ぼんやり令嬢は有能親子に褒められるようです。
二日連続0;00投稿で申し訳ないです。
――ザァアアアアアア
あぁ、私のために空が泣いてるのね。
などとポエミーなことを思う暇もなく、容赦なしに頭から叩きつけられた
だでさえ泣きそうだったのに、追い打ちをかけられもうどうにでもなれと空を眺めていると、突如視界が真っ暗になった。
「風邪ひくぞ」
「あっあぁ……どうも」
「ちょっと屋根のあるとこまで行くか」
「……はい」
それがニーチェさんの上着だと気づいたと同時に、手ではなくかけられた上着の袖を持って屋根のある所まで案内された。
普段だったら魔法で服を乾かして、店内にでも入ってしまうのだが、狩猟祭前の王宮前はテロや景観を破壊される可能性を考えて、王宮で発行されてる許可証を持っていなければ罰せられてしまうため、それも叶わない。
「おーいおいおいなんだよこの雨は聞いてないんだが?」
空を睨むニーチェさんは、私に上着をかぶせてくれたせいか体中濡れててしまっている。
「ニーチェさん、これ」
「あぁ、ありがとうな」
カバンの中からハンカチを取り出し渡すと、ニーチェさんは受け取り水滴を拭く前に、ハンカチの刺繍を珍しそうに眺める。
「見たことない図柄だな、お嬢ちゃんが縫ったのか」
「そうです……けど」
「なんにせよ綺麗に縫えてるな、偉いえらい」
感心しつつ、呼吸をするように褒めてから感謝し、ハンカチをつかう姿を見て、この人はきっと当たり前に人の好意に感謝し、他人の長所をちゃんと見てくれる人なんだな、とこのたった十数分で思い知らされた。
「……ひっきし」
「風邪ひいちゃうよな、ちょっと待っててな」
王宮前のメイン通りの裏に入り、しばらく歩くと慣れた様子でどこかの店の裏口を開けた。
「ただいまー」
「ニィリエ、来るときは連絡しなさいっていって……とりあえず拭きなさい」
ドアを開け中に入ると、ブラウンの髪に新緑のように鮮やかな瞳をした凛々しい女性が、バスタオルを即座に渡した。
その女性はこちらを鋭い視線で見つめる、もしかして彼女さんかな、だとしたら誤解されたらどうしよう…。
この泥棒猫っていわれて、熱湯とかかけられたりしないだろうか。
緊張で固まる私に、でこの女は誰よと視線を向けられてることに気づいたニーチェさんは、なんの悪びれもなく答える。
「学院の生徒さんだよ、さっきそこで会ってな」
「……そう、風邪ひいちゃうでしょう上がりなさい。」
どうしよう、同居中の彼女さんだとしたら気まずいどころではない、場合によっては死体が一個出来上がってしまうかもしれない…。
その死体は勿論私です。
「悪いね、母さん」
「かっ母さん……え、お母様?」
脳内で遺書の文面を考えている間、今聞き捨てならない単語が聞こえ聞き返すと、母さんと呼ばれた女性はさも当たり前のように返事をする。
「そうだけれど」
「いやあの……お綺麗で…まさかお母様だとは……」
「……ありがとう、お風呂入ってきなさい風邪ひいちゃうわ」
うろたえながら答えるのもつかの間、後ろからタオルをお母様に返しながらニーチェさんは答えた。
「俺は従業員用のほうの借りるな」
そういうと、あれよあれよという間にニーチェさんとは反対方向のお風呂に案内され、従業員さんに服とタオルを渡された。
「あぁ着替えはおいてあるやつ着てくださいね」
「あぁありがとうございます」
入浴すると体があったまり、いろいろ緊張がほどけたせいか力がだいぶ抜け、少しだけ肩が軽くなった気がした。
用意された、ゆったりとしたミントグリーンのパジャマワンピースを着て、先ほどの部屋に向かうとニーチェさんにソファに促された。
「おーかわいいなぁそのワンピース、母さん次の新作?」
「試作よ、それでも可愛いのだけど少しシンプルすぎる気がしてね」
「試作……?」
疑問だらけの私に、ニーチェさんは小さい子供になぞなぞを出すように、優しい口調で問いかける。
「お嬢ちゃんフロルウィッチってしらない?」
「知ってますよ?私よくそこで服とか買ってます」
フロルウィッチといえば、庶民向けだけどそのデザインや、品質の良さから、王宮のお墨付きをもらうほどの有名な服飾雑貨を取り扱う店舗だ。
どれくらいものがいいかというと、フロルウィッチのワンピースは黙っていれば、貴族向けの服飾店のものと見間違うほどだと言われている
私も貴族令嬢とのお茶会や、公式の場じゃないときや、学院での移動時の軽い羽織など、そこまで見栄を張らなくていいものは言葉のとうりほとんどがフロルウィッチのものである。
「いつもありがとうね」
「ありがとう?」
唐突に、何故ニーチェさんのお母様が私に感謝するのだろう、と。
点と点が全く繋がらず、虚空を見つめているとニーチェさんはにこにこといい笑顔で答える。
「うん、ここはフロルウィッチの王宮通り店で、俺の母さんはそこの経営者」
「え?」
「そうよ、私はノージュ・ハイルガーデン、ニィリエの母でありフロルウィッチの経営者よ」
さらっと重大な事実を打ち明けられると、人間固まるんだなということを身をもって痛感させられた。
「ひぇ……」
バリバリのキャリアウーマンじゃないですか、そんなの、と驚いた気持ちから口から出たのは心の声とは裏腹に幽かすぎる声だった。
「とりあえずお茶飲む?」
「はいぃ……」
温まるわよ、と手渡されたティーカップを素直に受け取ることで精いっぱいだった。
「そういえば名前を聞いてなかったわね」
「フルストゥル・ベルバニアです。」
「ベルバニア?」
いつもの反応だな、と自分の中の説明テンプレートを脳内から引っ張り出そうとするも、それは和やかに静止された。
「あぁ、母さんベルバニアは西部にある旧レウデール領を治めている王室派の伯爵家だよ」
スラスラスラと辞書のようにベルバニア家の説明をしてくれるニーチェさんをさすがだなと感心するとそれを聞いてお母様、もといノージュ様は何かに納得したように頷いた。
「あぁどうりで所作が綺麗なのね、その年で流石だわ」
「いえ、そんなことは」
「褒められたら素直に受け取っていいのよ。」
急に褒められて、どうしていいかわからず固まるもノージュ様は恩着せがましい態度をとるわけでもなく、媚びているようにも感じもしない物言いでそっけないが母親やフィリア様のような圧迫感は感じなかった。
「俺もあった時から思ってたけどもっと自己評価高く持っても罰はあたらないよ?」
「……そう、ですかね……」
少ししかあったことがないのに、ニーチェさんもノージュ様も、何でここまで優しく褒めてくれるのかわからず、戸惑いながらなんとか返事をすることしかできなかった。
「ニィリエも飲みなさい」
「ん、ありがと……あぁ染みるぅ」
「大げさよ」
全く、とうっすら口角に笑みを浮かべた後、ノージュさんは思い出したようにつぶやいた。
ニーチェさんの表情と声から、疲労の色が濃いのが伝わり、やっぱり王宮勤めは大変なんだろうな、と内心同情を隠せなかった。
「ねぇ例の人探しってまだ終わりそうにないの?」
ノージュさんが思い出したようにいうと、その言葉を聞いたとたんニーチェさんはがっくりとうなだれた。
「まったくめども立たないよ、いま生徒を総ざらいしてるけどお手上げだよ」
生徒、と聞いて思わず関連があるのではと思い気づけば首をかしげていたらしく、ニーチェさんは優しく答えた。
「あぁちょっとうちの王女様のお使いでな、イズゥムル語とクティノス語の両方を流暢にを喋れる生徒を探しててな」
「流暢にしゃべれる……生徒」
なんとなくは喋れたことはあるが、それが流暢かどうかと言われればわからないし、大して勉強したわけでもないから、そもそも発音があっているのかさえも謎。
おそらく、私でもしゃべれるのだから国際学部や言語系の専門科目をとってたり、貿易に明るい家系の家柄の方のほうが詳しいだろう。
だが、自分以外で喋れる方も見たこともないので、大した情報もないのを心苦しく思いながらおずおずと発言する。
「明確にその人を知っているわけじゃないですけど、貿易や鉱石産業に明るい家系か、もしくは考古学者とか歴史家の血筋の方とかにいるのではないかと予想……したんですけど……。」
「……お嬢ちゃん頭いいね」
ニーチェさんは目から鱗だったようで、思わず頭を犬を撫でるようにわしわしとなでてきた。
その後ろではノージュさんも感心したように、なるほどねぇとつぶやくその中でようやく私は
「えっと……ありがとうございます?」
……と感謝の言葉を何とか述べることができたのだった。
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