ぼんやり令嬢は要望と質問には笑顔でお答えするようです。
「さぁ かけてちょうだい」
「はい……」
通された客間は荘厳な雰囲気で、どこか冷たささえ感じさせるものの、ユリアナ様がいるお陰か、冷えきってしまうほどの冷たさではなかった。
「オースティン、お姉ちゃん達はお話があるから、ばあやに遊んでもらいなさい」
「……はぁい」
とぼとぼとオースティン君が、部屋をでたのを見計らって、ユリアナ様の話を、聞くことにした。
「フルストゥルちゃん。もう本当にレヴィエのことは嫌い?」
「はい 嫌いです」
開口一番にそういわれ、思わず、何をいまさらとずっこけてしまいそうなのを抑えながら、私が間髪入れずに答えると、ユリアナ様は、女優顔負けなくらいに表情をゆがめ、泣きそうな表情で答えた。
「なんで?昔はあんなに仲良しだったじゃない……。それに、不貞が許せないほど、あのこの子とが好きだったんじゃないの?」
「はぁ?………ぁ失礼しました。こほん」
私の間抜けな返答とは反対に、隣に座っているお父様の表情は、もはや、敵をみつけたときの狩人のそれ、絶対に許さないといわんばかりの表情で、身内の私がみても膝が震えそうだが、ユリアナ様は、気づいていないらしく続けた。
「レヴィエがかわいそうとは思わない?」
ユリアナ様のその言葉に、ニーチェさんは珍しく嫌悪と落胆を含んだ表情、まさに嘲笑といった表情を浮かべると、冷たい声音で言い放った。
「かわいそう……ねぇ」
その言葉の裏に、自業自得だろという声が聞こえた気がしたが、それに気づいているのは、やはり私とおそらくお父様だけで、ユリアナ様は、私の言葉を待たずに勝手に話し始めた。
「レヴィエは、昔から、お父様とお母様に跡取りだからという理由で、厳しく育てられたの……。特に、お母様からは、ものすごく厳しくされてて……本当に可哀そうなくらいに」
それから始まり、今までいろんなことを強制され、厳しくされすぎたせいで、優しい私を感情のはけ口にしてしまったのだと、社交界でのいろんな女性の醜い部分や、様々な貴族たちによって心をえぐられて、性格が歪んでしまい、大事である私にあんな態度を取ってしまったが、本心では私のことが嫌いではないのだと、時折、泣きながら言っていたから、上手に聞き取れたかは定かじゃないが、おそらく内容にそこまで乖離していないだろう。
その説明を聞いて、私は怒りがじわじわと沸き上がってきた。
要するに、厳しく育てられたら、人の心の醜さを知ったら、劣等感を刺激されたら、他者を、自分の感情のまま、傷つけてもいいということと同義じゃないか。
たとえ自業自得でも、かわいそうなら、手を差し伸べなきゃいけないどうりは無いだろう。
何より、こうやって泣いてすがれば、私が同情すると思っていってくること自体が、不誠実じゃないだろうか。
今すぐに、目の前の茶器やら花瓶を割るだけ割って、こっちも泣きわめいてしまおうか、と思いつつも、出てきた言葉はあまりにも冷静で、自分でも驚くくらい冷たい声音だった。
「かわいそうだったら、私にどうしろっていうんですか?」
その言葉を、ものすごく前向きにとらえたのか、ユリアナ様は、笑顔を見せた後に私の手を取った。
「レヴィエを支えてほしいの、保釈金は私が払うし、身柄も私が預かるから、あの子が立ち直るまで、側にいてほしいの」
「な……」
怒りを抑えていたが、ユリアナ様のあまりに自分勝手な言い分に、お父様が立ち上がろうとするが、私はそれを手で制し、社交界用の貼り付けた笑顔で答えた。
「どうして赤の他人のために、ましてや、犯罪者なんかの側にいなきゃいけないんですか?」
「……え?」
まさか、断られるなんて微塵も考えてなかったのか、その表情からは、絶望がにじみ出ていたが、不思議と可哀そうなんて思えず、私は笑顔で答えた。
「わかりませんか?お断りさせていただきます」
「フルストゥルちゃん…どうして?」
わかりやすく狼狽えるユリアナ様に、私は呆れながらも、上品な笑みは崩さず、歌うような軽やかさで事実を述べた。
「婚約破棄しましたから」
「でも……」
尚も食い下がるユリアナ様に面倒くささを感じ、私はため息を吐くと、あちらはびくりと身を震わせたが、構うことなく答える。
「……分かりやすく説明しますね?私はベルバニア伯爵令嬢、由緒正しきベルバニア伯爵家の次女で、王立学院の魔法学科に所属していて……、今は王女の側仕え見習いをしております。そんな私が何故、国民の友人である竜を害し、国賓に危害を加えようとした犯罪者の更生に、手を貸さなきゃいけないんですか?」
「ひどいわ。そんな子じゃなかったじゃない……」
そんな風に言われるほど、私と付き合いないよな?とちいさい疑問を抱きながら、また子供のように泣き出すユリアナ様に反して、私は社交界の華と呼ばれていたお母様のように、自分の中で一番優雅に、けれど、毒を含ませた笑顔で上品に言いはなった。
「あら、わかりませんか?貴女の弟が私をこうさせたんですよ」
何で、何でとわめくユリアナ様は、とても稚拙で、見れば見るほど心が凪いで行くのを感じていると、扉が開き、そこにはレーベンス侯爵こと、ユリシーズ・レーベンス侯爵が驚いた表情でこちらを見ていた。
「ごきげんよう、レーベンス侯爵様」
「あ……あぁ……ええとこれは一体……」
驚くのも無理はないが、配慮をせずに私が言葉を続けようとしたが、今度はお父様が淡々と答えた。
「夫人が、私の娘に頼みたいことがあるみたいでね。今、丁重にお断りしてたところだ。」
「頼みたいこと……とは?」
「ユーリ聞いて、フルストゥルちゃんが……フルストゥルちゃんが、レヴィエのことを助けてくれないって言うの、酷いと思わない?」
「……ひどいな」
レーベンス侯爵は少し考えた後、冷たくそう言い放つと、ユリアナ様は先ほどの泣き顔が嘘かと思えるほど、可愛らしい笑みを浮かべ、私の手を簡単に離して、即座に侯爵の手をつかんだ。
「でしょう?」
「ユナ、君がだ」
「……え?」
侯爵はユリアナ様側につくかと思っていたから、私も、思わず張り付いた笑顔が剥がれ落ち呆けてしまった。
「君は、自分が何を言っているのかわかっているのか?」
「だって、フルストゥルちゃんは10年もレヴィエの婚約者だったのよ」
だって、だってと子供のように駄々をこねるユリアナ様に、侯爵は呆れた顔で、バッサリ切り捨てた。
「そうだな でも裏切ったのは君の弟だ」
「裏切るなんて大げさよ……」
世間話をするように、困ったような笑みを浮かべるユリアナ様に、呆れを越して、怒り寸前といった侯爵様は静かに答えた。
「……じゃあユナは、俺が他の女性を侍らせて、ユナを蔑ろにして許せるか?俺が、ユナに暴言や暴力を振っても許せるか?」
「……それは……」
「君の弟はそれだけでなく、彼女をずっと傷つけ続けたんだ。なのに、なんでそんなことを、彼女に頼めるんだ?彼女が断るのは、当たり前だと思わないか?」
そこまで侯爵に言われて、ようやく気付いたのか、私の方をみてカタカタ震えながら頭を下げた。
「ごめんなさい……私、考えが至らなくて」
「いいんですよ 別に」
「フルストゥルちゃん……」
私はなるべく慈悲深い笑顔を浮かべた後に、よく歌声を天使と形容されるお姉さまを意識して、歌うように述べる。
「どうやらユリアナ様は、暴言や暴力を振るわれても、贈り物を捨てられたり、他の方にあげられお返しがなくとも、婚約者としての義務を果たさなくても、目の前で、堂々と不貞をされても、婚約破棄をせずに支え続けられる、寛大なお心をお持ちのようで、私のような、狭量な小娘に理解するなど、おこがましかったようです」
私がとびきりの笑顔で、皮肉という毒を多く含ませ話すと、ユリアナ様と侯爵様は、硬直していたが、ニーチェさんとお父様は、反対に大笑いしているのを、私は一切止めることは無かった。
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