ぼんやり令嬢と衣装合わせ
その後色々話して、今後も分からないことがあったら、遠慮せず聞きに来ていいことと、今度補講をいろいろやってくれるのは、正直ありがたかった。
私のクラスは、本当に殿下をはじめエリートばかりなせいか、そこを基準に授業を進めると、私にとって、もはや文字を写すだけの作業になったりするから、本当にありがたいなぁと思うのと同時に、仕事増やして申し訳ないなという気持ちもあったが、その提案を、甘んじて受け入れることにした。
「あと、保護者にも、一応このことは報告しようと思っている」
「してどうなるんです?」
「どう……とは」
きょとんとした私の発言に、マオ先生もきょとんとした顔で答えた。
「だって、今更、一年次の成績が変わるわけでもないですし……。お父様はともかく、お母様は、そんなに私のことに興味ないですよ?」
「……不仲なのか?」
「不仲じゃないですよ?別に虐待とかされてるわけじゃないですけど……うーん」
数秒考えて、適切な言葉が思い浮かばず、うんうん唸っていたが、探してた言葉が思い浮かび元気に答えた。
「期待されてないだけです」
それです、そうこれが言いたかったんですよと言わんばかりに、ぐっと拳を握りしめて元気よくいった。
「そんな元気よく言うことではないだろ……」
「言われてみれば……?でも実際、上に兄、姉一人ずついたらこんなもんですよ」
えっへん、と胸を張って言うと、マオ先生はすごい憐みを込めた目で見た後、何かに納得したように、ため息をついていた。
そんな話の後だったが、先ほどの話のあとのお陰か、無駄な清々しさのせいか、何も心は痛まなかった。
そうして、その清々しさのままアイン様のところにニーチェさんと向かうと、狩猟祭が近づいているせいか、外国の方々を見かけることが多くなったなぁ、と感心してしまった。
「久しぶりね、フルルちゃん」
三日ぶりに見るアイン様は相変わらず美の女神すぎて、心が洗われ、ちょっと軽く拝みたくなり頭を下げつつ、ジゼルが育ててくれたサンドリヨン・ダリアの花を献上すると、アイン様は笑顔を浮かべた。
ちなみに氷の魔術で瞬間冷凍させてるので、萎れたりとかしていないお陰か、精巧な作り物みたいになっている。
「アイン様、お久しぶりです。これを受け取ってください」
「あらぁ、ありがとう綺麗ね」
アイン様は、にこにことほほ笑んで頭を撫でながら、言葉を続けた。
「ごめんねぇ。ニーチェが突然来て、びっくりしたでしょう?」
「びっくりはしましたけど、楽しかったです。」
「そう よかったわ」
優雅にほほ笑んだ後、アイン様はそうそうと花のようにほほ笑んだ。
「二人がお休みの間に、礼服が届いたのよ サイズとかデザイン変更の都合もあるから着てきて見せて、できたら並んで」
「後半私欲では……?」
ニーチェさんの言葉に、アイン様は ん?と笑顔で圧をかけていた。
うーん、並んでもいいけどニーチェさんと並ぶと、ニーチェさんの背が高いのと、脚が長いのが相まって、私がより一層小さく見えるのと脚が短く見え……、ここまで考えて私は勢いよく手を上げた。
「脚が長く見えるデザインがいいです」
「そっかそっかぁ」
ぽんぽんとアイン様は、私の頭を撫でたあと、いとも簡単に背中をおした。
「あぁ~」
アイン様、意外と力強いんだよなぁと感心しているうちに、あれよあれよと、王宮のお針子さんたちに服を着せられてしまった。
「ベルバニア伯爵令嬢の、綺麗な蒼い髪に、この服はよく映えますね。」
「ありがとうございます。」
お針子さんたちが言うと通り、この礼服は、白と青を基調とし、精巧な装飾は銀色で統一されていて、ところどころにサファイアが飾られているが、派手過ぎず厳かで上品で、流石、王族の側仕え用の礼服とひやひやしてしまった。
もちろん、布の品質もいいのか、思ったより軽いのはそのせいかもしれない。それを自覚すると冷汗が出てきた。
「髪飾りはどうしましょうか」
「月桂樹もいいですけど、芍薬も似合いますよねぇ」
「ニィリエ様との対比を考えましょうか」
……この光景、見覚えがあるなぁと思ったら、何時ぞやのフロルウィッチでの光景だ。
そうそうそれそれと、納得している間に、お針子さんたちの会話は、白熱していった。
「ここの丈は短い方がいいと思われます。」
「いいえ、この長さが一番上品に見えます」
「確かに……でしたら、ここを少しだけ詰めるのは?」
すごい勢いで、くるくる回されながらも、お針子さんたちは、真面目に審議を続ける。
「……その方がシルエットが綺麗ね詰めましょう」
「袖は、もう少しゆとりがあったほうが、動かしやすいのでは?」
「そうね」
そうして、永遠と思える時間が過ぎ、ようやく壮大な微調整が終わり、アイン様の前に行く前に、ニーチェさんと鉢合わせになった。
ニーチェさんも私同様白と青、それに銀の装飾が施された礼服……。どこか騎士のような雰囲気を漂わせた、まるで、恋愛小説に出てきそうなその風貌に、思わず心の声が、駄々洩れてしまった。
「はぁ…控えめに言ってかっこよすぎる……。お針子さんのお給料百倍にして……。」
「あぁ……おぉ……ありがとうな……」
ニーチェさんは、私の素っ頓狂な発言に怒るわけでもなく、すこし戸惑いつつ笑って返答した。
「あっごめんなさい本音が……」
その反応を見て、思わず、心の声を一切濾過せず言ってしまったことを自覚し頭を下げた。
「フルルも清楚だけど凛としてて綺麗だな」
余裕を取り戻したのか、普段通りの余裕たっぷりな笑みを浮かべると、またまた理性のタガが一個外れてしまった。
「ぐっ…顔がいい……」
「おぉ、ありがとうな……」
……ニーチェさんの前で、失言が舞い踊っているけれど、私は悪くない。
かっこよすぎるニーチェさんが悪いから、私は無罪です。と心の中で大きく旗を振っていた。
そうして、失言祭りを繰り広げていたのもつかの間、ホールには、青い、それこそキャシャラトの広大な海のような、美しいドレスを纏ったアイン様が、たたずんでいた。
「女神様がいる……」
「ふふ、ありがとうねフルルちゃん。よく似合ってるわよ」
「ありがとうございます」
「ニィリエも」
「ありがとうございます……と飾りずれてますよ」
「ありがとう」
ニーチェさんが、そうやってアイン様の髪飾を直しているその光景は、まさに、女神と騎士といった雰囲気で、はやく誰か腕のいい画家を呼んで、この光景を書いてもらって、それを国で保護してほしいと思ってしまった。
「あ……ちょっとまって……。二人で並んでくれる?」
「はーい」
アイン様に言われるまま、二人で並んでみると、アイン様は満足そうに微笑んだ。
「うんうん、二人ともおそろいで可愛い可愛い」
「俺らは着せ替え人形ですか?」
ニーチェさんが、全くもうと妹にするようなあきれ顔で答えるも、その間に、私は礼服の素材感をチェックしつつ、小声で首を傾げながら答えた。
「……こんなにいい服着せてもらえるなら悪くない……かも?」
「あらぁ嬉しい~」
ぎゅーと、優しくアイン様は抱きしめてくれたが、横でニーチェさんは、心底心配そうに、けれど、優しく小さい子供を諭すように呟いた。
「フルル、頼むから、抵抗ってものを少しは覚えような?」
「余計な事吹き込まないの」
そうニーチェさんの言葉に、ほほを膨らませるアイン様は、もうそれはそれは愛らしく、多分私でなければ、うっかり気絶してしまいそうだ。
よかった私で、と意味の分からない心配のようなものを、してしまったのだった。
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