はアシュリー様が、目に涙をためて抗議した。
「今まで誤解があったと思うのです。だからイブリス様そのようなこと」
「アシュリー様、アシュリー様は、侍女もつけてもらえず、毎日顔を見れば罵倒され、時には暴力をふるわれ、存在そのものを否定してきた相手と、一生生きていける自信はありますか?」
「……え?」
おそらくアシュリー様は知らない。
ロイエンタール皇帝が、今まで私をどう扱ってきたかなんて、そして、皇帝もそれが全て事実だからか、気まずそうにうつむいているが、アシュリー様が信じられないものを見るように、振り返った。
「ロイ、本当なの?」
その言葉に皇帝はうなずいたのを見た瞬間、アシュリー様は、烈火の如く怒りを吐き出した。
「私、散々言ったわよね?公爵と皇后は切り離して考えなさいって、人として最低限の礼儀は払いなさいと、そうでないと公爵と同族よ?そういった態度を取る前に、ちゃんと調べなさいと」
私を疎んでいるかと思っていたアシュリー様が、そのようなことを進言していてくれただなんて意外だったが、思えば彼女から、嫌な態度を取られたことは、無かったというのも思い出したが、もう母の無事が分かった以上、レイラント皇后という座に、全く未練はなくなっていた。
「イブリス様……すみません」
「いえ、私も相談すればよかったのです」
本当に申し訳なさそうにするアシュリー様に、すこしだけ、もう少し歩み寄ればよかったかもしれない、と思いつつ続けた。
「私は母と暮らせるのならそれで、それだけで十分なのです……。狩猟祭の期間中は、ベルバニアにお世話になろうかと」
「そう、もうレイラントには戻らないの?」
「できることなら、戻りたくはないです……。いい思い出があまりにもなさすぎます……。それに」
一度、皇帝を見た後に私は目を伏せた。
「私がいなくなれば、ジークレスト公爵家を簡単に滅ぼせるでしょう」
「……それが 君の答えか」
「アシュリー様、重荷を背負わせることになって申し訳ありません」
あえて皇帝とは目も合わせず、アシュリー様にそういうと、アシュリー様は頭を下げた後に、一言わかりましたと答えたのだった。
あぁ、ようやく私は、ただのリーセとしての人生が歩めるのだ。
そう思うと涙がこぼれる思いだった。
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