ぼんやり令嬢は言葉をあえて選ばないそうです
「え?これニィリエ君のお母様が?すごいのねぇ」
お姉さまは私の説明をきき、驚いた表情でそういった後に、今度はニーチェさんの方をみて、ほほ笑んだ。
「貴女のお母様はすごいのね。一部の貴族、それも流行に敏感な方々は、こういった光沢のあるドレスが流行ることも、アギラ風のドレスが流行り始めてるんだけど、それを感覚でわかっているだなんて……。流石、日々前線で、いろんな方々の服を作ってるだけあるわね」
「ありがとうございます」
母親が褒められたことで、少しだけニーチェさんの口角が上がるのがわかって、こちらも何故だか、温かい気持ちにのまま、お姉さまの言葉に耳を傾けた。
「私も好きよフロルウィッチ、学生時代なんてよくお世話になったもの」
へぇ……意外だなぁと思い、にこにこのお姉さまを眺めていると、上機嫌になったのか、お姉さまはさらに続けた。
「それにしても本当素敵、今度私も注文しちゃおうかしら?店舗にいけばいいのかしら?」
お姉さまのその言葉を聞いて、私とニーチェさんの脳裏には、これは勝ち確定だと、何かしらの鐘と、なんか無駄に壮大なファンファーレが響き渡った。
そうなんですよ。お姉さま流行に敏感なだけじゃなくて、自らが、一つのコンテンツであることを理解していることもあり、意図的に何かを流行らせることを、容易にやってのけるすごいお方なんですよ。
そのうえ、社交的で顔も広いから広告塔としてもかなり力がある。
そんなお姉さまが興味を示したということは、そりゃ脳内でラッパがハチャメチャなりますよ。
できることなら、銅鑼とか鳴らしたいくらいですよ。今の格好にもぴったりですし。
と、わけのわからない感想を考えていると、お姉さまを中心に令嬢らが集まってきて、一気に色々と話しかけられてしまった。
「まぁ 姉妹が揃うなんて珍しい」
「お二人とも麗しいです」
「ニィリエ様と揃うと、統一感もあって素敵ですわ」
あまり聞きなれない賛辞の数々も、お姉さまとニーチェさんは、大人の余裕で上手にかわしていているその隣で、私はなんとなく取り繕った笑みをうかべ、その場を何とかやりすごしていたら、いやでも見覚えもある金髪が目に入った。
「あら ユリアナじゃない久しぶりね?」
お姉さまの視線の先には、何かに怯えたような、どこか気まずそうな表情を浮かべていた。
おそらく、怯えた表情をさせているのは私だろうけど、そんな表情をするくらいなら来なきゃいいのにと思うものの、お姉さまと仲がいいことを思い出し、じゃあ、その場から離れようかなとニーチェさんを見上げると、私の考えていることはお見通しだったのか、こくりと頷いてくれた。
「お姉さま、私たちは一度、失礼しますね」
「あぁ、そう?でもそうね。あんなに人に囲まれたんだもの、疲れたわよねぇ」
私の人見知りを知っているからか、というか、お姉さまの中で、私はまだまだ小さい子供のころのままで、お姉さまがまだお嫁に行く前は、ずっとお姉さまの後ろについていってお客様が来たら、自分の部屋から出れない程の残念過ぎる妹だったからなぁ。
こうして、優しくしてくれるのはそのせいだろうしなぁ……と、思っていると、ユリアナ様が焦ったように口を開いた。
「ま……待って」
「ユリィどうしたの?」
私とユリアナ様の間に、何があったかなんて、知る由もないお姉さまは、きょとんとした表情でつぶやくと、詳細は話したくないのだろうユリアナ様は、少し言いよどんだ。
「あ……えと」
「特に用がないなら少し休ませてあげたいのよ」
だからさっさと言えと、大分オブラートに包んでお姉さまが言うと、もう、言い逃れはできないと思ったのか、ユリアナ様は突然私に頭を下げた。
「この間はごめんなさい」
「ユリィ?どうしたの?」
何も知らないお姉さまは、当たり前だが、突如私に頭を下げたユリアナ様をみて、わけがわからないという表情を浮かべた後、すぐに私の方をみた。
「私の妹に何かしたの?」
「それは……」
「……お姉さま、ここじゃ人目がありますから……ユリアナ様も」
私のその言葉を聞いたお姉さまは、そうねと呟いた後、ユリアナ様を一瞥した後に、来なさいと視線だけで促すその姿は素敵としか言えなかったが、その後ろを歩いているユリアナ様は、まるで罪人のようにしか見えなかった。
ホールから少し抜けて、中庭をすぐ望める、ちょっとしたベンチとテーブルがある、用意されている休憩所ではなく、あえてお姉さまはここを選んでくれたのは、なんとなく、公にしないほうがいいと判断したからだろう。
正直、これからユリアナ様から聞く話を考えたら、ありがたいなぁと感心し座ると、ようやくユリアナ様は口を開いた。
「……あんたねぇ……浅はかすぎない?」
事の一部始終、つまり、ユリアナ様が私に、レヴィエ様に同情させて、更生をさせようとしたこと、断ったらひどいひどいと泣いたこと。
レヴィエ様が、今まで私にしてきた行動を、ろくに調べもしないで、そういう要求を、宣ったことを聞いたお姉さまの第一声は、それだった。
「で、その場で謝ったのに、また蒸し返してきた理由はなんなの?」
お姉さまは、ディルフィニウム侯爵夫人としてではなく、友人として、ユリアナ様にそういうと、ユリアナ様は、ふてくされたように口を開いた。
「蒸し返すって……そんな」
「実際そうじゃない。ユリシーズ様からも謝罪があった。フルルはそれを聞いた。これで終わりでいいでしょうよ。」
全くもうと、さばさば言い切るお姉さまに、涙目になりながら、ユリアナ様は何故か、私をみて答える。
「それは、フルストゥルちゃんがいたから……」
「あんたねぇ、終わった話を、何回も何回も、姿見るたびに蒸し返されるフルルの気持ち、考えたことあるの?」
「お姉さま、大丈夫です」
少し苛立っているお姉さまに、私は大丈夫だよと示すために笑顔でいうと、お姉さまは安堵したように、でもやっぱり心配そうな表情を浮かべていた。
「フルル……」
「仮に、あそこで謝られて、注目を浴びたとしても、非難されるのはユリアナ様ですから……。それにどうでもいいですし」
「フルストゥルちゃん」
「だって、所詮他人ですし」
そう私が言った後、ユリアナ様は、あっけにとられた表情をしていたが、私は構わず続けた。
「……でも、本当に申し訳ないと思っているなら、まず、手紙とか贈り物とかするのが筋じゃないですか?それか、ちゃんと謝罪の場を設けるとか……。どうでもいいとはいえ、こんな当たり屋みたいな真似されるのは、侯爵夫人としてどうなのかなぁとか、ちゃんと、淑女教育受けてるのかなぁとは、思いますけどね。まぁ関係ないですけど」
私の言葉に一瞬お姉さまは驚いた様子だったけれどどこか安心したような表情を浮かべていた。
いつもなら言葉を選んだり、まぁここまで言うことでもないだろうと、口を噤むことが大半だが、いい年して、でもでもだってだってと、子供じみた言動ばかりするユリアナ様に、礼を尽くす必要はないだろう。
もう子供じゃないのだし、という思いで言ったら、予想どうり今度は涙目になり始めた。
「ひどい……」
「ユリィ……あんたねぇ」
流石に、堪忍袋が切れかかったのか、お姉さまは眉間に皺を寄せるも、私は笑顔で受け答えた。
「え?自己紹介ですか?ありがとうございます」
私のその言葉を聞いて、ユリアナ様が、さらに涙を浮かべたのは言うまでもなかった。
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