ぼんやり令嬢と追い上げ作業の始まり
少しレヴィエ様側に立って色々考えてしまったものの、とはいえ、やったことは許せないので、情状酌量はしなくてもいいかなと、自分の中での議論は終結した。
だってそれで許してしまったら、可哀そうな目にあっていたら何をしてもいい、それこそ、他者を害していい理由にならない、と判断したからだ。
それを気づけたのは、やっぱり、シャロやみんなのお陰だと、深く深く感謝した。
「でも、もう狩猟祭間近ね」
久しぶりに三人で昼食を取っていると、狩猟祭が近いせいか、校内が、かなり活気づいていたせか、シャロがそう呟いた。
「そうだねぇ」
「市井でも出店を出したり、一種のお祭りのようになってますね」
「へぇ……」
そういうことなら、狩猟祭前後は、ずっと王宮にいることになるし、せっかくならリノン達、それこそ、首都に来たばかりのエマにも、色々楽しんでほしいし、嫌でなければ、休んでもらおうかなと、思っているとシャロが頬杖をついてつぶやいた。
「でも、初めての参加が主催側なんてねぇ」
「まぁねぇ」
成り行きとはいえ、すごいことなんだよなぁとぼんやりしていると、レベッカ様が口を開いた。
「でも、その方がいいかもしれないですよ?フルストゥル様、人見知りでしょう?大人数の令嬢と、同じ空間に何時間も……、なんて苦痛でしょう?」
…………何その拷問……怖いんですけど、と思って硬直していると、レベッカ様とシャロが説明してくれた。
全員が全員、同じ空間で刺繍をするわけではないのだが、観覧席や休憩室も、どこも多くの令嬢でひしめき合っているらしい、とを聞いて、脳内で、もし自分が、そんな中に放り込まれたら、という想像をしたら、震えが止まらなくなった。
「うぅ……考えただけでゲボ吐きそうです」
「そんなに?」
レベッカ様の驚愕の表情とはよそに、隣でシャロが、それみたことかと、したり顔で私を見て、肩を落とした。
そんなシャロをよそに、私は、よくロマンス小説でありがちなシーンを、つぶやいた。
「うぅ……きっと水とかかけられるんだ……。ワインとかかけられるんだぁ……。ううぅドレスがダメになるぅ……」
「ドレスの心配しかしてなくない?それより、ビンタとかは怖くないの?」
シャロの問いかけに、私は、堂々と親指を上げて答えた。
「お母様のお陰で慣れてるんで、こう、手の軌道に合わせて、顔をその方向に一緒に動かすと、衝撃が逃げるんですよ」
「そんな豆知識聞いてないのよ。誰一人として」
意気揚々と説明する私に反して、シャロは冷静な指摘をし、レベッカ様は曖昧にほほ笑むだけだった。
「そういえば、フルストゥル様は、午後から、もう王宮へ行かれるんですよね」
「そうなんですよ。こまごまとした最終確認とかがあるので」
そう、基本的に今まで学業優先というアイン様の方針で授業を抜けるとかは無かったんですけど、貴賓だけでなく、海外のお客様に対するおもてなしの最終確認とか、文化のすり合わせをする部署に、私がいったほうが、色々とスムーズに事が進むだろうということと、学院の授業も、マオ先生が、ついていけるように補講を行ってくれるそうで、そこは本当に心の底から感謝した。
「なぁんか、本当にアイン王女に気に入られてるのねぇ」
シャロの言葉に、レベッカ様は頷いたものの、首を傾げてから口を開いた。
「……でも意外です アイン王女って、お顔に傷ができてから、あまりに公に出てこられないでしょう?才女とは聞いていますけど、ニーチェさん以外、側にあまり誰かをそばに置かない印象がありますから……。あまり、他人を、そばにおきたがらない方なのかなと」
その言葉を聞いて、アイン様の美しいご尊顔を思い返して、言われてみればと天井を仰ぎ、ようやく傷のことを思い出した。
「あぁ、確かにお顔に傷あったかも」
「今更気づいたの?」
「うん、あんまり気にしたことなかったからねぇ。別に、あっても無くても、アイン様はアイン様だし」
驚くシャロに、ぼんやり答えると、レベッカ様は、なにかに納得したように、けれど困ったように笑いながら、私を見て続けた。
「……多分、こういうところが気に入ったんでしょうね」
「みたいね」
シャロもそれに同意し頷いたが、レベッカ様の、こういうところ、という意味がちょっと分からなかったが、まぁ、気に入られてるならよかったなぁと思っていると、ふと、もはや慣れてしまった手の感触が頭に触れた。
「まぁ、あと有能だしなぁフルルは」
ニーチェさんは、私の頭に手をおいたまま言うと、レベッカ様とシャロは、同時に口を開いた。
「「ニーチェさん」」
「よ、みんな元気そうだな」
にこにこ、人懐っこい笑みを浮かべたまま、ニーチェさんは続ける。
「さて行こうか、じゃ」
「あ、お先失礼します」
ニーチェさんに促されるまま立ち上がり二人に頭を下げると
「はい 頑張ってくださいね」
「無理しないようにね」
と、二人とも、快く送り出してくれた。
そうして、荷物を取りに行くため教室まで一緒に戻ると、真っ先に、ギャラン様が、ニーチェさんに気づいたのか声をかけてきた。
「お迎えですか?」
「まぁそんなところです……本当にフルルの隣の席なんですねぇ」
私が荷物をまとめてるのを見て、ニーチェさんは、不思議そうな表情で、教室を眺めつつそう呟いた。
「まぁ、フルストゥル嬢 授業以外、席にいないから実感ないけどなぁ」
「そうですねぇ、お陰で、嫌がらせとかも受けてないですし」
……まぁ 言えないよね、席売ってるんですよ、なんてさぁと、思いつつも、ようやく荷物をまとめ終え、ニーチェさんの裾をつかむと、ニーチェさんは屈んで問いかける。
「ん?終わったか?」
「はい」
その様子を見て、ギャラン様は感心したように、顎に手を置いて呟いた。
「……なんというか、物凄く仲がいいですね」
「?そうですかね」
「昔からの婚約者だと言っても全員、信じるんじゃないですか?」
「ははっだったら光栄だな」
「?はい?」
光栄って何のことだろう、と思っていると、マオ先生がいつもより砕けた表情で、ニーチェさんの頭に本を置いた。
「ニィリエ」
「あっ先輩」
「そろそろ授業が始まるからとっとと行け、あとフルストゥル嬢。これ、よかったら読んでおくといい、授業の要点をまとめておいた」
わからないところがあったら来なさい、とマオ先生から、プリントを受けとるのを見ていたニーチェさんが、マオ先生に寄って呟いた。
「なんか、俺との扱いの差、すごくないです?」
「当たり前だろう?うちの生徒に無理させるなよ」
「さっすがマオちゃん、生徒思いだねぇ~よっ教師の鏡」
今度はどこから現れたのかルル先生が、マオ先生に飛び付くも、まるではしゃいでる猫を宥めるように、優しく撫でながら諌めていた。
「ありがとうな……でも、ルルも午後の授業が始まるから、いこうな」
「はぁ~い」
素直だなぁと感心しているのもつかの間、始業のチャイムがなる前に行かないと、と私は、ニーチェさんに手を引かれ、学院を後にした。
「そういえば、ニーチェさんは、なんか仕事あるんですか?」
「ん?まぁ俺はあとは、最終確認くらいかな?主な仕事は終わってるし」
「流石です」
「いやいや、フルルのお陰だよ」
いやいやご謙遜を……と、思いながらも、頷いていると、いつの間にか王宮へと到着した。
「あら、フルルちゃん。ごめんね?学校だったのに」
到着するなり、アイン様が優しく出迎えてくれて、なるほどここが天国かな?と思いながら、失礼にならないように、頭を下げ言葉を紡いだ。
「大丈夫です」
「ふふ、ありがとうじゃあ頑張ってね?」
……この微笑みで、何人倒れるんだろうと考えてしまうほど、アイン様の笑顔は可憐だった。
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