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銀色の鳥  作者: 汐留 縁
5/20

5-侮れない相手




レイとルアンは剣の鍛錬場へと移動した。

両者、動きやすいようにと上着は脱いだ状態で剣を構えた。


「てか、いいの?もうすぐ我らが女神のお披露目会だってのに、ここにいて」


ルアンは剣を振り回しながら話しかける。


「あぁ、1試合できるくらいは時間がある」


「余裕あるねえ〜、1試合たってどんだけかかるかわかんないよ」


レイは剣先をゆっくりルアンの方へ定めながら、

「大丈夫だ。一瞬で蹴りをつける」

と言ってにやりと微笑む。


「ヒュ〜、やっぱり騎士様______っと」


レイの剣ががルアンの顔を横切る。

そう来るだろうと見越していたルアンは剣を持たない手を使い綺麗にバク転をして避けた。


「へん、2度同じ目には合わないよ」


と得意げな顔で目を細める。

レイもルアンが避けることは見越した攻撃だった。何度も手を合わせた相手だけあって大体の行動パターンを読むことは出来る。しかし、読むことが出来たとしてもルアンの身のこなしであれば攻撃してもすぐに避けられてしまう。

今も剣を使って攻撃しているが1度もルアンに当たる様子はない。

ルアンの方は軽々とした身のこなしで避けている。

初めて交える敵であれば、見た目がひょろっとした子供であるため、たいてい油断して負ける。それもそうだろう。こうして何度も混じえているレイでさえ簡単に勝つことが出来ないのだから。


この見た目でこれだけ強いのだから本当に末恐ろしい。


「あ、そういえば」

とレイの攻撃を避けながらルアンが話す。


「どうやら、近いうちに隣国の大使の方がおいでになるそうだ」


隣国とはカルファトル王国のことである。自然が豊かで作物により経済を回しているロジェ王国と比べカルファトル王国は鉱物資源から多大な利益を得ている国である。そのため、ロジェ王国と比べ産業的にも発達している国であり、盛んに貿易を行いながら友好関係を築いている間柄である。


「そうか、いつ頃くる予定なんだ?」


「えーと…」


と今まで流暢に話をしていたルアンの言葉が詰まる。

それと同時に動きも鈍くなった。

レイはその一瞬の隙をみのがさなかった。ルアンの剣を横へ薙ぎ払った後、ルアンが体勢を立て直す前に剣を足で蹴り飛ばした。

そのまま剣が宙を舞うのと同時に、ルアンの首の前に剣を突き出した。


「俺の勝ちだな」


そうして、唖然としているルアンから剣を退け、鞘へと戻す。


「あーあ、せっかくいい調子だったのに」


と背中から床に倒れ込みながらルアンが言った。


「身体が鈍ってるんじゃないか?」


「まぁ、最近は表の仕事はめっきしだったからね」


ルアンは表向きは城に仕える近衛騎士であるが、裏では密偵や秘密裏に潜入して情報収集を行う間諜としての役割も持つ。

そのため、表部隊のような朝から晩までの鬼のような訓練を行いながら体を鍛える部隊とは違い、潜入や情報の整理が主な仕事である。

ルアンはこの見た目通り大の大人ほどの力はない。

ルアンの強さはその身のこなしと野性的な勘である。


「でも、レイには一生勝てる気がしないよ」


そう笑いながらルアンは言う。


しかし、こいつが本気で戦っていない事には気づいている。


間諜としての役割を持つルアンの頭の中にはレイさえ知りえない貴重は情報が詰め込まれている。

そのため、どんな相手にも隙や弱みを見せるわけにはいかない。

自分の()を見せることは自分の身を危険に晒すのと同じだ。

だから、どんな戦いにおいてもルアンは一歩引いた戦い方をする。


決して本気で戦うことは無い。

自分と自分の周りの人を守るために。


(けど、俺は知っている。ルアンが本気を出せば俺に勝てることも、本当は武器が長剣では無く、短剣や暗器の類であることも知っている)


「それで?さっきの話の続きは?」


「へ?…ああ、視察の話ね。えーといつだったかな?」


指で数えるルアンをレイは腕を組んで黙って待つ。


そうしてしばらく経ってから、ルアンは「あぁ」と思い出したように声を出すと、

「今日だ!」

と声を上げた。


本当にこいつは末恐ろしいやつだと、レイは恨めしげに空を見上げた。





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