ぼんやり令嬢は事故を未然に回避するようです。
先程まで居た場所は、主に馬に乗らないで狩猟する区間だったらしく、もう少し先に行くと、先程いた狩り場よりも開けており、やはり下見なのだろうか、馬をゆっくり歩かせているのがみえた。
「先程よりも広いですねぇ」
「さっき見てきたのは、主に小動物や狐とかを狩るような……、女性や初めて参加される方々が主に使用されるところですから、あまり広さもいらないんですよ」
「そうなんですねぇ……」
お付きの方はそう言うと、狩り場の門を開けてくれた。
入ってみると、あまりの広大さと、下見をしている方々の異様な緊張感が、ひしひしと伝わってきた。
……みんなやる気満々すぎない?と思ってしまうが、そんな疑問にギャラン様が答えた。
「まぁ、武勇を令嬢らに見せつけるいい機会なのと、王族に、いいところを見せたいって感じかな」
「なるほど……」
「まぁ、中にはベルバニアみたいに、義務だから参加してるとこも多いけど、こうやって下見に来てるのは、熱心なところばかりだよ」
「そうなんですか……」
まぁ野心とか、見栄とかに程遠いうちにしてみたら、勝手にやってて、って感じだけれども後々聞くとそれだけでなく、純粋に、腕試し目的の方々もいるらしい……。
どっちにせよ、私には関係ないことだなぁと思いながらも、ぼんやりと風景を見たあと、ギャラン様は、何か用事が入ったのか、そこで一度別れることとなった。
「戻りますか?」
「せっかくだし 設備の確認をしとくか」
「そうですね」
そして、ニーチェさんと設備の確認をしていると、騎士の方々がぞろぞろと現れた。
こうやって体格がいい方が集まっていると、迫力がありすぎて、ニーチェさんの後ろに隠れてやり過ごそうと思ったが、その先頭にいた騎士の中でも、体格のいい方が人のいい笑顔で、ニーチェさんにずかずかと近づいてきた。
「おお、ニィリエじゃないか」
「お久しぶりです」
にこ、とニーチェさんも、人好きのいい笑顔で対応するその姿に、私は思い出してしまった。
そうだニーチェさんの社交性の高さをなめちゃいけない……。
なんか知らないけど、いつの間にその場に溶け込んで、昔から友達でしたけど?みたいな雰囲気でしれっと交友関係が広がっているような人だった。
考えたら考えるほど、自分と正反対すぎて謎に凹んでしまったが、ぼんやりしているうちに、先頭の騎士の方に、距離を縮められてしまった。
「お?それが 最近お前が可愛がってるって噂の猫か?」
「口には気を付けろよ? 全く……」
ニーチェさんが私を守るようにしてくれるおかげかあまり緊張せずに、といっても少し挙動不審になりつつも声を出すことができた。
「ぁ……フルストゥル・ベルバニアと申します。」
「ベルバニア……ってあのチェーザレ様の?」
「お父様が……何か……」
あまり首都にいかない、お父様のことを何故知ってるのだろうと、首を傾げると焦れたのか何なのか、先ほどより大きな声で問いかけた。
「何かって、あのチェーザレ様だぞ?」
あまりの迫力に喉からひゅ……というよりひぇ……と声が出た上に、ニーチェさんの裾を強く持ったせいか、ニーチェさんが、呆れたような怒ったような口調で、騎士に返答した。
「意味が全然伝わってないんだよ、あと大声出すな、フルルが怖がってるだろ?」
「あ……すまん」
おそらく、この方は悪い人じゃないだろうなと思いつつ、少し、圧の強さにあてられたため、そのままニーチェさんの後ろに隠れていると、騎士の中でも、華奢な雰囲気の方が優しく説明してくれた。
「チェーザレ様は、氷の魔術とその剣技の腕から私たち騎士の間では密かに人気なんですよ。」
意外だなぁ、あのうちの家族の中でも、一番ぼんやりしているといっても過言ではない。
なんなら、一番涙もろいお父様が……、と考えていると、冷静そうな騎士の方が淡々と答えた。
「ベルバニアの凍魔のチェーザレといえば知らない者はいないだろう。」
……ごめんなさい、娘だけど全然知らないんですけどそんなの……と、思っていると、ニーチェさんが苦笑していた。
「まぁ、フルルの前じゃ、過去の栄光を振りかざさない、いい父親だってことで」
いいことなんですかね、これって、父親の功績とか全然知らない娘って、ものすごく親不孝者なのでは?と思ったものの、騎士の方々は、口々にニーチェさんの言葉が腑に落ちたのか、各々納得した様子で。
「チェーザレ様らしい…」
「たしかに……」
といった風に呟いていた。
その後少し談笑し、騎士の方々は、軽く馬を走らせてくるといって別れると、先ほど数匹程度だった馬が、慣らしのために走る方々が増えたせいか、ひらけていた狩場は少し埋まっていった。
……馬だけに、こほん。
その光景をみたあと、ニーチェさんはすこしそれらを眺めた後、こちらに優しく微笑んだ。
「少し増えてきたな危ないから。そろそろ戻ろうか」
「はい」
そうして狩場に背を向けたその時に、どこか異様な馬のいななきと、叫び声が聞こえ、すぐに二人で振り返ると、ざわめきはとどまることがなかった。
「何だ?」
「……多分、環境とかの影響で、馬が暴走してるのかも……」
私の予想に、ニーチェさんも同意したのか、あたりを見渡して呟いた。
「まずいな……」
それはその通り、先ほどの騎士たちのような屈強な人らでも、馬に轢かれたら絶対に無傷ではいられないし、ここには国の重鎮である貴族らもいるから、彼らに何かあれば、問題どころじゃ済まないだろう。
「……ニーチェさんは皆様の誘導をお願いします」
ニーチェさんが頷いて、誘導しようと駆け出すと同時に、私は、門の近くにつながれた馬の方へ歩いて行った。
「ごめん、いい子だから乗せてね」
よしよし、と何度かなだめた後に、いい子だったお陰か、すんなり乗せてくれた。
「ちょっといってきます」
「ちょっとってフルル」
どこにと驚いた表情のニーチェさんに心の中で
ごめんなさい、説明はあとでします、と心の中で謝罪をしそのまま騒音のする方へ走っていく、もちろん乗ってる馬をなんどもなだめつつ、ゆっくり進んでいくと、深い茶色の馬が蛇行するように走っていた。
幸い周りには人もいないおかげで私の乗ってる馬も大分落ち着いてきた。
そのまま走ると、先ほどあったジョシュア様が、振り落とされないように、身をかがめて捕まっていたが、何度も馬に止まれと叫んでいるせいか、落ち着く様子はない。
そして、ようやく並走することができると、先ほどのように、敵意丸出しの眼差しで、こちらを睨みつけてきた。
「なっお前……」
「しっ……落ち着いて……今その子、周りの音にびっくりしてたみたい」
思わず敬語も外れて、そう忠告してしまったが、今は命にかかわること、そんなの気にせず私はジョシュア様に告げた。
「そのまま手綱はしっかりつかんでまっすぐ行って……。回らなくなれば、自然と止まると思います」
「…………わかった」
そうして、意外にもジョシュア様は、私の言葉をすんなり聞いてくれたおかげで、すぐに暴走は落ち着いた。
「お怪我はありませんか?」
敵意を向けられた相手だが、純粋に心配になってしまい、思わずそう問いかけてしまったが、いつか、元婚約者のことを心配したときに、肩をぶつけられたことを思い出し、身構えるも、肩が破壊されることは無かった。
「……すまない、助かった。」
「ぁ……はい……」
元婚約者のせいだろうか、返ってきた感謝の言葉に対して、私はどうしていいか分からず、きょとんとしてしまうのだった。
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