ぼんやり令嬢は王宮で和やかに過ごすそうです
放課後、王宮前広場にいくと臨時募集のテントがあり、なかなかの長い列が何個も伸びていた。
これは長くなるかなぁと思いながら、受付で推薦書を見せたとたん、すんなりと中の面談室へ通された。
後で知ったことなのだが、王立学院からの推薦書は信用度が高いらしい。
また何が得意分野、不得意分野などが第三者目線で書いてあるらしく、どこの部署にするかも比較的容易に決めれるため優先されてるそうだ。
これを知ったとき初めて、学院に入っててよかったなぁと感心した。
場所は変わって、面接官は私を一瞬だけ見た後推薦書に目を落とした。
「へぇ、淑女教育とマナー学の成績がここまで優秀とは…ちなみに洗濯とか炊事はできるかい?」
「一応 一般生活レベルでは」
「はぁ 伯爵令嬢なのに良くできたお嬢さんだ、配属先なんだがね どこか希望とかあるかね」
「私、一応婚約者様がいるので できれば女性の比率が多いとこがいいです。」
「はぁ、珍しい 」
面接官がいうには、どうやら一般の方や貴族でも男爵、子爵と下位の貴族らが多いため王宮で出会いを探そうとする方々もすくなくないんだとか。
まぁ確かに、なかなか王宮に勤めているような優秀な方々と会える機会なんてそうそうないし、無理もないだろうな、と納得した。
「あーあと、色んな国のかたもいるから君が喋れる言語を教えてもらっても?」
「共用語とキャシャラト語、旧レウデール語なら問題なく喋れます、ガリカの共用語は少しだけです。」
面接官はそれを聞くと、一瞬感心したように息を吐くも、少し妥協したような表情で問いかけた。
「イズゥムル語とクティノス語は?」
「ちょっとだけなら…本当にちょっとですけど」
親指と人差し指を摘まむようにジェスチャーすると、面接官さんは笑顔を崩さずまぁそれもそうか、と呟いた。
「まぁとりあえず明日またよろしく、部署とかは明日また伝えるから」
「はい」
なんでそんなこと聞いたんだろう、疑問に思いながら頷いた。
そのあと聞いたのだが、部署はおそらく布支度いわゆるテントやら使用するハンカチやナプキンなどに決められた図案をひたすら刺繍する班か、ひたすら書類やらなんやらを纏めたり捨てたりする事務作業になるだろうと。
とりあえず働き口を得たということで、一安心し、あまりこない王宮の一般開放区画である中央庭園をのんびり歩いていると、庭師の人たちがあーでもないこーでもないとか花屋さんたちがレイアウトなどを考えてていて慌ただしいなぁとのんきに眺めていると聞き覚えのある優しい声が聞こえた。
「あぁ、お嬢ちゃん」
「ニーチェさん、ごきげんよう」
「おぅ ごきげんよう、風邪引かなかったか?」
自身も疲労が抜けきってないだろうに、当然のように心配してくれるニーチェさんはやっぱり優しいなぁと、しみじみ感じながら頭を下げた。
「おかげさまで」
「そうかそうか で、どうしたんだ?」
「王宮の臨時募集で」
「あぁ あれかぁ~、ありがたいよこの時期は忙しいからな」
「微力ですが 頑張ります。」
「おぅ ありがとうな でもお嬢ちゃんも身体壊さないようにな」
「はい………ニーチェさん疲れてます?」
軽く化粧をしているのか、隈は見えないがどことなく覇気がないように見えて、思わず口からでてしまった。
飄々としているが慣れているんだろうか、いや慣れてても大変だろうなぁと勝手に心配になる。
「あぁ 前に言ってた人探しがなかなか終わらなくてな」
「王女の秘書って大変なんですね」
「まぁな」
あまりに深いためいきから魂まで抜けてしまいそうだ。
早く話を切り上げて休んでもらおうと頭を下げた。
「ご自愛してくださいね。」
「ん、ありがとうな」
ニーチェさんの後ろ姿を見送ってからしばらくして私はようやく思い出した。
「……あ、服返せばよかった」
私ってやつは本当にそういうとこだぞ、と叱咤したあとになんだか自分の要領の悪さに落胆してしまい
王宮をみるような気分でもなくなってしまった。
帰宅後、明日から王宮で狩猟祭の手伝いをすることを叔父様にいうと。
「まぁ いい経験になると思うよ、俺はよく王宮にいくこともあるけど義兄さんたちはあまり首都に来ないから王宮なんて入る機会もないしね。」
…と肯定的だったことに意外だったがその後、友達が増えるといいね。と笑顔でいわれてしまい少しだけ釘を刺された気分になった。
ちなみに両親からは
「まぁ 損する話ではないんでしょう?好きにしたら?その代わりしっかり仕事はしなさいね」
「フルストゥルが自分からこういったことに参加するなんて珍しいな、まぁ 無理はしないようにな」
一応婚約者側の家に伝えたら
「うん、今から社会経験を積むのはいいことだ。」
「あらぁ でも、お姉様がいいなら大丈夫よ?」
と、了承をいただけたので明日、初日だし気を引き締めよう心にそう誓いぐっすりと眠った。
翌日、ぐっすり眠れたはずなのに王宮の裏門までくるとあまりの人の多さに貧血を起こしそうになったがなんとか持ち直した。
大人しく列に並びようやく順番がくると案内係に促された。
「フルストゥル様には基本的に狩猟祭で使用するテーブルカバーや、ハンカチの刺繍の班に入ってもらいます。」
「はい」
「もしかしたらですけど、語学の成績もいいので国際科の生徒さんの手伝いも視野にいれておいて下さいね。」
「はい」
平均よりちょっといいだけなんだけど、やっぱりどこも人が足りてないのかな、そういえばマリアン様国際学科だったなぁ・・・。
元気かななんて考えていると、何とも可愛らしい木製のクッキーのような扉の前まで案内されていた。
「ではこちらが作業部屋です。」
通された部屋は作業部屋、というよりはちょっとしたサロンのように見える。
木造のかわいらしい長テーブルには、飲み物やちょっとしたお菓子がおかれている。
一人分のスペースもしっかりとある。
「今日から配属になりましたフルストゥルと申します、よろしくお願いします。」
礼儀正しくせねばとお辞儀をすると私より少し年上の女性たちが嬉しそうに声を上げた。
「よろしくー」
「わぁ新入りさんだぁー」
歓迎されている雰囲気に安心しながら、さぁ座って座って、と促され座るとさまざまな紋章や図柄を纏めてあるノートに裁縫道具色とりどりの布地が積まれていた。
「このノートにどれになんの刺繍をするか見本があるから、あとわからない図案とかも縫い方は書いてあるよ」
「あっでもわからなかったらどんどん聞いてね~案外聞いた方が早かったりするし」
「ありがとうございます。」
皆さん優しそうな方々ばかりでよかった、と安心しながら席に着き作業に取り掛かる。
ありがたいことに昔からの淑女教育で、一生縫わないだろこんな難しい図案。みたいなものを縫ってきたおかげか、思った以上にスムーズに作業は進んでいった。
でもきっとこれは環境のおかげだろうとも思う。
一人一人の個人戦であまり会話はしないのかな、とは思ったが意外にも和やかだが会話をしながらのどかな雰囲気で耳心地もよく、無音よりも逆に集中できるからこそだろう。
「え、フルストゥルちゃんもうそんなに縫ったの?」
一時間たったか経たないかしたころ、隣の方がびっくりしたようにそう呟くと周りの方々も少しびっくりしていた。
「すごい、こんな綺麗な薔薇の刺繍私縫えたことないよ」
「えっこれイズゥムルの模様?こんな綺麗にどうして縫えるの?」
「ここの鳥の羽すごい対称に縫えてるわ」
褒められなれてないのと、一気に話かけられたことでパニックになりかけるが、ちょうどのタイミングで扉が開いた。
「皆さんお疲れ様です」
「「ルイヴィエール様」」
「るっ……」
なんで王妃付きの侍従がこんなところに、と驚きを隠せないのとなんで皆様慣れているのですか、という疑問をとりあえずおいて起き頭を下げる。
「進捗もいいみたいですね、……おやこれは」
ルイヴィエール様は、私が縫ったハンカチを見ると目を見開いた。
どこかミスをしてしまったんでしょう、かとひやひやするも予想外な言葉が飛んできた。
「……すごい綺麗ですね、これあなたが?」
褒めた直後にすぐに私に確認をしてきたが、ここで肯定したら媚びをうってるとかって思われないか不安で少し押し黙ると、周りの方々が声を上げた。
「すごいでしょうこの子、全部きれいだしうんと早いのよ」
「これ見てください、このイズゥムルのヨートゥ織なんてすごくないですか」
私が言葉を発する前に彼女たちは、大いにすごいすごいと褒めてくれるが、恥ずかしすぎて言葉が出なかった。
「確かにここまで綺麗なのはミドガルド様以外見たことがないですね」
イズゥムルの英雄って刺繍するんだぁ、可愛いところあるんですねぇ~。と羞恥のあまり意識を空中に飛ばしているうちに怒涛の初日は終了した。
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