ぼんやり令嬢らの意見交換
リノンが部屋を出た後に、ベッドの上で、はしたないがごろんと寝転ぶと、色んな事を思い起こされた。
レヴィエ様と出会ったばかりの幼いころ、お互い貴族社会というものを知らなくて、純粋で本当に幼かったなぁとしみじみ思った。
また遊ぼうね、今日のおやつも美味しいねとか、そういったたわいもない会話とか、一緒に、本や図鑑を、読んだりしたこともあった。
領地に遊びに来ていた男の子に、ちょっかいかけられて泣いた時に、庇ってくれたり……と、今まで、レヴィエ様との関係を断つことに、重きを置いていたせいで、見落としてきてしまったことが、次々とインクの染みのように思い浮かんだ。
フィリア様も、ダイアン様も、私にはとても寛大で優しかった。
でも、けれど家の中では、厳しく当たられていたとしたら?
私の場合は、私が本当に物覚えが悪いのと、色々と遅いのが原因でよく怒られていたけど、それでも、正直辛かったし、そりゃもう、わんわん自分のことを、棚に上げて泣きまくってたし、そのたびに、リノンを筆頭に、使用人やおじい様に慰められていたから、やさぐれることはなかった。
まぁ、偏屈にはなっちゃったけど、他人を下げて、自分の株を上げて喜ぶような性格とか、こう変な承認欲求の塊にもならなかったのは、周囲に本当に恵まれてたなぁと、痛感すると同時に、じゃあ、レヴィエ様はどうだったんだろうと、振り返った。
もしかしたら、誰も、家で庇ってくれなかったのかもしれない。
ラスターさんが、報告にあげたようなことを、子供のころからされていたら?
ダイアン様も、それを黙認していたとしたら?
そう考えていくと、あの、理不尽の権化であるレヴィエ様が少し、本人は、ものすごく嫌だと思うけど、ほんの少し同情してしまったのだった。
でも、ここで全部を許せないあたり、私って、狭量だなぁと、少し落ち込んでしまう私の様子を見て、シャロは肩をすくめてから、呆れと怒りを混ぜ合わせた表情で答えた。
「事情を聞いたら、そう考える気持ちも分かるけど、そこまで、フルルが考えてあげる必要、なくない?」
大体、あっちはフルルのこと大事にしてなかったんだし、とシャロがバッサリ切った横で、レベッカ様も、笑顔でそれに続いた。
「自分の感情も処理できない愚者はお断りです」
あまりの容赦ない言葉と、美しい笑顔との釣り合いのとれなさに、私は一瞬、固まってしまった。
「あぁ、すごい容赦なぁい……」
まぁ、擁護するつもりもないけれどもと、心の中でまごついていると、シャロが代わりに解説してくれた。
「確かに元をただせば、フィリア様の態度が悪いってのもあるけれど、それでも、あのバカは、フルルに打ち明けるわけでも何でもなく、ただ理不尽に扱っただけじゃない。そんな奴に、どう寄り添えって話よ全く」
「まぁまぁ、シャロ落ち着いて」
どうどうと、正義感のあるシャロが、私の代わりに怒ってくれているのをなだめていると、レベッカ様は、相変わらずいい笑顔で続けた。
「……でも、私も、シャルロット様と同意見です」
「まぁ、そうですよね」
かくいう私も全部が全部許せるわけじゃないしなといったんそれは置いておいて私は続けた。
「あ、そうだレベッカ様、お渡ししたいものが」
「あら、嬉しいです何でしょう」
にこにこと、ほほ笑むレベッカ様に、私はおずおずと包みを差し出した。
「あら……これはタッセルと……」
「髪紐です……その、狩猟祭の時縛るかなぁって」
まじまじと見られて恥ずかしくなってしまったが、リノンに教わって、しっかり編んだから紐が貧弱ってことは無いと思うけど……。
あと、タッセルや飾り石が、レベッカ様の瞳と同じ、さわやかな若草色でそろえたけど、狙いすぎかなと思っていたら、レベッカ様は、とてもうれしそうな表情を浮かべて答えた。
「とてもうれしいです。頑張りますね」
「はい。あ、でも怪我とかには、気を付けてくださいね」
私は思わず、ただでさえ下がってる眉毛を、さらに下げて言うも、レベッカ様は笑顔を崩さずに、いつもの、お姉さまのような優雅な笑みで続けた。
「はい、でもとても素敵ですね。ありがとうございます」
「相変わらず器用よねぇ」
「照れるなぁ……あ、これシャロのも作ったよ。髪留めと栞なんだけど」
シャロに手渡したのは、ピンクトルマリンをあしらった髪留めと、栞を見せると、シャロは一瞬驚いた表情を浮かべた後、レベッカ様同様、優しい笑みを浮かべていた。
「ありがとうね 早速今日から使うわね」
「本当?嬉しいなぁ」
シャロの言葉に、ほわほわとした気持ちになりつつ、それを見守って、穏やかな表情を浮かべているバーナード様が、目に入った。
「バーナード様も狩猟祭でるんですよね?」
「え?あぁそうですけど」
「バーナード様も、タッセルどうぞ……その、迷惑でなければ」
まさか、話しかけられると思ってなかったのと、まさか、作ってもらえるとは、思ってなかったであろう表情を浮かべたまま、タッセルを受け取ってくれた。
バーナード様とは、少し行き違いがあったものの、謝罪を受け入れたあと、こうやって普通に、学友として過ごしているうえで、やっぱり、怪我はしてほしくないなぁという思いもあって作ったんだけれど、しばらく固まっていた。
「大事にしますね……。本当に、金庫に入れます」
「いや違うんじゃないですかね?流石に、それがなんか違うのは、私でもわかります」
そんなやり取りを少したものの、嫌がってたり迷惑がっているわけでもない様子に、ほっとしたが、その様子を見ていたギャラン様に
「え?俺の分は?」
「え?……え?」
帰り大変ですよ?という思いで、机に置かれた大量のプレゼントの山をみて答えると、すぐにギャラン様は、にこにことほほ笑んだ。
「冗談だよ。そんな目を点にしなくても」
…………いまの微笑みで、何人の女子を気絶させることができるんだろう、と少し考えてしまったが、バカ野郎、全員出来るに決まってるだろと、脳内で、自分で自分をしばきまわしていたら、何故か、ギャラン様が笑うのをこらえていた。
「そういえば、ジィド様は参加するの?」
「するみたいだよぉ。全く怪我しないか心配だよぉ」
シャロの問いに答えつつも、まぁお兄様は要領いいからなぁ、それに武芸にとても秀でているし、何より、あのアルマがかなり筋がいいって褒めてたし、今通っている騎士学校でも、かなり、上位の成績を収めているみたいだから、いらない心配とは思うけれど、ついつい心配してしまう矛盾ばかりな発言に、レベッカ様は、ほほ笑みながら答えた。
「兄思いですねぇ」
「普通ですよ?」
「世の中、いろんな兄弟の形がありますからね。特に貴族社会では」
レベッカ様の言う通り、一見平和に見えるキャシャラトでも、それぞれの家では、やれ家督争いだと、かやれ不貞の子だとか、お互いけん制しあったりだとか、おおよそ、うちでは考えられないような、それはそれは、まさしく本の中でしか見たことないような、どろどろなことが当たり前に起こりうるのが、貴族社会だということを、うっかり失念していた。
「あー……そうかぁ忘れてたかも」
素直にそう答える私に、バーナード様はゆっくりと頷いた。
「それだけベルバニア家は平和ってことなんでしょう 諍いなんてない方がいいんですから」
その言葉に、シャロやレベッカ様、何故かギャラン様も深く頷いているうちに、始業のチャイムが鳴るのだった。
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