ぼんやり令嬢は人見知りなりに頑張るそうです
あの狩り場での一件から、家に届く色んな招待状の量が、一気に増えた気がすることから目をそらしたかったが、流石に逸らせる量じゃないよなぁと落胆し、伯父様と相談した結果…。
まず、お姉様の同級生であるジュリア様がいる、ベルバニアに友好的な家である、カトリーナ伯爵家で、行われるお茶会に出席することにした。
運が良ければ、お姉様がいるかもという淡い期待を込めているのは、内緒である。
「ようこそ フルストゥル嬢」
「お招きありがとうございます。ジュリア様」
カトリーナ伯爵家の、ご令嬢であるジュリア様に頭を下げると、まるで私の到着を待っていたかのように、周囲はわっと盛り上がった。
幸か不幸か、彼女らからは野心や敵愾心を感じなかったが、こちらに興味津々、といった空気を肌で感じ取ってしまい、勝手に萎縮してしまった。
こういうときに、普段、どれだけシャロやレベッカ様に、助けられてるのか悲しいくらい痛感してしまうが、ええいもうどうにでもなれ、という思いで席に座ると、ジュリア様は優しく微笑んだ。
「ふふ……まさか、ベルバニア伯爵令嬢が来てくださるなんて、嬉しいですわ」
「ありがとうございます……」
ジュリア様は、心から、私が来たことが嬉しいといわんばかりに笑顔を向けてくれ、興味こそあれ、私を害そうという雰囲気は感じなかったお陰で、ようやく張り詰めていた気を、少しだけ緩めた。
流石に私に何にも触れず、とはいかず、たまに学院でのことや王宮での仕事の内容、もちろん当たり障りのない内容だが、質問され、何とか問題なく答えられた。
私が答えている最中も、にこやかでどう説明していいか……、まるで、子供の話を聞いてくれるような、終始和やかな雰囲気で、彼女たちの中で、私の印象が悪くなることは無いだろうと、なんとなく、謎の達成感を感じている暇もなく、またまた質問が飛んできた。
「そういえば、フルストゥル嬢は、このままハイルガーデン男爵子息と、婚約されるのですか?」
「ちょっと……」
踏み込みすぎ、と止める声はあるものの、本気ではないんだろうなぁとその様子を見て、内心苦笑してしまうものの、周囲の興味津々な表情に、どうしたものかと固まってしまう。
元々、レヴィエ様と婚約破棄をした後、何故か私に、関わろうとするレヴィエ様が、私に危害を加えかねないと判断したアイン様の提案で始まった。偽……というより、この婚約者候補という、立場の行く末は正直私にも分からなかった。
ニーチェさんもアイン様も、私に、好きな人ができたらいつでも解消していいよ、とは言ってくれているが、ニーチェさんには、基本アイン様の命令とはいえ、沢山時間もお金も使ってもらっている……。
それこそ、レヴィエ様なんかよりも、よっぽど婚約者としての義務も果たしてくれている、けれど、このまま本当に、婚約するイメージがあまり浮かばなかった。
ニーチェさんに不満なんてない。
家柄だって、正直貴族らしからぬ考えだが気にするところでもないし、寧ろ、領地運営で細々と収入を得ているうちに比べれば、ハイルガーデン家のほうが、資産があるだろうし、男の人がやや苦手な私が、珍しく、ここまで緊張せず関われているのを考えても、このまま婚約した方がいいのは、分かっている……けれど。
「正直……分からないです。」
口からでた言葉は、とても頼りないものだった。
私はよくても、ニーチェさんはどう思ってるのかもよくわからない。
それに、元々はアイン様の提案だから、本当はいやいやかもしれないし……、という思いからでた言葉だったが、彼女達の、でもといいたげな表情に、とりあえず困ったような表情で、首をかしげた。
「まだ、仕事が忙しいですし」
何か言われる前にそう言って曖昧に微笑むと私とレヴィエ様との関係、というか婚約破棄の一件を知っているからなのかそれ以上踏み込もうとする人はおらず、狩猟祭でのドレスの話や最近流行りのアクセサリーの形、社交シーズンが終わったらどう過ごすか無難な会話に軌道が乗ったので何とかやり過ごせた。
「お嬢、すんげぇ顔してますけど?」
「みなまで聞かないでオルハ」
帰りの馬車に乗る前に、オルハにそういわれたが、自分の表情が、どれだけひどいのかは自覚できている。
何故なら今目は、半開きでしょぼしょぼしているし、何なら視点はずっと斜め上だし、口は少しだが、無防備に開いてるときたら、そりゃもうひどいでしょうよと、何の弁明にもなっていない言葉を、心の中で言うも、それが音になることは無かった。
「まぁ、今日のお茶会結局ツイ様来なかったんでしょう?」
返事もできず頷くと、オルハは、同情を沢山含んだ声色で答えた。
「人見知りっすもんねぇお嬢」
「うー……」
今まで人に、姉や、シャロに、頼りきっていたツケが回ってきてしまった。なんならあの元婚約者からも夜会で別れる際に、帰っていいといわれていたしなぁ……。
気を使ってくれていたわけではないだろうけど、そういった交流を、ほぼしなくてもよかったのと、何かお茶会があるときは、必ずフィリア様がいてくれたからなぁ……。
そういえばフィリア様、どうなっちゃったんだろう。
もし、伯父様が知っていたら聞いておこうかな、いやもう今日は疲れたからいいやぁ、と思っているうちに、タウンハウスに到着した。
――もう本当に私、頑張った本当に、今日は息してるだけで偉い――
諸々終わらせて、ベッドに入って自分でねぎらいつつ、ふとお茶会で聞かれた質問を自分にもう一度投げかけてみた。
私は今後ニーチェさんとどうなるんだろう、どうなるべきなんだろう。
私は、どうしたいんだろう……。どうすれば……と、どうどう巡りが繰り広げられていたが、結局結論が出るわけはなく、悩んでいた割には、妙に、ぐっすり眠ってしまったのはびっくりしたが、おかげで授業もちゃんと聞けて、何にも問題なく一日が進むはずだったが、それはまさか下校直前に、にひっくり返されることになるのだった。
「じゃあ帰るわね、ニーチェさんによろしく」
「うん、じゃあね シャロ」
シャロも最近、狩猟祭前にいろいろやることが多いらしく、すぐに下校してしまうからさみしいなぁと思いながらも、ニーチェさんが迎えに来てくれるのを、のんびり待とうかなと、カバンから本を取り出したその時、クラスメイトから呼び止められた。
「ベルバニア嬢、お客様が……」
「客……?」
あまりに聞きなれないその言葉に、怪訝な表情を浮かべ出入り口まで歩くと、まさか、ジョシュア・ノルドハイムが、やや威圧的な表情で立っていた。
――はぁ、何か言いがかりをつけられるのかな――
と、思わず魔道具をさすってしまうが、私の姿を確認した途端、ジョシュアさまはその険しさを緩めた。
「フルストゥル・ベルバニア伯爵令嬢……。先日のこと、心より感謝しています」
「……いえ、お怪我がなくて何よりです」
怒られるわけでもなく、まさか、頭を下げられるとは思っていなかったからか、私は呆然としてしまった。
それを、私がまだ怒っていると判断したせいか、ジョシュア様が更に頭を下げた。
「貴女に吐いた暴言、そして私のとった横暴な態度は、到底許されるものではないことは、承知しています。」
「いやいや、えっとそうじゃなくて……えぇ…………」
どうしよう、と悩んでいるうちに、周囲はざわめき始めて、内心気が気じゃないと思ったその時、助け船は現れた。
「お待たせ、行こうか」
「ニーチェさん……」
あまりの安心感に、表情に出てしまっていたのか、私の、不安と安堵の入り混じった表情と頼りない声と、周囲の状況で何があったかすぐに分かったのか、周囲の視線から隠すように、上から上着をかけてくれ、周囲から隠しつつ、私を背に隠して、ジョシュア様と距離を取ってくれた。
「すいませんね フルル人見知りだから」
ニーチェさんは、ジョシュア様にそれだけ言うと、手を引いて、その場から離れることができて、ようやく息がゆっくり吐くことができた。
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