ぼんやり令嬢は敵意に慣れてるそうです。
「おお、似合ってるなフルストゥル嬢、ニーチェさんもかっこいいっすね」
いつの間にいたのか、顔面国宝ことギャラン様が、爽やかに褒めてくれ、驚いている私の後ろで、アインさまが可愛らしく呆れていた。
「ちょっとノックくらいしなさいよ」
「したよ」
全くもう、とギャラン様は肩を落とす、少し呆けてしまったが、ようやく私は頭を下げた。
「ギャラン様、ありがとうございます。」
眩すぎるご尊顔から、目をそらしつつ笑顔を浮かべると、ギャラン様は苦笑した。
「良ければ今から、狩り場の見学にいくんだけどどうだ?」
「狩り場の見学?」
首をかしげる私の後ろで、アイン様はにこにこと答えた。
「いいんじゃない?フルルちゃん、狩猟祭いったことないんだし、見てきたら?」
「……えっとぉ……」
戸惑っている私同様に、ギャラン様の護衛のような人が、困り顔で意見をのべる。
「殿下、ですが…近くには馬もいますし、令嬢にはその…」
「フルストゥル嬢は、あのベルバニアの生まれで、馬には慣れてる」
確かに、他の人より、昔から馬には慣れているし乗れるけど、ギャラン様がいうほどでは無いんだよなぁ……。お兄様とかみたいに、乗りながら、弓とか撃てないし……。
本当に、馬を古くからの友人としているベルバニア家としては、ギリギリ及第点くらいなんだけれど、いいのかなぁ、と思い何とも言えず、ただたたずんでいると、あちらも、私の立場上、何も言えないことを察したのか、お互い会釈した。
「……そうですか」
不安だなぁ、大丈夫かなぁと思っていると、後ろで、支えるように立っていたニーチェさんも、口を開いた。
「いいんじゃないか?」
「ニーチェさん」
「俺たち運営側が、狩り場のことをしっていた方が、いざというとき対処できるだろう?」
「……確かに……でも、私が行っても何か役に立てるとは……」
思えないんですけど、と喉まで出かかった言葉は、ギャラン様にさくっと潰された。
「いや、年々だが女性の参加者も増えている、是非女性側の意見もききたい」
「……決まりだな」
ニーチェさんは、不安そうな私を安心させるように微笑んで、優しく肩を支えてくれた。
「……はい」
「いってらっしゃ~い」
アイン様に、まるで遠足に行く子供を見送るような雰囲気で、見送られた。
王宮から少し離れた森、もとい狩り場は、うっそうとしているわけではなく、かといって恐ろしいわけではなく、いろんな植物があるせいか、いつか、ニーチェさんが言っていた、植物園の話を思い出した。
「思ったより明るいんですね」
「どんなのを想像してたんだ?」
「密林とか……?」
私のその言葉に、三人はそれはない、と息ぴったりに首を横に振った。
そんな息ぴったりなことありますかね?と流石に聞きたくなってしまったが、不敬すぎてそれは憚られた。
そして歩いていくと、解放されているせいか、人影や馬がちらほら見えてきた。
「あそこに馬舎があるんですね」
少し遠くに騎士の宿舎もあるせいか、それはそれは、立派な馬舎を眺めながら呟くと、護衛の方はにこやかに答えた。
「そうですね、ベルバニア嬢は確か乗馬が得意と聞きましたが……」
「得意というほどではありませんよ 昔から乗ってただけで」
「そうですか ちなみに何か得意な武器とかは……」
「恥ずかしながら私武芸は何にも……」
そんな話をしつつ、まずテントや設備の案内をされることとなった。
場所取りというよりも、当日のルートとかの確認や、自分たちのテントの設営などのために、まぁそれはそれは、沢山のテントが張られているし、やや遠くに、は色んな馬車が並んでいた。
「すごいですね……お祭りみたいいや祭りですけどね」
「言いたいことは分かるけどなぁ」
私のぼんやり発言にニーチェさんは笑うも、一瞬にして我に返ってしまいニーチェさんに問いかけた。
「今 こんな厳かな服装ですし、もうちょっと、頭のいい発言した方が、いいですかね?」
「無理しなくていいぞー」
「そっかぁ~」
自分でも、これ効果音がつくとしたら、ほわーんって感じだろうなぁと思うほど、のんびりとした会話の横で、ギャラン様が笑いをかみ殺していた。
……この王太子笑いすぎでは?と思ったが、なんか護衛の人も笑っていて、流石に失礼じゃないかね?と思うと、弁解の言葉が返ってきた。
「姉さんから聞いてたけど、本当に仲がいいんだな」
「なんか二人とも兄妹みたいですね」
ほほえましいですと、付け加えられるも、少し不服そうにしてるのがばれたのか、ギャラン様が小さく笑って。
「悪かったって今度課題教えるから」
「わかりました。」
そんなやり取りをしながら歩いていると、やはりギャラン様がいるからか、多くの貴族に声をかけられるも流石、というより慣れているのか、ニーチェさんとギャラン様は、難なくさばいていくのは、達人技としか言いようがなかった。
二人がいろんな方々と話している間に、様々なテントを見ていると、見たことがあるような家紋が刺繍されたテントが目に入った。
私がなんとなくでも覚えているということは、一応、昔からある家門ということは、分かっているが、果たしてどこだったかなと思いをはせていると、意外にも、ギャラン様のお付きの方が、答えを口に出した。
「あぁ、お久しぶりです。ノルドハイム伯爵」
ノルドハイム伯爵と呼ばれた上品な老紳士は、お付きの方に会釈した後、私の方に向き直った。
「久しぶりだね、フルストゥル嬢……。娘らが、君に迷惑をかけたようで、申し訳ない」
「娘……ぁ」
娘という言葉と、あの人によくにている瞳をみて、ようやく合点がいくと、私の表情で察したらしく、男性は穏やかに微笑んだ。
「あぁ、そうだ私はフィリア・ブランデンブルクの父、デイヴィス・ノルドハイムだ。あまりあったことは無かったから、分からないのも無理はない」
「すいません、私とんでもない失礼なことを……」
頭を下げる私に、デイヴィス様は気にしなくていいと微笑んでいるが、その後ろにいる、どこか、レヴィエ様とにている私と同い年くらいの少年が、こちらを睨み付けていた。
「……そんな奴に礼を尽くす必要はないです。おじいさま」
「えっと……」
敵意剥き出しなところ申し訳ないけれど、誰だかわからないんだよなぁ……と、思いつつへにゃりと笑っていると、それも気にくわないのか、さらに目付きは鋭くなっていった。
「こら……ジョシュア……申し訳ない、フルストゥル嬢」
「いえ」
正直、元婚約者のお陰で睨まれるのになれてるせいか驚くほど何にも感じずそのままデイヴィス様に向き直るも、ジョシュアと呼ばれた彼はそれすらも気にくわないのかさらに語気を強めた。
「どうしてです。おじいさま、この疫病神のせいで、フィリア様が……」
「いい加減にしないか ジョシュア」
「っ……」
デイヴィス様の、あまりの迫力にジョシュア様が黙るも、まぁ、ジョシュア様の気持ちがわからないわけではないのと、さっさと事が終息して欲しい気持ちから、デイヴィス様に微笑んだ。
「デイヴィス様、私は大丈夫ですから……」
「娘らのことといい申し訳ない」
「お気になさらず……」
そうして、何度か言葉のやり取りをして、デイヴィス様らと別れると、ニーチェさんに、頭を撫でられた。
「災難だったなぁフルル」
「大丈夫です。意味のわからない敵意にはなれてます」
「……慣れてていいのか?」
ニーチェさんは、少し戸惑っていたが、後ろで、またもギャラン様が笑っていたのを、私は見逃さなかった。
え?この人、私の不幸みて笑う感じです?という思いで凝視していると、ギャラン様は、笑顔で答える。
「悪かったって……後で、王宮直属パティシエの、苺ミルフィーユをご馳走するよ」
「……わかりました」
……そうして私は、あっけなく物につられるのだった。
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