ぼんやり令嬢は金策にはしるそうです
フロルウィッチから帰宅して、注文していた魔道具の確認など済ませると。
リノンが淹れてくれた温かいココア片手に、親の仇ですかといわれるくらいの鋭い瞳で、婚約証明書を穴が空くほど見つめ、自分のなかで内容を反芻した。
更に間違いがないように、ノートに内容を確認したおかげでだいぶ頭の中がすっきりした。
まず前提として、何も問題がなければ私の学院卒業後結婚すること。
お互い婚姻を成立させるさせる義務があること。
簡単にいえば、婚約者としての努力義務として、エスコートや関係の維持のため、節度をもった交遊関係の維持。
互いの家への理解や、将来のために必要な知識、マナー等の学習などなど・・・。
また、いたずらに尊厳や立場を傷つけたり、互いの心や身体に傷をつけるような行為はしてはいけないこと。
まぁ暴言や暴力いわれのない誹謗中傷だとか。
これらが原因で婚約破棄となった場合は、加害者側が慰謝料を払う。
勿論、不貞行為もここに含まれる。
正妻である私以外に側室等が欲しくなった場合、私と互いの家族に報告、相談すること逆もまたしかり。
また、どうしても互いの性格が合わなかったり、心から愛する人が出来てしまい婚約破棄をする場合は、本人の意思と関係なく婚約した経緯もあるため、相場より低い慰謝料と破棄された側
への社会的サポートをすること。
ウィンターバルド様がいった通り、証拠さえ揃えてしまえば婚約破棄はスムーズに出来る内容だった。
けれど証拠をあつめたところで、話がこじれてしまった場合。
弁護士費用や、解釈のちがいで慰謝料が発生する可能性を加味したら、お金が必要になっていく可能性がある。
もしレヴィエ様の不貞を
『若いんだから仕方がないだろう』
『結婚したら遊べなくなるんだからそれくらい許しなさい』
といわれたり、暴言や暴力未遂も。
『それくらい我慢しなさい』
『怒らせるほうに原因がある』
と一蹴されてしまったら、個人の都合による婚約破棄には慰謝料を払わなければならない。
万が一個人の都合によるものと判定された場合すぐに払えるようにしたい。
でも、私一人で稼げる金額なんてたかが知れているけれど、自分の問題なのに一銭も出さないのは少し無責任なきもする。
何か特技がない私にできることなんてないのでは…?
…私の特技といえば、特技といってはなんだけども、ギャラン様のとなりの席にたまたまなったくらいだよなぁ。
あんな芸術品、毎日ただで拝めるなんてそうそうないですし?
毎日美術館行ってるって考えたら、かなりお得ですよね。
きっとギャラン様の隣なんて、お金払ってでもなりたいひといっぱいですよね。
…ん?まて?お金払ってでも?
お金、ギャラン様、隣、特技……。
「はっ…なるほど」
思い付いてから私の行動はとびきり早かった。
学院に登校し、とある女生徒のもとへいった後。
話を付け、お昼休みに第二資料室の隣の空き教室にある『ギャラン様のファンの集まり』の幹部に話を通しかの集まりに出席した。
『たまたまくじ運がよすぎて、ギャラン様の隣になった令嬢から話があるらしい』と、幹部の方が言ってくれたお陰で教室はびっちりと埋まっていた。
「皆様ごきげんよう、二年魔法学科Aクラスフルストゥル・ベルバニアです。
今回は皆様に提案があってこの場をお借りさせていただきました。」
その場にいる皆様は、ごくりと真剣に私を見つめてくる。
もうその視線は狼のそれと同じくらいの迫力で、倒れそうになるも怯まずに私は口を開く。
「私は席が固定されてるときの授業以外、休み時間も含め今現在の私の席を一時間800ギル程度で売りたいと思っております。」
『えええぇえぇぇえ!!!!!』
教室内は喜びの悲鳴に包まれたが、こんこんと裁判所でよく見る小さな木槌がなると、一気に静かになる。
「静粛に~、静粛に~」
「…こほん、あと隣の席であることを利用し取れたお写真なども有料で、お金を払った方にデータをお渡しいたします。一枚300ギル、素人撮影故の荒さもゆるせるのであればですけど」
『きゃあぁああああ』
「金銭のやり取りの記録はこちらの帳簿で管理します。ルール等はファンクラブで決めてください。」
「質問はありますか?」
「あのぉこちらとしては安価でとても助かっているのですけどあまりにも安すぎませんか?」
幹部であろう一人がそう言うと、「そうよね、あまりにも安すぎるわよね」と小さなどよめきが生まれた。
中には何か裏があるのでは、という声まで聞こえた。
ある種、それは正解なんですよね、と内心呟いた後、誠心誠意を込めて頭を下げた。
「……私はとあることに皆様の協力を得たいのです。皆様方の人脈を皆様の目を、お時間を貸してほしいのです」
私が告げたのは、自分がレヴィエ様の婚約者であること、彼から暴言や暴力未遂、蔑ろにされるなどの被害を受けていること。
そのことから婚約破棄をしたいため、沢山の証拠と纏まった金銭がが欲しいので、このような提案をしたのだと。
愚直に、素直に何も隠さずに話すと一瞬教室は静まり返り、不安を感じたが一人が声を上げた。
「協力しましょうよ、皆さん ここまで正直に打ち明けて下さったんだから。」
「私はあなたを応援するわ、そんな最低男乙女の敵よ」
「私も」
正直に言ったことで皆様は、私に好意や同情をむけてくれ最終的に。
ベルバニア万歳、ベルバニア最高。
がんばれ負けるな、と大声援を受けたのち、入金の手続きなどのシステムを幹部の方がたと相談した。
『値段設定が安すぎるのでは』といわれたがあまり高いと悪いからと、値上げはしなかった。
市井で働くことをめどに入れながら毎日毎日、ギャラン様経由のお金を管理しつつ節約しつつ。課題や掃除などを肩代わりして、金銭を得ながら会員の皆様が持ち寄ってくれた、証拠や証言をまとめも何かないかと考えていたら帰りの会で担任が告げた。
「狩猟祭の準備が本格的に始まる、毎年だが王宮での臨時侍女補助や調理補助等の募集が来た。興味があるものは職員室に来るように」
「先生~それってお給料でるやつでしたっけ?成績に加算されるんですっけ?」
誰ですか質問してくれたナイスなクラスメイトは、優勝です。と脳内で優勝旗を渡しながら、耳を澄ませる。
「あぁ両方だ、教科の成績っていうより生活態度の面で加算されるのと、マナー系の授業が一部免除されるんだったな。給料もでるぞ?まぁ短期の労働にしてはわりと割りがいいほうだな」
なんだって、と手元が一時停止したあとに、素早くメモの準備をすると、いいタイミングで話を続けた。
「狩猟祭は古くからの伝統を大事にしてるからな。本来機械や魔法でできることも人の手でやらないといけないことが多いから、人手は多く欲しいらしい。まぁ興味があったら俺かチェルシー、シャルルのだれかにきいてくれ」
これですわ、正直マナーの授業云々よりもお給料と外聞です。
王宮で後学のために学びたいといえば、聞こえもいいしあちらの家にも悪い顔はされないだろう。
金銭目当てなんていったら、フィリア様になんていわれるか。
『お金なんていくらでもあげるわだからうちのこと結婚してね?』
とか言いかねない。
言うなぁあの人は。
だからこそ関係もたってしまいたいのだけど。
目的は経験です、って顔でいれば文句も言われないし、侍女補助であれば魔法が出来なくても文句は言われないだろう。
…仕事が遅かったら言われるとは思うけど。
とにかく善は急げ、と担任のもとへ向かった。
「王宮の臨時募集なんですけど」
「あぁ、ってベルバニア嬢が?」
担任は心底意外という感情を隠すことなく二三度私の顔を見直した。
担任のマオ先生みたいな顔のいい男でも、人を二度見するんだなぁ。
いつも眉間にシワつくらせといて、のんきに見ていると呆れてると勘違いしたのか、いそいで言葉を紡いだ。
「あぁ、いや いつも内向的な君が珍しいと思ってな」
「私、一応侯爵子息と婚約させて頂いてますし 後学のために学びたいと思いまして。」
「…婚約してたのか」
「してたんですよぉ」
関係もう破綻しているんですよ。でとっとと終わらせるために稼ぎてぇんですわ。
とはいえず、曖昧に微笑むことしか出来なかったが、担任は黙々と喋る。
「まぁ ベルバニア嬢はマナーや家政等の科目は難なくこなしているしな、攻撃魔術も最近は補習しなくても合格ラインまできているし、よし 推薦状発行しとくな。あとこれが案内だ」
「ありがとうございます。」
「経験を積むのはいいことだが、無理はしないように、健康が一番だからな。」
「…先生、うちのおばあちゃんみたいなこといいますね。」
「せめて母親にしてくれ」
マオ先生はまた、眉間にしわを寄せそういうと頭をがっくりと落としうなだれていた。
特に聞かれてませんが、マオ先生は男性の教師で実は物静かですが整った容姿と丁寧さで生徒に人気があります。
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