ぼんやり令嬢と法律事務所。
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「フルル、今日の放課後ついてきなさい」
登校してきて開口一番にシャロにそういわれて、あぁこれは拒否権がない奴だと理解し頷きながら、一体どうしたのだろうと考えている間に、いつの間にか一日の授業が終わっていたらしく担任の先生から何度も
「具合が悪いのか?」
「心配事か?」
「…無理はしないようにな」
としきりに心配させてしまった。
申し訳ないが、そういう日もあるということで許されたい。
「今からどこに行くの?」
「いろいろ解決してくれるところよ」
それだけ言われついていった先にあった建物は、私のような世間知らずでも知ってるほどの有名な弁護士事務所だった。
「シャロ……こればかりは無理じゃない?」
見上げれば見上げるほど、今からここに入るということが信じられなかった。
「ペルシュワール法律事務所って、あのペルシュワール事務所だよね?」
シャロはそうよ、と返事をした。
が、こんな有名なところに本当に入れるのだろうか、と考えていることが隠れてなかった。
「フルル、忘れてない?私ロゼットロア公爵令嬢よ」
自信満々にほほ笑むシャロに、心の中でひれ伏しつつ心の声が隠れることなく口から漏れ出た。
「やだこのこ、権力の使い方が上手だわ、将来が楽しみすぎるわ」
「ありがとうね」
そんなやり取りを呆れたように見守りながら、この前謝罪をしてきたばかりのマリアン・オルドリン様はため息をついた。
「……で、私は何で呼ばれたのかしら?」
「証人は必要でしょう?さっ入るわよ」
言い切りながら迷いなく、事務所のベルを鳴らした。
「予約をしてた、ロゼットロア公爵家のものですけど」
堂々とシャロは社交用の笑みで出てきた受付嬢に名乗るも、出てきた職員はひどく驚いていた。
「え?子供?」
受付嬢さんは邪険にする、というよりも戸惑いを隠しきれないという感じで、何度もシャロと私たちを見返した。
それを見かねたシャロは、にっこりと怖いぐらいのつくり笑いで受付嬢さんに詰め寄った。
これは、内心イライラしているときのシャロが、良くやる表情なのだが、この職員さんはそれに気づくことはないんだろうな、とあまりの予想外の出来事に思考を散らしながら、ぼんやり看板を眺めている隣で、シャルロットが小さく舌打ちしたのは気のせいだと信じたい。
あと受付嬢さんに聞かれてないことを祈りたい。
そんな私の気持ちを無視するように、シャロは、鞄から分厚い封筒を差し出しとびきり愛らしく微笑んだ。
誰からみても分厚く、そこに入っている金額だけで、平民の方は半年は仕事しないでも暮らしていける額が入っているのは明瞭だった。
「安心してくださいお金ならありますから」
あまりの金額に受付嬢さんだけではなく、私とマリアン様も数秒瞬きすることもできず固まってしまったが、ようやくシャロのほうを全員で振り返ると、シャロは可愛らしく困ったような笑みで職員に問いかける。
「……足りないかしら?」
私たち同様固まっている受付嬢さんにシャロは首をかしげながら問いかけた。
「いっいえ十分です」
首をぶんぶん振りながら、あまりの大金に驚いてるのが手に取ってわかる、
それはそうだろう、私でも多分放心してしまうだろうし、放心してないでちゃんと答えられてるだけおとなだなぁと、感心するのもつかの間、さっさとしなさいと言わんばかりに言葉を発した。
「じゃあ 先生を呼んでくださる?」
可憐な笑みでシャロがそう頼んだ瞬間、受付嬢さんはばたばたと事務所へ駆け込んだ。
「・・・ったく最初からそうしなさいよ」
「「かっこいい~」」
小さく毒づくそのさますら、絵になるシャロに感動しつつ、またも聞かれてませんように、と祈りながら、たった数分で職員を意のままに操った姿に私もマリアン様も感歎の声しか出なかった。
「どうぞ」
事務所内の応接室に通される間も、他の職員に物珍しい顔で見られてながら、ようやくソファに促され座るとシックで落ち着いた雰囲気のインテリアの中に様々な表彰状が多く飾られてるのが目に入った。
それらを見てここが本当にキャシャラトでもトップレベルの実績を誇るペルシュワール法律事務所なんだと実感がわいた。
実感した途端に変な緊張が体に駆け巡ったのはここだけの話である。
「おまたせしました、私ここの所長をしておりますウィンターバルト・ペルシュワールと申します」
差し出された名刺をみて、ようやく実在したんだ、と不思議な気持ちになった。
目の前にいるこの人こそ、多くの国民それも平民、貴族問わずその手腕で助け続けた結果、個人の能力だけで男爵位をもらったといわれる敏腕弁護士ウィンターバルト・ペルシュワール。
……考えれば考えれるほど、なんで私がここにいるんだろう、と我に返ってしまうくらいには輝かしい功績を誇っているウィンターバルドさんは、頭を下げた。
「うちの職員が粗相をしたようで申し訳ない」
背後では、職員さんたちがざわざわとざわめいている、それはそうだろう貴族令嬢とはいえ子供相手に自分たちの長が頭下げているところを見たら誰だって戸惑う、正直頭を下げられた私だって動揺している。
マリアン様に限っては硬直されている、そうだよね、私だけじゃないよねぇと、変な安心をしている間にもシャロは笑顔で頭を上げてくださいと促す。
「いえ、子供だけでこられたら誰だって冷やかしかなんかだって警戒するのは当たり前です」
「だから金をもってきたと」
テーブルに置かれた札束に驚くそぶりも見せず、ウィンターバルドさんは淡々と答えるがシャルロットはひるむことなく笑顔で応じた。
「言葉だけでは本気なのが伝わらないと思いまして」
「確かにな、さて本題に入ろうか」
ウィンターバルドさんは言いながら前かがみになりそういうと空気がガラッと変わるのを肌で感じた。
「婚約破棄に必要なことを色々聞きたくてきました」
「シャロ……」
シャロが、わざわざ私のあのボヤキだけで、ここまでおぜん立てをしてくれたのだと感動する暇もなく、ウィンターバルドさんは軽く頭を抱えた。
「婚約破棄ねぇ、なるほど とりあえず詳細を聞こうか」
「フルル」
「え?あ……はい」
促されて、ブランデンブルク侯爵家と婚約関係にあること、レヴィエ様が学園でたびたび女生徒とデートや贈り物を上げたり、パーティではないがしろにされたり、言葉の暴力で傷つけられ続けたことを、マリアン様の証言やシャロの客観的な視点も含めて説明し、婚約破棄をしたい旨を話すとウィンターバルトさんは深く、深くため息をついた。
「苦労しているんだな、君は」
同情のまなざしでいわれると、今まで苦労してたんだな私はと実感がふつふつとわいてきた。
かといって怒りがこみ上げるというよりは、ただただ意味の分からない悲しみだけが、じわじわとしみだしてきただけだった。
「……結論から言うと、証拠がたりないな、状況証拠だけだと弱すぎる」
「「「え……」」」
三人で驚きの声を上げるも、予想できてたらしく、ウィンターバルドさんは動じずに続けた。
「逆に言えば証拠さえ集めてしまえば 絶対に大丈夫だ」
「まず何からやれば……」
「まぁまず契約の確認だ、もしかしたら妻を複数持つことが了承されているかもしれないし、逆もあるかもしれない、そして幼い頃に家の都合で結ばれている婚約の多くは、本人の意思があれば手続きをふんで解約できるものも少なくはない。それをまず確かめたほうがいい。」
契約の確認、思えば気にも留めていなかったなと感心しながら、すらすらと書かれていく文字を目で追い、言葉を聞き逃さないようにしっかりと耳を傾けた。
「あとは暴言や暴力などの証拠は、録音録画できる魔具があるからそれを使うと簡単に証拠が集まる」
「それは私もつけてた方がいいかしら」
「そうだな、不貞の証拠にもなるだろうしその方がいい」
マリアン様に同意しながらも、先ほどまで書き留めていた紙をこちらに手渡し、一つ一つ指をさしながら確認していく。
「ここに必要なものと確認することをまとめてある、あとここの魔具屋なら俺の名刺を見せればすぐに用意してくれる、何か困ったことがあったら遠慮せず相談してくれ」
「ありがとうございます」
敏腕弁護士だから当たり前といえば当たり前のことなんだろうけども、ここまで親身になって、いやそれ以前に、子供相手に真摯に接してもらい、明確にやるべきことが分かったせいか少しだけだけど心を薄暗くしていた靄がすこしだけ晴れてきたような気がした。
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