ぼんやり令嬢の早上がり
あれから、なんだかんだありまして、最終確認は、私、必要だったかなぁと、空を見上げて、のんきに思ってしまうほどに、ほんの数日で終わり、幸い、あれからも懲りずに、私は中庭を横切って近道しても、あの夫妻のように絡まれることは無かった。
ちなみに、絡まれたことを、お父様に偶然会って言ったら、それはもう、鬼のような形相をしていたし、何なら、気温は軽く五度は下がっていた。
ちなみに、リノンとオルハとエマは、目が据わっていたし、武器を磨き始めるわ、お父様の側近であるアルマも、銃に弾込め始めるわで、ドンパチする気満々な彼らをなだめる方が、あの夫妻より苦労した。
「お姫、人間って脆いんですよ?」
と、ナイフ片手につぶやいたアルマの顔は、泣いちゃうかもしれないと思うほどに、怖かったなぁ……。
でも、一番怖いのは、コーダー子爵家が、しれっと没落してたことなんだよなぁと、ぼんやりしていると、みんな、私が疲れていると誤解され、ものすごくお世話をされてしまったのだった。
まぁ、コーダー夫妻に関して不幸中の幸いなのが、彼らの子供がもう独立していたことと、彼らの子供は、かなり常識人だったらしく、王家にはもちろん、私にも謝罪にきたのをみて、少しだけ積もった泥のような感情は消えていった。
なんというか、何も悪くない人に謝罪されると、居心地が、なんかこうざわざわしてしまうんだよなぁ、とニーチェさんに言うと
「フルルは優しいなぁ」
と言われたが
「くっ・・・でも、あの夫妻は今思い出しても腹が立ちます アイン様の顔に、傷があるのどーのこーのいう前に、自分の性根、見直せよって話じゃねーですか?そういうこと言ってる暇あるなら、仕事しとけよ、そんなんだからダメなんだよとは、思いますけど」
「お、珍しく怒ってるなぁ」
珍しそうなものを見る表情を浮かべたニーチェさんに対し、私は拳を握りしめ、後悔交じりにつぶやいた。
「怒ってますよ。うー……氷ぶつければよかった」
「地味にいたそうだなぁ」
「もしくは熱湯」
「跳ね返るとフルルもあぶないから、やめようなぁ」
よしよしと頭を撫でられた後、それよりもとニーチェさんは、心配そうにこちらを見た。
「でも怖くなかったか?」
「うん?あぁ……まぁ別に慣れてますし」
主に元婚約者とかレヴィエ様とか元ブランデンブルグ侯爵子息とかのお陰でってまぁ全部同一人物ですけど……。
何なら、暴力方面はお母様も特別協力というか……と、のんきにしていると、ニーチェさんはおいおいと、うなだれていた。
「怖くないのは良かったけど、慣れちゃだめだろうそれは」
「うーん、何か、目の前にあまりにも稚拙な人間がいると、怖いとかいうより、なんか面白くなっちゃいません?」
これに関しては、ダイアン様除くブランデンブルグ侯爵家って感じかな。
あ、もちろんオースティン君は子供なのでノーカウントですけれども……と脳内で釈明をしつつ笑顔で返答するもニーチェさんの表情は沈んだままだった。
「……フルル、闇が深いこと言わないでほしいんだけど」
「でも深淵を覗くものは深淵からも覗かれるって言いますし?」
「まって真顔で言うのやめてくれない?怖いから」
と、冗談を交わしているうちに、執務室まで到着した。
そう、確認が終わったから解散……っと言いたいところだけれども、狩猟祭前に行われる連日の宴会や、茶会なども狩猟祭の一部のようなものらしく、運営側はなかなか大変だなぁと、身をもって痛感しつつ、基本、手伝い扱いの私は、侍女さんたちに交じって仕事をすることが多いのだが、先日のコーダー子爵家の件もあり、一人で行動するのは危ないんじゃないか、という話になったらしく、再びニーチェさんの補佐に収まったのだった。
ちなみにアイン様には、勿論、あのくだらないたわごとが伝わることは無く、ただ単に、私が子爵家に絡まれたということだけ伝えたら
「大丈夫?やっとく?」
と即座に言われ、思わずニーチェさんと二人で反射的に
「「何を???」」
と聞き返してしまった。
何より、下らないたわごと聞かれなくて良かった……。
次、あんなこと言ってくる人がいたら氷ぶつけよう……と、心にしかと決め覚悟を決めるのだった。
しばらく狩猟祭前後の予定の確認をしたり、当日の人の流れの予測をしたりして当日、ないしは前夜祭、後夜祭もふくめて相談していると、豪奢な扉がノック無しに開いた。
「ニィリエ 少しいい?」
「王妃様」
わざわざ王妃様本人が来るような用事ってなんなんだろう、と首をかしげると、ふとアイン様とも目があったが、アイン様もわからないらしく怪訝な表情を浮かべていた。
「よくわかんないけど いってらっしゃい?」
「そうね いってらっしゃい」
首をかしげたままの私に対してアイン様はにっこり笑顔で答えるがニーチェさんは疑問符をなんとか押さえて王妃様の後に付いていくと、王妃様は私をみて、なにかを思い出したように呟いた。
「あぁ、フルルちゃんは帰って大丈夫よ。連絡が必要なら電話貸すし」
「そうですね 最近帰りも遅くなりがちでしたし……。うん、今日くらいは早めに帰ってもいいかな?」
ロイヤルな親子の提案に、私はおどおどと頭を下げ、口を開いた。
「え?あぁ わかりました」
王妃様とアイン様の提案を受け入れ、頭を下げてからその場を後にした。
正直、歩いて帰れない距離ではないけれど、あんなこととか、ちょっと前に元婚約者に遭遇したこともあり、提案通りに電話を借りたあと、待合室がわりに使っている小さなサロンに通された。
なるほど、たしかに、ここならすぐに迎えが来たかわかるしなぁと納得しつつ、紅茶を飲みながら、読書をしてのんびり迎えを待つことにした。
「お嬢 今日は早上がりなんすねぇ」
「オルハ お迎えありがとねぇ」
最近、帰りが遅かったせいか、オルハはしみじみ呟いて荷物を持ってくれた。
「どうしましょっか?帰りにどっか寄ります?」
「うーん。そうだね結構明るいし……、オルハが前に、気になってるって言ってた靴屋さんとか行く?どうせなら新しいの買おうよ私出すから」
一応、アイン様のお手伝いのお金もあるし、なんなら席代のお金もあるし大丈夫だよと、オルハを安心させるように言う。
最近、いろいろ気をもませすぎたし、たまにはいいだろうと提案すると、オルハは心底嬉しそうな表情に変わった。
「え?いいんですか?クルーエルの靴ですよ?高いですよ?」
「まぁだから何足も買えないけれどね」
「一足で十分です わーめっちゃうれしい」
嬉しすぎてほわほわと花が舞ってそうなオルハを見て、オルハの方が年上なのに、うんうん良かったねぇという気持ちで、服飾店が多く立ち並ぶ通りへいき、最近はやりであるセミオーダーの靴や、革小物を取り扱っている知る人ぞ知る名店に入った。
「私は小物見てるから、オルハは好きなのえらんできていいよぉ」
「えー、お嬢が選んでくださいよぉ」
「えぇ、仕方ないなぁ……」
ぐだぐだいいながら店内を二人で歩いていると、店主の人は嫌な顔せず、むしろにこにこと笑って口を開いた。
「ゆっくり見てってくださいね」
「ありがとうございます」
その後、いろいろ吟味して靴を購入したオルハは、とても満足そうで、こちらもとても微笑ましい気持ちになったのだった。
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