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銀色の鳥  作者: 汐留 縁
11/20

11-パーティ



今日は城の中で慌ただしくメイドが廊下を駆け回る。

シレスタは全身の指先から髪の先まで隅々まで身綺麗にされ、今は準備されたドレスに身を包んでいた。

白を基調としていて、その上に瞳の色と同じ、アクアマリンのような透明感のある色の生地を流すように、腰からふんわりと広がる形のドレスを着ていた。

ドレスの色に派手さはないけれど、清廉とした気品の高さは伺えた。何よりもシレスタの銀色の髪にはとても映えるドレスだった。

仕上げに化粧をして髪をゆいあげれば、周りからは感嘆の声が漏れる。

シレスタも鏡に映った自分を見て、まるで別人のようだと思った。儀式の時に着飾った衣装と比べると、幾分か少女らしさが出ていて胸がドキドキと高揚する。

普段の子供っぽさもなく、儀式の時のような堅苦しさもなくてちょうど良い可愛らしさが嬉しかった。

それに、儀式の緊張感と比べれば、今日のパーティの方がいくらか楽しむ余裕があった。

しばらくそうやって楽しんでいると、ドアからノックの音がする。返事をすれば扉からレイが入ってくる。

白い礼装に身を包むレイは、まさに騎士(ナイト)だった。

レイはシレスタの装いに気がつくと、少し目を見張って直ぐに目を細めて微笑む。


「似合ってるよ」


「レイも似合ってるよ。ふふ、かっこいい」


「どうにも、こういったのは合わないな。堅苦しくて敵わない」


そう言ってレイは首元を緩める動作をする。

レイの様子にシレスタは思わず笑みをこぼす。


「今日は緊張してないな」


シレスタは後ろめたい気持ちがあったため、恥じ入るような表情を見せる。


「うん、大丈夫。今回は、レイもみんなもいてくれるから怖くないよ」


レイも「そうか」と言ってシレスタの様子に安心したようだった。


「じゃあ、途中までエスコートするから。お手をどうぞ、銀の魔法使い様」


おどけたような動作でレイが腕を差し出す。

シレスタは思わず笑い声を零すと、同じようにおどけた感じでお辞儀をする。


「お願い致しますわ、騎士(ナイト)様」


そうして2人連れたって廊下を歩き出した。




「やあ、シレスタ似合ってるね」


そう爽やかに笑いながら、ロイデントはこちらに向けて手を挙げていた。

ロイデントは普段から王太子らしくてかっこいいが、今日はきっちりと正装しているからかいつもよりも精悍さが滲み出ていた。

彼の隣にはクリスティーネとリアンもいてなにやら話しこんでいて、2人はこちらに気がつき、クリスティーネは微笑んでこちらに手を振り、リアンは佇まいを直す。

クリスティーネは赤いバラのようなドレスに身を包み、リアンはワインレッドの色をした騎士の正装に身を包んでいる。

この兄弟は、本当に目立つなぁと、自分と比べると雲の上の存在だと感じた。けれど、自分のことを客観的に見れないシレスタは彼らに引けを取らないぐらい目立つことには気が付かない。


「ロイデント様、クリスティーネ様。本日はよろしくお願い致します」


と、まだ人前ではぎこち無いが、淑女(レディー)教育で身につけたカーテシーをとる。


そんなシレスタに対し、ロイデントはハハッと笑って

「シレスタは真面目だなぁ」といい、

クリスティーネは、ふふっと笑ってシレスタに歩み寄り

「そんなに堅苦しくしなくていいのよ。そういうのは然るべき相手にだけすればいいのだから」

と返ってきた。


シレスタからすれば、2人は王族なので然るべき相手ではあるのだが、気心のしれた相手ではあるから確かに堅苦しくする必要は無いなと肩の力を抜く。


「では、今日はよろしくお願いします。みなさん」


とシレスタはいつもの調子で微笑む。

周りはシレスタの言葉に優しく頷く。


「全員揃ったか」


とよく響き渡る、厳格な声が耳に届く。

そちらに顔を向ければ、現国王であるアルベルト・ルディア・レーナ・ロジェルタと王妃であるメイレン・ルディア・レーナ・ロジェルタが2人揃ってこちらへ歩いていた。

アルベルト国王は、クリスティーネとロイデントと同じ金髪で、深く刻まれたしわが厳格な印象を与えるが、精悍な顔立ちが爽やかな印象を持たせる。けれど纏う空気は重々しく、着ている赤いマントがより国王の威厳を周りに感じさせた。

隣でアルベルト国王と腕を組むメイレン王妃も同じ金髪で、化粧の効果かは分からないがとても若く見える。レースをたっぷり乗せたアメジストのような輝きを放つドレスは、彼女の若々しさと相まって少女らしさを演出していた。それでも表情やオーラはこの国の王妃たるものを感じさせる。


和やかな空気から一変して緊張した空気が走るとともに一斉に全員が跪く。まだ慣れないシレスタは周りよりワンテンポ遅れて跪く。


「全員おもてをあげよ」


そう告げれば、全員が顔を上げた。また、シレスタだけワンテンポ遅れる。


「今日、この日を迎えられたことを嬉しく思う」


そうして「シレスタ」と自分の名前が呼ばれる。

思わずドキリとしながら、「はい」と(ども)りながらも何とか返事をする。

そうして、ぎこちなくなりながらも陛下の元へと歩み寄り、目の前へ行き、慣れなりカーテシーをとる。


「今日はそなたの祝いのパーティーだ。存分に楽しむと良い。これからにも益々期待しておる」


「ありがたきお言葉にございます。今後ともこの国のために精進して参ります」


そう言って頭を垂れて、ようやく顔を上げた時にちらりと陛下の顔を盗み見た。

一瞬だったため確かではないが陛下は笑っていたような気がしてシレスタは思わず目を見張った。


「それでは参る」


そう言って国王はマントを翻してホールの扉へと向かう。

それに習うように周りの者たちも動き出す。


「お手をどうぞ、fair(フェア) lady(レディ)


右隣を見るとロイデントはにっこりと微笑みながら手を差し出している。左からはレイが手を差し出していた。

元々2人にエスコートしてもらう予定だったため何の戸惑いもなく両手を互いが差し出した手に添える。

後ろでは、クリスティーネがリアンにエスコートされながら歩いていた。

さらに後ろを粛々とお付きの者達が着いてくる。

初めは緊張していなかったシレスタも、周りの空気に飲まれて徐々に顔が強ばった。


そうして、始まりを告げるように扉が開かれる。











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