ぼんやり令嬢の兄は二人のことを見守るそうです。
お兄様とニーチェさんは、お互い根が明るいからか、ロテュスに着くまでに意気投合していた。
「へぇ、フルルはちゃんと仕事してるんだなぁ」
「してますよぉ。」
お兄様のやや失礼な言動に、おもわずすぐに反論すると、なんとニーチェさんがフォローをする。
「本当、フルルには助けられてます。」
「そっかそっか、フルルはすねるのやめなって……チョコレートのチュロス買ってやるから」
「子供じゃないですよぉ……いりますけど」
お兄様は、私の返答が分かっていたらしく、雑に頭を撫でた。
「いるんだよなぁ」
そんな私とお兄様のやり取りをみて、ニーチェさんは、いつも、アイン様とニーチェさんのやり取りを見てる時の私と、似たような表情を浮かべていた。
「本当、二人は仲がいいんですね」
相変わらず丁寧に敬語でお兄様に話しかけるも、お兄様は笑って答えた。
「あっ、そんなかしこまらなくていいですよ。俺年下だし、うちは名ばかり伯爵家なんで」
お兄様の言葉に、私もうんうんと、肯定の頷きをした後即座に続ける。
「そうですね。たぶん、純粋な資産はそちらのがあるかと……、うちは、古いだけが取り柄なんで」
「世知辛いことを、何ともない顔でいうのやめないか?……まぁ、ジィド様がそういうなら」
私たちの言葉をきいて、脱力してしまったニーチェさんの表情からは、程よく力が抜けていた。
その後も、仲良く話をしているうちに、少し混雑していたものの、お祭り真っ最中のロテュスの町にたどり着いた。
「賑わってるなぁ」
煌びやかに賑わってる景色に、ニーチェさんはそう答えると、お兄様は笑顔で答える。
「最近は外部の客も多いからなぁ」
しばらくして、ニーチェさんが、馬車から降りようとする私を途中で抱えて、安全におろしてくれた。
流石王女の護衛、こんなのはお手の物ですってことか……。恐ろしい人だ……と、よくわからない感想を抱きつつ、頭を下げた。
「わっありがとうございます。」
「いいえ、そういえば言うの忘れてたけど、今日の服装も可愛いな」
「……ありがとうございます」
そんなやり取りを見ていたお兄様が、小声で
「もう結婚して来いよ……」
と言っていたのを、私はあえてスルーした。
「わっなんか、屋台の種類が若くなってる」
「あー言いたいことは、分かるけどな?」
言い方よ、とお兄様は肩を落とす。
「私が首都に行く前は、揚げた芋と魚、時々、焼いた鳥みたいな感じだったのに……」
「あと、申し訳程度のワッフルとチュロスな」
苦笑するお兄様に、私は小さい子供のように質問を重ねた。
「そうそう、何があったんです?」
「いや、ここ最近関税の見直しがあったのと、ブランデンブルグから払われた分もあったから、いろいろ若者を呼び込むための政策を活性化させたら、ここまで盛り上がってな」
「へぇ……私あのミルク氷食べたいです。」
「一応、晩御飯も兼ねているんだから、腹にたまるもの食べな?」
お兄様の忠言を確かに、と思い、私はお兄様に宣言する。
「でもチュロスは食べます」
「そうだなぁ」
「絶対に食べます」
「わかったよ」
大事なことなので、力を込めて、二回言うとお兄様は私の眉間を押さえて笑った。
「うん、お父様とお母様のいいとこだけ詰め込んだ瞳で、目力こめて言うことじゃないんだよ」
「ぐぅ……」
「仲いいなぁ」
すこし屋台の通りを歩くと、確かにお兄様の言った通り、見慣れない人もちらほらといて、流石に声をかけられることもないだろうと思っていたが、その予想は外れた。
「おおー末姫様、珍しい。うちの商品もってきな、そこの兄ちゃんも食べてくだろう?」
「え?あぁはい」
この一言から始まり、今度はお兄様にも声がかかる。
「ジィド様、こっちにもよってって」
「おいおい、商売ちゃんとしなくていいのか?」
お兄様が気軽にそういうも、どこの屋台の人々も笑顔で答える。
「いいんですよ、領主様ご一家にはお世話になってますから」
「全く……」
そうして、10分程度たったら、持ちきれないほどの食事が渡された。
「大量だなぁ」
お兄様のその言葉に、私は思わず少し人聞きの悪い単語が脳裏に浮かんで、そのまま口から出た。
「……無銭飲食……」
「差し入れっていいなさい」
「ふぁーい」
「ははっ」
私とお兄様のやり取りをみて、ニーチェさんは笑う。
ふと、下の川を見ると、ぼんやりと明かりが流れていくのが見えた。
「さてここからだとよく見えるなぁ」
「始まりましたねぇ」
「戦争で亡くなった方々の、魂を弔う祭り……だっけ」
ニーチェさんのその言葉に頷いてから私は答えた。
「ええ、灯篭と花を川に流すんです」
「不謹慎かもしれないけど、綺麗だなぁ」
「ご先祖さま方、怒ってないとは思いますけど……」
そんなことをそれぞれ口々に言いながら、しばらくすると仄かな明かりに目を奪われ、三人とも口数が少なくなり、最後は、ただ見とれるばかりになっていた。
「どうだった?」
お兄様の問いに、ニーチェさんは感動したのか、感慨深そうに口を開いた。
「いやぁ綺麗だった……あとこの土地にすむ人々は本当にベルバニア伯爵家のことが好きなことがひしひしと伝わったよ」
「嬉しいことを言うなぁ。まぁ、俺らも領民のことが大事だからな、それが伝わってるのだとしたら、嬉しい限りだよ。」
そういうお兄様のお顔は大人びていて、もう立派な次期ベルバニア家当主の顔だった。
「お兄様……大人になりましたね。立派になって……」
「どの立場で言ってるんだお前はもー」
そうやって、馬車の中でふざけながらも、町の景色をながめている間に邸へ到着し、屋台でもらったものを使用人たちにも分けつつ、三人で中庭を望めるちょっとした休憩所で、ゆっくりと食事をとることにした。
意外でもないが、思ったより、お兄様とニーチェさんが、打ち解けてくれてることが、何故か嬉しかった。
「にしても、首都でのことが心配で、ここまで来てくれたんだろう?」
「えぇ、何の連絡もせず、急にきて申し訳ない」
「いや別にそんなことはいいんだよ。ただ、そこまで、フルルのことを思ってくれてるのが、嬉しくてね……あと意外でな」
「「意外?」」
私とニーチェさんは首を同じタイミングでかしげるとそれを目にしたお兄様は一瞬固まったがすぐさま続けた。
「フルルは男性が苦手だからなぁ、あと人見知りも激しいから、ここまで、家族や使用人以外で普通に話せてるのが意外でな」
「前から気になってたけどそこまで顕著に嫌ってるようには見えなかったけどなぁ」
ニーチェさんの言葉に、私とお兄様は、大きく肩を落とした。
「一対一でならなんとか、大丈夫なんですけど、何人かでこられたり、強引なのがちょっと怖いなぁみたいな」
「……昔フルルのことが好きだった男子が、すごい集団でフルルに意地悪してきてなぁ、それ以来こうなんだよ」
「情けない話ですけどねぇ……」
当時は、お兄様とレヴィエ様に泣きついて撃退してもらったけど、子供心にトラウマだったなぁ……。好きな子ほど意地悪したくなるって、それで好きになるわけないのにねぇ、とぼんやりしていると、ニーチェさんが、頭を撫でながら優しい声で答えた。
「そりゃ怖かっただろうなぁ、でも、今普通に話せてるのは本当に偉い」
「褒めすぎですよぉ」
私と、ニーチェさんの会話を見ていたお兄様は、心底安心したのか、ほっとした表情で呟いた。
「本当に、妹を大事にしてくれてありがとう。」
「いえ」
その後も、いい意味で貴族らしくない、穏やかでのんびりとした夕食と、歓談の時間は続いた。
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