ぼんやり令嬢と模擬戦見学
怒涛の初日を経て、帰宅すると、丁度頼んであった録音と録画ができる魔道具が届いていた。
早速、きっちり初期不良がないか確認し、制服やカバンに取り付けて証拠を逃さないように頑丈に取り付けた。
とはいえ、はたから見たらただのキーホルダーやバッジにしか見えない。
鞄に取り付けたついでに、学校の支度をし、なれない場所に行ったせいかぐっすりと眠りについた。
「そういえばフルル昨日から王宮の臨時募集に行ってるんでしょう?どう?大丈夫だった?」
開口一番シャロは心底心配そうにこちらを見つめてくる、何なのこの子天使なんか?となまり交じりに、狼狽えながらも何とか返事をする。
「みんないい人ばっかでよかったよ」
「はぁ、よかったわ 心配してたのよ、フルルなんだかんだ我慢するからさぁ」
心の底からほっとしたように言うシャロを見て、本当にシャロは優しいなぁ。
こんな大天使が友人でいてくれて、本当に前世の私は何かしらの善行を積んでたに違いない絶対そうだ。
そうに決まっている確信もちつつ返事をした。
「本当ありがとうね、シャロぉ」
「友達心配するくらい普通よ、普通」
「はぁ~しゅき……」
「ありがとうね~」
いつもどうりの軽口のやり取りをしつつ、校門のほうに行くにつれて何やら騒がしいような気がしてきたが、私が疑問符を浮かべてる間に、シャロは思い出したようにあーと声を漏らした。
「なんかあったっけ?テスト?」
違う違う、とシャロは首を振りつつどこか呆れたようにつぶやいた。
「今日は実戦魔術の授業にあの、イズゥムルの英雄ミドガルド様が見学に来るのよ」
イズゥムルの英雄、もしくは銀の武者姫、ミドガルド姫いまはもう結婚し降家され姫ではないが、今でも尊敬の念を込めてその愛称で呼ばれることも多い。
今から十数年前、世界の各地に暴走し、力を制御することができなくなった神を、その凄まじい剣技と呪術で殺し尽くし。
神から人を救ったいわば救世の大英雄その人。
彼女の人柄は高潔にして清廉そのもので、まさにこの国が謳う騎士像そのものだからこそ、
憧れ騎士を目指すもの、剣術を習うものも少なくない。
そんな大英雄がきたとなれば、人だかりもできるよなぁ。
正直ちょっとみたいし、噂によると驚くほど美人なんだとか。
「まぁしばらくこっちにいるらしいし、学院じゃなくても姿見るくらいなら王宮でちらっとくらいは見れるんじゃない?」
「それもそっかぁ」
シャロの発言に確かに、と納得する何よりあの人だかりに突っ込む勇気なんて端からないし、怖いし、素直にシャロと二人で大人しく教室へ向かった。
「おはようございます、二人とも」
教室に入ると美しい黒髪のクラスメイト、レベッカ様がにこやかに迎え入れてくれた。
「レベッカ嬢、おはようございます。」
挨拶をしながら確かにクラスメイトだし、仲が悪いわけでもないけれど今日はどうしてこうも丁寧に迎え入れてくれるんだろうかなんて考えているとレベッカ様はにこにこと上機嫌そうに口を開いた。
「聞きました?今日の攻撃魔法の授業は実戦魔術の模擬戦の見学なんですって。」
「それってミドガルド様が来るやつ?」
レベッカ嬢はええ、ええと笑顔で頷き答えた。
ここでいう話じゃないけど、笑顔のレベッカ嬢本当にかわいいです。
いつも笑顔でいてくれ、とぼんやり考えていると話は進んでいく。
「ええ 私日直なんで先ほど聞きました」
それはにこにこもするし報告もしたくなるなぁ、と思ったし、ミドガルド様見れるのも嬉しいのにどうしてか口から出た言葉は・・・。
「魔法の授業つぶれるの嬉しいー」
だったうえに二人には少しだけ呆れられたような困ったような笑みをうかべられたが、本音だから仕方がない、許してほしい。
廊下にいた担任のマオ先生も眉間に皺寄せないでほしい。
その後粛々と授業は進みようやく模擬戦見学の授業となった、レベッカ嬢曰く見学は闘技場で行われるらしくクラス全員で先生の誘導で向かった。
闘技場は古代建築を再現し歴史を感じさせる見た目で、普段は竜の訓練にも使う関係上、広く設計されている。
全校生徒が簡単に客席に収まるくらいには余裕もある。
しかも、魔法使いたちが訓練に使うこともあるため生半可な攻撃じゃ崩れないようになっているらしい・・・。
とんでもない代物らしい、いや魔術大国とはいえこんなもん常設されてるこの学院すごいなぁ、と感心しつつ、だったら図書館もっと便利にしてほしいなぁ、と淡い期待をはせながら久しぶりに来た闘技場を見回してると思い出したように、忌々しげにシャロは耳元で呟いた。
「そういえばてフルルの婚約者も実戦魔術の授業とってたわよね?」
「あぁ~確かに…応援した方がいいのかな?」
本当にいわれるまで気がつかなかった。
一応関係は破綻してるけど、まだ婚約関係だしどうしようと首を傾げると、私の分まで嫌悪感たっぷりにシャロは答える。
「そんな価値ないわよ、だったらミドガルド様をしっかりみた方が絶対いいに決まってるわよ」
「まぁそうだよねぇ」
価値はどうかわからないけど、嫌ってる私なんかに応援されても萎えるだけだよなぁ、という答えにたどり着いた。
どうやら席は自由らしく、私は当たり前のようにシャロの隣に座ると、皆が尊敬の視線を一点に集中しており視線を追うとそこにいたのは。
銀の髪に、余計なものをそぎおとされたしなやかな体に、宝石のようなブルーグリーンの瞳はうっとりするほど長い睫に彩られている。
この人こそ、英雄姫ミドガルド様だと一目でわかった。
なんというか圧倒的にオーラが違うし、ちょっとみただけで心ごと捧げたくなってしまいそうな、いわばカリスマのようなものを感じる。
あまりの衝撃に固まる私をよそに、斜め後ろに座っているギャラン様は呟いた。
「相変わらず大人気だなぁ ミド様は」
当然のように愛称で呼ぶギャラン様に驚く暇もなく、模擬戦開始の鐘が鳴った。
模擬戦ということで、当たり前だが武器は木製だが魔術は使用できるらしい。
それって危なくないって思ったんですけど先生曰く。
「まぁ大事にならないために絶対教師を配置してるし、治癒に長けてる教師も配置してるから、あとボクもいるしね」
らしい。
まぁだったらいいのかな、と納得しようやくミドガルド様からしぶしぶ視線を外し、模擬戦に目を移した。
とりあえず率直な感想としては、いや本当に危ないよ?君ら、って言いたくなるほど苛烈を極めていた。
おおよそ強化しているからか、木製の武器からなっていい音じゃない音がなっているし、もうそれは火傷するよ。
とかそれは本当に大けがするよ?と言いたくなってしまうほどの激しさで、絶対実戦魔術の授業は選ばないようにしないといけない、下手すると死んでしまう。
いや下手しなくても絶対大けがする自信しかない、それはシャロに伝わってたらしく。
「いやあんたがそれを選ぼうとしたらマオ先生が絶対阻止するわよ、なんならルル先生も絶対推薦しないから安心していいわよ」
「安心だぁ~」
喜んでいいのか、悪いのかわからない内容の会話をしつつ、眺めていると会場を見るとよく見知った金髪の美丈夫が登場してきた。
どうやら婚約者様の番になったらしい、何だか久しぶりに見る婚約者をぼんやり眺めていると一瞬目が合った気がしたが、まぁ気のせいだろう。
婚約者様は、お得意の炎魔法で相手を圧倒していた。
そういえば得意でしたねぇ・・・。
炎属性の魔術、と思い返していると、さまざまな令嬢から声援を送られていた。
まぁまぁモテますねぇなんて思いながら、試合観戦に意識を集中した。
お相手は水魔法で、たしか属性的には不利なのに圧倒的な魔力差でどんどん水が蒸発しジリ貧だったが、そのぶん近接技でカバーしてるように感じた。
近接に持ち込み互角の戦いが続いたが、魔術勝負で消耗しているところにとどめの一撃をお見舞いして婚約者様は勝ちました。
周りの女子は勝利を祝っていて、私はなんだかアウェーになってる対戦相手の方が気の毒になってしまった。
ふと婚約者様の歩き方が変だなと少し気になった。
もしかして怪我でもしたのかなと、少しだけ心配になってしまったが、会うたびに嫌なことをいうくらい嫌っている私なんかに同情されても腹ただしいだけだろう。
模擬戦後、教師の誘導でクラスで教室にもどったが昼休みになって、うっかり攻撃魔法の教科書とノートを忘れたことを思い出し。急いで闘技場へもどると堂々と昔からありましたみたいな雰囲気で鎮座していたそれらを回収し、急ぎ足で戻ろうと廊下を早歩きで歩きはじめたその時、婚約者様と出くわしてしまった。
「やぁ婚約者殿」
「婚約者様、足のお怪我は大丈夫ですか?」
無視しようと思っていたのに、思わずそんな言葉が出てきて自分でも驚いたが、婚約者様も驚いたのか一瞬目を見開いたもののすぐさま私を馬鹿にするような嫌な笑みを浮かべた。
「はっ思ってもないことをよく言えるな」
……心配しただけ損したなぁ、もうこの人は人の善意とかを反転させるのやめてもらえないかしらと思いつつ。
さっさとこの場から離れようと、振り返ると思いっきり肩をつかまれ体を壁に思い切りぶつけられた。
「いっ……」
あまりの痛さにびっくりし、小さく声を上げるもそれを無視して婚約者様はいら立ちをぶつけるように肩を強くつかんできた。
「どうせざまぁみろとでもおもったんだろう?」
どこでそんな発想になるんだといいたいのに、肩の痛みと得体のしれない恐怖のせいで体は石のように固まってしまった。
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