ぼんやり令嬢は事情聴取に向かうそうです
ジョシュア様と踊り終わると、言ってた通り、すぐに目に入る位置にいてくれてホッとしていると、あちらも気づいてくれたのか、即座に迎えに来てくれた。
「フルル、上手だったよ」
「ありがとうございます」
少しだけ、子供のお遊戯会を見に来てくれた父親みたいだなぁ、とのんきに思いながら側に行くと、ニーチェさんは、ジョシュア様に頭を下げた。
「ありがとうございます……。フルル人見知りなんで」
「いや、感謝されることは無い、それに、彼女のお陰でとても踊りやすかった」
「そうですか」
ニーチェさんが貼り付けたような笑みを浮かべて答え、ジョシュア様も、なぜか表情が固まっていたが、もしかしてこの二人相性悪いのかなぁと考えつつ、ニーチェさんに、先ほどのことを伝えると嫌な顔せず笑顔で頷いた。
「じゃあ 俺も聞くよ」
「ええと……」
私はありがたいけれど、と思いながらジョシュア様を振り返ると、少し考えこんでいる様子だった。
確かに、おそらく、えらいことになってる身内の現状を知る人数は、少ない方がいいよなぁと、同情してしまう気持ちもあるが、ニーチェさんは、それも分かっているかのように、笑顔を浮かべた。
「大丈夫、俺口堅いし」
それに、と付け加えながら、ひょいと本当に軽々しく、私の腰を引き寄せて答えた。
「俺も、事情を知ってた方が色々と予測して色々対策できるし。候補とはいえ、婚約者だからな」
その言葉に納得し、心の底からありがたいという気持ちしか出てこなかったが、ジョシュア様はどうだろう。
流石にこればかりは、事情が事情だしと恐る恐る見上げてみると、少しため息をついた後頷いた。
「……その方が、彼女も安心できるだろう」
「ありがとうございます」
その言葉とやり取りに一安心した後、ジョシュア様は、ほっとしている私をみて、ほほ笑んだ。
「安心してほしい、私は、恩人には礼を尽くす……。嫌がるようなことは決してしない」
「……ありがとうございます?」
……うん、確かに命は救ったけどもリターンでかすぎない?命は大切だけども、とすこしたじたじになってしまうが、態度に出てないことを祈りつつ、残り時間を過ごすことにした。
「シャロぉ~」
「あぁ、はいはい頑張ったわねぇ。よしよし」
ようやく合流できたシャロに泣きつくと、いつものように宥められたが、事のいきさつをニーチェさんの翻訳を交えて説明すると、シャロは何度も確認するように
「フルルが?あのフルルが二人と踊った?」
と信じられないと言わんばかりに、何度も聞いてきたが無理もない、私、踊らないし、庭とかに逃げるし、シャロやお姉さまのところにすぐ退避するし、うん お母様が聞いたらビンタ五発くらいくるわコレ、と呆れてしまう。
元婚約者の所業に隠れて、私も、なかなか怠けていたんだなぁと反省してしまった。
明日から頑張ろう……うん、明日から。
「最近頑張ってる方じゃない」
「やったぁ」
シャロのお墨付きを受けたことで、この後、ジョシュア様から何聞いても「まぁ、別に今日シャロに褒められたしな」という事実で何とか乗り切れる気がした。
「もともと、どんな感じだったんだ?」
ふとニーチェさんに聞かれ、すごい遠い目をしながら淡々と私は答えた。
「元婚約者と、一回踊ったらシャロにずっとくっついてるか、壁際でぼーっとしつつ甘味をもくもくと食べてる感じですね」
「あー……容易に想像できるわぁ」
「いや、当時婚約者いましたし、ほら、男をとっかえひっかえしてたら、あれじゃないですか」
「確かになぁ」
ニーチェさんは納得するも、シャロは可愛らしい笑顔で言い放つ。
「フルルにそんな器量があったこと、一度もないけどねぇ」
「ばれてたぁ」
ニーチェさんはうーんと魘されてる私をみて優しく笑いつつ首を傾げた。
「まぁフルルらしいかな?」
「そうですね」
「まさかの意見の一致……私でなきゃ見逃しちゃいます」
あまりに早い、シャロの肯定にそういうも、残念ながら、その言葉が、二人に聞こえることは無かった。
後日、学院からそのまま、ニーチェさんと一緒に、ノルドハイム伯爵家に向かうことにした。
運転しているオルハは開口一番に
「駄目ですよお嬢、いくら気に食わないからって、殴り込みなんて……」
「しないよ。私を何だと思ってるの」
と、冗談交じりのやり取りをした後に、オルハは意外そうな表情を浮かべていた。
「ノルドハイムねぇ。昔、親父がスカウトされたことあるみたいっすけど」
「アルマが?……あーでもアルマ強いしなぁ」
アルマこと、オルハとエマの父親は、ベルバニア領の中でも指折りの実力者で、私のお父様同様、結構、首都の貴族から、声がかかることがあるのは知ってたけど、ありがたいことに、アルマは領地での生活に満足してる……。
まぁそれも、純血レウデール人だからかなぁとは思うけど、それにしても、世間狭いなぁと感心していると、オルハがぼんやり呟いた。
「まぁ、当時おふくろのお腹に姉さんいたから、断ったみたいっすねぇ」
「へぇ、初めてしったぁ」
「初めて言いましたもん 何の自慢にもならないし」
いやいや、国の高位貴族からスカウトされたって、それかなり自慢になるよ?と言いたかったが、まぁ本人が満足ならいいかなぁと、言葉にするのは憚られた。
その後も、オルハのお陰でのんびりとした空気感のまま、ノルドハイム伯爵家へと向かった。
……今更だけど、ニーチェさんとオルハって、兄弟みたいに仲がいいよなぁと、謎の気づきに、心がほっとしたのはここだけの話にしとこう。
「んじゃ、お嬢、怒っても氷の槍、降らしちゃだめですよ~」
「できるわけないでしょうが~」
ノルドハイムについて、オルハとそんなやり取りをしたあとに、伯爵家の使用人に案内された。
「おぉ……わざわざ申し訳ない」
「いえ……こちらこそ、お時間を作っていただき、ありがとうございます。」
相変わらず、デイヴィス様は丁寧にあいさつをしてくれ、いかにも、座り心地のいいソファへ促してくれた。
その後ろでは、ジョシュア様が、まるで補佐官のように立っているのが見えた。
「さて……フィリアのことだったな」
「はい、すいません踏み入った話を」
「いや、いいんだ。ジョシュアのことがなくても、ベルバニアのものから尋ねられたら、最初から答えるつもりだった」
だから気にしなくていいと優しく言った後、悲しげな表情に戻った。
「見れば見るほど、君はロクサリーヌ様に似てるな……。当たり前といえば当たり前だが」
「えぇと……」
何故そこで叔母様?と思いつつも、何か思うところがあるのだろう、口には出さず、デイヴィス様の言葉を待つことにした
「…………」
「………?」
……いやいや、おいおいおいおい?嘘だろ?ここでだんまりですか?大丈夫?喋る内容忘れちゃいました?と、思わずつっこみたくなるほどの沈黙の中、耐え切れなくなってしまい、首を傾げてしまった。
「あの、お話していただけるんですよ……ね?」
「あぁ、すまない色々考え込んでしまってな……ジョシュア、少しの間、頼む」
「あ……はい、おじい様」
まさか、ジョシュア様も、ここで振られるとは思ってなかったんだろうなぁ、心底同情しますと、いらないであろう同情を向けつつ、ジョシュア様と目が合うと驚くべき一言を告げた。
「フィリア様はいま、療養院に入られている」
「……療養院……?」
ジョシュア様のその言葉を私はそのまま返し、ニーチェさんは何かを理解したようにため息をついていた。
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