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銀色の鳥  作者: 汐留 縁
15/20

15-パーティの後に



レイは、パーティが終わると共にシレスタを自室へと送り届けた。すっかり疲れ果てた様子のシレスタを侍女に預ける。

彼女は少し名残惜しそうにしてるように見えたが、部屋に着くと安心した様子でレイに「おやすみなさい」と微笑んで戻っていった。

レイも本来なら自室のある寄宿舎へ戻っていいはずだが、進む先は自室ではなかった。今歩く廊下はレイの自室の廊下と比べ物にならないほど豪華であった。

そうして、1つのドアをノックする。

中から返事が聞こえて中に入った。


「やあ、待ってたよ」


と、すっかり砕けた様子のロイデントがソファに座って待っていた。シャツの上ボタンを外して、ソファの背に寛ぐ姿に普段の毅然とした面影もなかった。

レイは呆れた表情でそばに近寄る。


「今ならここを攻め落とすのも訳ないですね」


と嫌味を零すが、彼はハハっと笑うだけだった。


「ここまで侵入出来る手練なら、寧ろこちらで雇いたいくらいだよ」


と冗談で返された。

レイはため息をこぼすと、ロイデントが目線で示した向かいのソファに腰掛ける。

レイが座るのを確認して、テーブルにあるワインに手を伸ばして栓を抜く。


「まだ、飲むんですね」


「もちろん、そのために君を呼んだんだからね。それに、パーティーの間は酔いつぶれる訳にはいかないだろう」


「パーティの間に危うくマルシェン公爵夫人を口説きかけたって聞きましたけど?」


レイの言葉に、ロイデントはしれっと目線を逸らしながら注いだワイングラスを煽った。

マルシェン夫人はかなりご高齢の夫人で、その話を先程、廊下ですれ違った友人から笑い話として聞かされた。

半信半疑だったが、ジョークのつもりで話せば事実だったらしい。


「さて、俺からのプレゼントはどうだった?」


と、ロイデントは切り替えるように、テーブルの上に両腕を立てて手の甲をつける頬杖をつく。

レイは白々しい目を向けていたか、息をついてから口を開く。


「随分手の込んだプレゼントでしたね」


「そりゃあね、君達のしがらみは複雑だからね。これくらいはしないと難しいだろう」




レイはパーティの間、シレスタとロイデントがダンスをしている間もその後も壇上で見守っていた。

シレスタが周りから言い寄られていても、それを制す権利はレイには無く、怪しい者がいないか目を光らせるだけがレイに唯一できることだった。

これが、本来の距離なのだろうと改めて実感した。

ずっと一緒にいられるのも結局はシレスタが望んでくれるから。それが無ければレイがシレスタの傍にいることも許されない。

視線をもう一度会場へ向ければ、シレスタの姿が見えなかった。

ざっと会場全体を見渡すがやっぱり見当たらない。

だんだんいてもたってもいられなくなり、咄嗟に会場へ向かおうとした時に肩を叩かれた。

驚き振り返れば、メイドが後ろに控えていた。


「ロイデント様から手紙を預かっております」


そう言われて1枚の手紙を渡された。

もう一度会場に目を向けて今度は手紙の主を探せば直ぐに見つけられた。

彼は人の注目を集めやすいためこの距離からでも認識できた。

そんな彼から手紙だという。なんだと思いながら手紙の中を確認した。


『2つの色が混ざり合う花の女王の庭園にて、妖精は風に誘われ、姫君の名のもとに待たれたし』


手紙を見ても何だこれと思った。

本当にロイデントからの手紙なのかと思うが、彼ならこういう回りくどいことは好んでやりそうだとも思う。

首を傾げながら読み解こうとする。


“花の女王の庭園”

とりあえず、この文章で分かるのは、どこかの庭園に向かうということだった。

そして、花の女王。花の女王と言われて想像するのはバラだ。そして、2つの色。

赤と白の色が混ざり合うバラの庭園、ローズガーデン。

“姫君の名のもとに”

あそこは姫君の愛した薔薇の園と言われ、別名、プリンセス・ローズガーデンと呼ばれる。姫君の名のもとにというのはそういうことだろう。

ここまでで読み取れるのは、そのローズガーデンで待てということ。

ただ、妖精という所が今ひとつ分からなかった。

いくら考えてもそれ以上は読み取けなかったが、とにかく、そのローズガーデンに行けば、妖精とはそこで待ってればくる誰かのことだろうと予想して、そこに向かうことにした。

近くにいた部下に声をかけ、持ち場を離れる。

離れる際にもう一度会場を見渡したが、見つけたい銀色の彼女の姿は見当たらなかった。




レイはロイデントから渡されたグラスをグイッと煽った。


「そう言えば、例の王太子殿下はどうされたんですか?」


思い出したように口にする。

結局あの日、執務室で問いただして以来、一切その話が無かった。

その後はシレスタの事でゴタゴタしてしまい、すっかりその事を忘れていたのだ。

隣国の王太子に関しては秘密裏に訪問すると言う話以外、何も知りえていなかった。


「ああ、彼ね。祭りに満足してもう帰ったらしいよ」


「結局、何しに来られたんですか?」


「さあ?観光じゃない?」


レイには、隣国の王太子が何を目的に訪問したのかが不明だった。

それを聞き出そうとしたかったのだが、どうにも話すつもりがないことが察せられる。

レイには、腹黒王子に口を割らせるほどの話術も権力も無いため、その事については黙る他無かった。


そうしてしばらく雑談をしていれば徐々に酔いも回る。

疲れている身体にはお酒が自然と良く染み渡った。

うつらうつらし始めたロイデントが唐突に口を開いた。


「私はね、レイ。君に希望を託しているんだ」


レイは訝しみながらも、何やら真面目な表情で話す彼に合わせて手に持っていたワイングラスをテーブルに置く。


()()()はね、本当に欲しい物ほど手に入らないんだよ」


私たち、が誰を指すことか分からないが話に耳を傾けた。

ロイデントは、レイの返事は求めていないのか、独り言ちるようにして話を続ける。


「僕には権利は無いけど、君にはそれを手に入れられるチャンスがある。だからどうか、叶えておくれよ」


ロイデントの伝えたいことは正直に言えば良く分からなかったが、何となく彼の言いたいことは理解しているため、何も返事を返さなかった。

彼は返事が返ってこなくても、それでもいいと言うようにそれを咎める様子もなかった。


そうしてワイングラスが空になれば、自然とお開きの流れになる。


「終わりですね。それでは、お先に失礼します」


「ああ、今日はありがとう」


とロイデントは何事も無かったかのような顔でレイに手を振った。



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