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銀色の鳥  作者: 汐留 縁
17/20

17-優雅なお茶会



ロイデントとの話し合いが終わったレイは廊下を突き進んでいた。

任務を請け負った今、早急に準備する必要があるのだがその前に所要があった。

レイは自室とは反対の廊下をスタスタと歩く。

柔らかで色鮮やかな装飾で飾られている廊下を進み、豪華な扉の前で足を止める。

扉をノックすれば、「どうぞ」と女性の声が聞こえた。

しばらくして中から扉が開き、侍女が部屋の中へと誘導する。


「あら、早いのね」


と、部屋にいる彼女はネックレスが引っかかったのか、立ちながら何やらうなじ辺りをいじっているクリスティーネの姿がそこにあった。


「先程、来ると連絡したでしょう?」


ため息でも尽きたそうな表情でレイが答える。

レイが来てもまるで気にしない様子のクリスティーネはネックレスを弄りながら部屋の中を歩き出す。


「ほらわたくし、夜に訪室するように伝えたでしょう?」


そう、元々レイにはそう今朝伝えられていた。

けれど、流石に夜来られるわけがないと昼間に訪室することにしたのだ。

そうして、それを目の前のあまりにも無防備なお姫様に呆れ気味にこぼす。


「淑女の部屋に夜訪室出来るわけないでしょう」


「わたくしは気にしませんのに」


とネックレスと格闘するクリスティーネはあっけからんとした様子で言う。

あまりにも危機感が薄い。本人が気にしなくても周りが気にする事な上、そんなほいほいと男を入れるもんじゃない。

はあ、と頭痛がするように頭に手をやる。

そんなレイをクリスティーネは特に気にすることも無く、ようやくネックレスが解けたのか、すっきりした様子で外したネックレスを衣装台の上に置く。


「さあ、お兄様みたいにお酒は飲めませんけれど、お茶は入れてありますわ。ぜひ、お飲みになって」


そう言ってテーブルへとレイを誘導した。

レイはクリスティーネが座った向かいに腰掛ける。

侍女がお茶を入れれば紅茶の香りが広がった。

本当に優雅なものだ。


「さあ、昨日のことを教えてちょうだいな」


とお茶には目もくれず、クリスティーネはテーブルに手の甲を上にした頬ずえをついてこちらを興味津々に見つめる。

本当にこういう仕草はロイデントとそっくりだ。


「昨日のこととは?」


「あら、もちろん2人のことよ。あの後抜け出したんでしょう?2人っきりで」


本当はしらを切り通してやろうと思ったけれど、それなりに事情は把握しているようだった。

と言うよりも、女子会のようなノリに思わず引いてしまう。


「俺にそう言った話を求めないでください」


「じゃあ、誰に聞けばいいの?」


「知りませんよ。シレスタにでも聞いてください」


と、思わずシレスタに丸投げしてしまう。

けれど、レイの返答にクリスティーネは困ったように笑った。


「だめよ。シレスタに聞いたって困ってしまうでしょう?」


レイは片眉をあげる。


「つまり、俺には気を使わずにずけずけと聞けるってことですか?」


クリスティーネはフフっと笑う。

レイは諦めたように表情を崩した。


「別に、昨日の事でお聞かせするような話はありませんよ。ただ、二人で話してダンスを踊っただけです」


「あら、十分よ。何を話したの?」


「プライベートな事です。そこまでは喋りません」


クリスティーネは拗ねた様子を見せたが、直ぐに表情を戻し、カップに落とした視線は憂いているように見えた。


「私はね、レイ。あなたの事を仲間だと思ってる。だから、こういった話はあなたとしか出来ないし、あなた達のことももちろん応援したいと思ってる」


クリスティーネはカップに添えた右手を縁を撫でるような動作をする。

そうして、上目遣いにこちらを見上げた。


「だから、ね、教えてちょうだいな」


と憂う瞳の中に茶化したい心が見え隠れする。

レイは白々しい視線を向けながら口を開いた。


「そちらはどうだったんですか?」


クリスティーネは目をぱちぱちさせる。

レイは言い返したつもりで聞き返したのだ。

クリスティーネの言うところの仲間(・・)についてレイは理解していた。そしてその仲間が意味するところで、クリスティーネが誰に思慕を抱いているかも知っていた。

しかし、クリスティーネはそんなレイの反撃をものともせず逆に「あら聞きたい?」と楽しげな様子で返された。

そして、あまりにもグイグイ来るクリスティーネの様子に思わず「いえ、やっぱりいいです」とレイは尻込みしてしまう。

そんなレイにクリスティーネは、あらつまらないと言ったように首をすくめた。

そうしてクリスティーネはまたカップに視線を落とす。


「なんでなのかしらね。遠いものほど手を伸ばしたくなるの。手になんか入らないのにね」


何かを思い出したのか今度は本当に憂いているようだった。

その表情はどこか寂しげで、何だか自嘲を含んだ声音だった。


「……あなたなら手に入れようと思えば手に入れられるはずでしょう」


あまりにも寂しげな彼女の様子に、そう言葉をかけたが、彼女は緩く首を振る。


「そんなのただの自己満足よ。幸せになんかなれないわ。それに、あなただって同じじゃない」


そうしてレイに向けて苦笑いをこぼす。

同じ、なのだろうか。

きっと互いが手に入れたいものは、自分の思いだけを貫き通せば叶えることができるのだろう。けれど、それをするには障害もしがらみも多すぎる。

それに、やっぱりレイのほしいものは一生手に入れることは不可能なものだった。

クリスティーネやロイデントが思う“手に入れる”とレイの思う“手に入れる”は違う意味なのだ。

ロイデント達が言う意味は、シレスタとの間に子供を作ることができるということ。しかし、レイが言う意味は2人幸せな時間を築けるということ。

だからきっと、レイは本当の望みを叶うことは出来ない。

なぜなら、ロイデント達が言う意味は、レイにとっては虚しい方法だから。


「やっぱり同じではないですよ。俺には一生かけたって叶うことがない望みです」


諦めるようにしてそう言葉にしたレイは、クリスティーネへ笑いかける。


「本当に叶えたいと思うのなら、もう俺なんかに相談しないことですね」


レイの言葉にクリスティーネは怪訝な顔で首を傾げるのだった。




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