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銀色の鳥  作者: 汐留 縁
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6-王太子殿下




レイは見慣れた廊下を迷うことなく突き進む。

騎士学校時代から、剣術だけでなく、マナーについても厳しく指導されてきたため、歩き方から佇まいまで騎士として完璧にこなしてきた。

そんな彼が、今はそんな事を気にすることなく、急ぎ足でズンズンと歩いていく。


先程、負かしたルアンをさらに締め上げ、情報を洗いざらい吐き出させた。

その結果、どうやら隣国の大使数名が今日、視察のために来ること。視察の表向きの目的は、風祭り(グィーフェーレ)に参加したいとのこと。

そして、その内容は直前まで意図的にレイに伏せられていたこと。

なぜ口止めされていたのか、誰に口止めされたのかも問いつめたがそれに対しては、言えないと返ってきた。

だが、その返答で誰が口止めしたのかはだいたい分かった。

ルアンに命令を出し、尚且つその命令にルアンが従う相手など極少数だ。しかも、レイの耳にまで届かないほどの秘密裏の訪問。情報の制限ができるのなんて城内でも数人。

だが、レイが思い浮かんだ人物は1人だった。

レイが進む廊下は、いつも使う廊下よりも明らかに装飾も広さも違った。

絢爛な廊下を突き進み、レイは1つのドアの前に立ち止まる。

そのドアの前には衛兵が2人構えていたが、レイを見ると敬礼をして道を開けた。レイは遠慮することなく、ノックをして中から返事が聞こえると同時にドアを開けた。


「失礼致します。

お聞きしたいことがあって参りました。殿下」


金髪の青年は机から顔を上げると優雅に微笑んだ。


「やあ、いらっしゃい。どうしたんだい?そんな怒った顔をして」


ロイデント・ルディア・レーナ・ロジェルタはこの国の第一王子だ。そして、クリスティーネの兄でもある。クリスティーネと同じく、深紅の瞳とややふんわりした金髪の髪を持ち、端正な顔立ちで、微笑めばふんわりとした甘い印象が漂うほどのイケメンであるが、その腹の中で考えていることが甘くないことだけは知っていた。


「ルアンから今日、隣国の大使が来ることを聞きました。さらに、その話をとある方に意図的に伏せられていたと」


そういって、レイはロイデントを睨みつける。

そのレイの睨みに対してもロイデントはふんわり微笑んだ。


「あぁ、ルアンが話したんだね。そう今日来るんだ、例の大使様が。

表向きは、風祭り(グィーフェーレ)に参加したいからと言っているけど、本来の目的はシレスタだろうね。本当にあの国も食えないよね」


と言って笑い声をあげる。


レイは呆れたようにため息をつく。


「何でそれを直前になって、しかもルアンからその話を聞くんですか」


ロイデントは穏やかな笑みを浮かべながら「だって」と口にして、

「レイってすぐに表情に出ちゃうでしょう?」


レイは心外な表情を浮かべる。


「俺は表情には出し「出てるよ」


ロイデントに食い気味に答えられレイは押し黙る。


「レイは無表情(ポーカーフェイス)のつもりだけど、実際、結構顔に出てるよ。それは、困るんだよね。なにせそうなって1番影響を受けるのはシレスタの方だから」


そう言うとロイデントは感慨深げな表情を浮かべた。


「だから、直前に伝えることにしたんだ」


レイは疑わしげな視線をロイデントに向ける。


「本当にそれだけですか?」


たかが大使が来るだけで、ここまで厳重に情報を制限するのはおかしい。

確かに風祭りは国を挙げての盛大な祭りで、昔は秘匿の存在でもあった風の魔法使いからは、他国の干渉を避けてきた。けれど今は、祭りに参加する者の中に他国の旅行者などもいる。

今更そこまで制限を掛ける必要が無いのだ。


ロイデントはニヤリと唇を上げ、目を細めると人差し指を口の前に立てる。


「正解。実はね、今回訪問する大使はかなりの重鎮なんだよ」


「誰が来るんですか?」


レイは片眉を上げて聞き返す。

レイは頭の中で外交で世話になったお偉い方の顔を思い浮かべる。

しかし、ロイデントが口にしたその人物はレイの予想になかった人物だった。


「王太子殿下だよ」


レイはポカーンと口を開け、徐々にわなわなと唇を震わせる。


「な、な、なんで?」


レイの表情にロイデントはおかしげに笑う。


「さあ?そこは内緒。まぁ、ということだからよろしく」


ロイデントは話が終わったとばかりに表情を崩した。

そうして手元の仕事へと目をやる。

しばらくの間、衝撃から抜け出せなかったレイの様子が何やら変わったため視線をあげた。

目の前のレイは不満げな訝しげな目でこちらを見ていた。


「どうかしたの?」


と不思議そうな顔で首を傾げた。

レイはその表情のまま口を開く。


「本当にそれだけなんですか?」


レイの表情からは鎌をかけている様子はなく、本気でまだあると思っている口調だった。

そんなレイの様子にロイデントはハハッと素のままで笑い声を上げた。

レイはそんなロイデントの反応に更に眉をひそめる。

ロイデントはひとしきり笑ったあと、また感慨深げな、けれど穏やかな表情を浮かべた。


「いやまぁ、強いて言うなら、サプライズかな?」


「は?」


「たまにはほら、刺激も必要だろう?最近は、あんまりレイと相手してなかったから、息抜きも兼ねて」


と、いたずらっぽい笑みを浮かべて楽しげに話している。

レイは本気で呆れた表情を浮かべた。

つまりは、レイを驚かせるために黙っていたというわけだ。

最後まで言うつもりがなかったのだから、それが一番の理由だったのだろう。


(こんの、腹黒ドS策士が)

とレイは心の中で罵った。





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