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銀色の鳥  作者: 汐留 縁
8/20

8-苦悩



「うん、受け答えもしっかりしてるし、脈も呼吸も問題ない。もう大丈夫だろう」


そう言ってシレスタに触れていた手が離れる。

シレスタは目の前にいる、オリーブグレーの長髪を束ねた青い瞳の男性に目を向ける。

そして男性の言葉にほっと安心するように笑顔を零す。


「ありがとうございますアインシュ先生」


目の前の男性は年齢よりも若く見える顔を微笑むようにして和らげ、シレスタの傍に優雅な物腰で座っていた。

彼はアインシュ・ゲイブル。幼い頃からシレスタ専属として見てもらっている医者だ。年齢は30代後半だが見た目はもう少し若くてかっこよく見える。それでもいまだに彼は独身なんだそうだ。


「いいや、なんてことはないさ。恐らく気疲れで少しコントロールを見失っただけだろう。むしろ、本番を無事に終えることができたんだから良くやったよ」


シレスタは瞳を揺らして不安げに顔を伏せる。


「私の母も、こんな感じでしたか?」


シレスタは、当時の母のことが気になっていた。

無事に終えることができたけれど、本当に自分が銀の魔法使いとして役目を果たすことが出来たのかが気がかりだった。

自分の知る銀の魔法使いは母しかいないため、母の時はどうだったのかがどうしても気になった。


アインシュはうーんと唸るように考え込んでから口を開いた。


「そうだなぁ、君のお母さんの時は特にこういったことは無かったかな?スムーズに儀式をこなしていた感じだったと思う」


「そうですか」と思わず落ち込んでしまう。


アインシュは焦ったようにシレスタを励ます。


「いやいや、それは君のお母さんのことであって君と比べるようなことじゃない。結果的に儀式は成功したのだからむしろ喜んでいいんだ」


アインシュが励ましてもシレスタは浮かない顔だった。


「君のお母さんと比べて何か言うのはお門違いだ。それに、あの歓声を聞いただろう?もう国民は君を銀の魔法使いとして認めた証拠だよ。君は名実ともに銀の魔法使いだ」


アインシュの言葉を聞いてシレスタもそう思うことにした。

結果的には上手くいったのだから、過程を気にしても仕方がない。

母を気にしても、結局は母になれる訳では無いのだから自分は自分だとそう納得することにした。


「そう、先生。レイは?」


シレスタは目が覚めてずっとレイのことが気になっていた。

なかなか聞くタイミングが見つけられずにようやく今になって切り出すことが出来た。

シレスタが気絶する直前の傷ついたレイの姿がずっと残っていて離れない。


「ああ、レイね。彼の方もちょっと見たけど、傷はそこまで深くなかったよ。君が倒れて直ぐに、彼も倒れてしまって医務室に運ばれたけど、あの後1度目を覚まして今はベッドでぐっすりしてるそうだよ」


アインシュの言葉を聞き、シレスタは安堵のため息をこぼす。

自分のせいで彼を傷つけてしまったことに、ひどく落ち込んでいた。

アインシュの話を聞く限りは、あまり重傷で無かったことに胸をなで下ろした。


アインシュは笑顔でシレスタにそう答えたが、実際のところシレスタを安心させるために話の内容は軽く伝えた。

確かにレイの傷は深くはないが、それよりもシレスタの魔力に当てられた事でレイにはしばらく安静が必要な状態だった。

しかし、それを正直にシレスタに伝えるには、今の精神状態の彼女では酷だと判断した。

そのため、内容は軽く簡単に伝えた。実際、死ぬような状態ではないし、身体にも異常がないため時間が経てば良くなるだろうと言う感じだったので話しても良さそうは部分だけ話すことにしたのだ。


「さあ、2人とも今日は頑張ったからゆっくり休んで。また明日様子を見に来るから」


シレスタはそう言って部屋をでるアインシュの姿を見送った。

そうして、いざ休もうと思ったが、さっきまで寝ていたせいで今は頭が冴えていた。

目を閉じても気持ちが落ち着かない。

先程まであんなことがあったのだから仕方がないが、ずっと胸に引っ掛かりを覚えていた。

原因は何となくわかっている。さっきも無理に納得して飲み込んだが、結局の所は自分が思った通りにはできなかったからだと。

魔法は暴走し、レイを怪我させて騒ぎを起こした。

シレスタは苦し紛れに寝返りをうつ。

アインシュから母の時は何も問題を起こさなかったと聞き、母と比べて自分はできなかったのだと、役目を全うしきれなかったと感じてしまった。

儀式が結果的に成功したとしても、自分の中では失敗したと感じてしまう。

それにあの時、レイが来てくれたことで結果的に騒ぎは収まったけれど、もしあのまま暴走を続けたのかと思うとどうなっていたか分からない。

シレスタは無意識に右手の中指を触る。そこには今日貰った指輪が嵌っていた。

左手で指輪を擦りながら、ふと倒れる直前に左頬を風が掠めたことを思い出した。あの時に感じた温もりが何だったのかは分からない。

ただその温もりを求めるようにシレスタは左手でそっとその部分を撫でた。




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