ぼんやり令嬢と舞い降りたビジネスチャンス
「うん 母さんいい仕事しすぎ」
「ありがとう」
しれっとニーチェさんが褒めると、うんうんと満足そうに、ノージュさんが頷いたと思ったらすぐ、表情をきりっと戻した。
「あなたのもあるわよ」
「え?俺のも?」
「だって、隣にいるあなたが、普通のタキシードじゃおかしいでしょ?」
「「確かに……」」
あまりにもなるほどと納得した途端に、ニーチェさんは、ノージュさんに奥の部屋に押し込まれ、すぐに着替えさせられていた。
「あとは自分でやって頂戴」
「なんか俺に対してだけ雑すぎない?」
「できるでしょ?」
「できるけどさぁ」
何というか、ちらりと聞こえた親子の会話は、はたから聞いてみれば可愛らしいものだったが、部屋から出てきたニーチェさんは、なんというか、いつもと違う格好というか、雰囲気なせいもあるけど、いつもより大人の色気大放出といった感じで、私と同じ生地で作られている服は、ニーチェさんにしかにあわないだろこんなの、と内心で大声で言ってしまうくらい、似あってた。
「……おめでとうございます。今日の主役です」
「?うん?ありがとうでいいのか?」
戸惑うニーチェさんの横で、ノージュさんがいい仕事したわ私、と言わんばかりに、うんうんと頷いていた。
少し休憩をしたあとに、とうとう宴会場……といっても、王宮のすぐそばだから、目新しく思うことはないものの、お茶会のような気楽な集まりじゃない為、気を引き締めて挑もうと、口をきゅっと結んで宴会場に入るも、入った途端、それは崩れてしまった。
「シャロ~今日も可愛いねぇ」
「わっびっくりしたありがとう……」
言葉のまま、少しびっくりした表情を浮かべたシャロの服は、私のドレスの生地と同じ質感の、光沢のある淡いブルーのドレスを着ていて、ところどころ、薔薇をあしらわれているそのドレスは、上品なだけでなく、大天使シャロの可愛さを、高貴さを、存分に引き立てていた。
「あぁ、本当に可愛い、いつものところ?」
「そうだけど……。そんなことより、フルルそれどこで買ったの?すごい素敵」
「これ?すごいよねぇ……。ニーチェさんのお母様が作ってくれたの」
「えぇすごいじゃない。こんなに精巧な刺繍だから、てっきりセレスかと」
「ねー」
シャロに会えた喜びから、ふにゃふにゃとした気分で返していると、シャロの後ろから、こんどはレベッカ様が現れた。
「レベッカ様、ごきげんよう」
「ふふ、ごきげんよう」
優雅にほほ笑むレベッカ様のドレスは、私とは反対の真紅のドレスを着ていて、装飾などは控えめであるものの、レベッカ様のスタイルのよさを引き立てているし、装飾が少ない代わりに、金糸の精巧な刺繍は、どれも綺麗だった。
「はぁ……眼福、じゃあ帰りましょうかニーチェさん」
もう可愛いシャロと、綺麗なレベッカ様を見て、もうお腹いっぱいという気持ちで、ニーチェさんに、無駄にきりっとした表情でそう告げると、ニーチェさんはうんうんと頷いた後、優しくそれを制した。
「待て待て、入って10分もたたないうちに、帰ろうとしないの」
「うぇー……」
ヘアセットがダメにならない程度に、コツリと頭を優しくたたくその様を見て、シャロとレベッカ様は優しい表情を浮かべた。
「仲がいいわねぇ」
「そうですねぇ なんか昔からずっと一緒にいたと言われても信じてしまいそうです」
二人がそういうと、そういえば、私とニーチェさん、会ってまだ、一年もたっていないことに気づいて、不思議な気持ちになったが、そんな感慨に耽ていると、シャロはため息をついた。
「今、ちょっとそういえばそうだなーって、おもってなかった?」
「うん、ほら、ほぼ毎日一緒にいるし?」
「あのバカと一緒にいた時間より多そうよね、確かに」
「うーん、でもちょいちょい夜会には出てたから、同じくらいじゃない?」
「一年で十年と釣り合うのが、すごすぎるんですけど……」
レベッカ様のその言葉に、三人で確かに、と顔を見合わせたのだった。
「あら、フルストゥル嬢」
「ジュリア様、ごきげんよう」
以前、お茶会に招待してくださったジュリア様に挨拶をすると、にこりと優しく微笑んでくれ、あぁよかったぁと安心した。
「覚えて下さってて光栄です」
「いえ こちらこそ」
お互い挨拶をした後、ジュリア様は私とニーチェさんを見てから、芸術品でも見たときのように、ほぅと息を吐いた。
「以前見たときも思いましたけど本当にお似合いですねぇ」
にこにこと、上機嫌なまま歌を歌うように、楽しそうにジュリア様は続ける。
「正直、レヴィエ様よりお似合いだと思うんですよ。お二人は、お互いを信頼しているのが、見ていてわかりますもの」
その言葉に、そんなこと言われるほど、私、以前こういった場に来てたっけ?と思い返すも、あまり思い出せなかったが、ジュリア様は私の疑問に答えてくれた。
「以前、一度だけ見たことがあったんですけど こういったら何をしったかぶってと思われると思うんですが……」
一呼吸を置いた後、少し私を、いたわるように見て言った。
「レヴィエ様は、貴女の心を軽視しているように見えました。貴女を軽視することで、何かを満たしてるような感じがしたんです」
……えぇ、一回見ただけでわかるのそんなの?流石お姉さまの同級生、と驚きつつ、すごい心配そうな表情されているので、安心させるため、笑顔でジュリア様に答えた。
「軽視されてたのは本当ですけど、心配しなくても大丈夫ですよ?首都に来てからずっとそうでしたし……。何より、終わったことですから」
……ていうより、私が終わらせたんだけれどと、補足をして、ジュリア様とニーチェさんを交互に見て、自然と優しい笑みが零れた。
「何より、今はニーチェさんがいますし」
「ありがとうな」
「ふふ……そうですね。そういえば、ニィリエ様以外に、婚約者候補はいっらっしゃるんですか」
「いない……ですね」
なんか、ベルダーさんは立候補してきたけど、お父様に、速攻で凍らせられてたからノーカウントとして、私がもともと男性と話さないことも含め、仕事の都合上、ずっとニーチェさんと一緒だったせいか、そんなことも無かったなぁと考えていると、ジュリア様ではない、美しい声が聞こえた。
「あら、じゃあ君が未来の義弟クンってことになるのかな?」
「あら、ツーイ」
「久しぶりね。ジュリア、妹がお世話になったみたいで」
「いいのよ。お世話なんて、なぁんも手がかからないんだもの」
友人同士の挨拶をした後に、お姉さまはこちらを見て、身内びいきを抜きにしても、とても美しく微笑んだ。
「フルルも元気そうで良かったわ。こういった場で会うのは珍しいわね」
「お姉さまも変わりないようで、良かったです」
相変わらずお姉さまは綺麗だなぁ……。
宝石で出来た花束みたいに、煌びやかで美しいのに、華美すぎて下品になってしまうことはない。お姉さまは、私やお兄様より、お母様側の遺伝が強いのか、顔立ちも、かなり美貌の暴力であるお母様にそっくりで、本当に、お姉さまが身内だったお陰で、アイン様とか、レベッカ様とかの美人を見ても、気絶しないんだろうなぁと、謎の感謝を述べていると、お姉さまは優美な笑顔でさらに告げた。
「それにしても素敵なドレスね?どこのかしら」
お姉さまがそういった瞬間、私とニーチェさんの脳裏に、ビジネスチャンスなのでは?と商売魂に、火が付いたのだった。
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