事件前日
可愛い女の子が、可哀想な目に遭ってるのって、興奮するよね。
エアが学園に戻り、一人遊びを始めて数時間が経ち、四限目が始まろうとしていた。
(……さすがに飽きてきたな)
何をして暇を潰そうか考えていると、人が近づいてくるのが視えた。
「あの、無属性科って、ここですか……?」
「そうだけど、あなたも受講希望?」
「は、はい……。あの、先生は、どちらに?」
「急用で不在」
「そう、なんですか……」
気が小さくて大人しい性格と言えば聞こえはいいが、声が小さく、聞こえずらいというのに加え、うじうじ、愚図愚図されるのは、エアにはストレスを感じさせる物だった。
「あの、いつ頃、戻ってくるか、聞いてますか……?」
「…………」
無言でエアが少女に近づき、首を鷲づかみにして持ち上げた。
「ガッ……グ」
「ハキハキ喋ってくれない?イライラする」
「ご……ゴベン、なザ……」
エアが急に手を離したことで、少女が地面に崩れ落ちる。
「グッ……ゴホッ、ゴホッ」
少女が苦しそうに咳き込んでいると、
「ちょっと!何やってるの!?」
ルイスの叫び声が空から降ってくる。
どうやら長話は終わったようだ。
「お姉ちゃん!」
少女が空から降りてきたルイスに抱きつく。
「思ったより早かったですね」
「あなた、私達に恨みでもあるの?」
「恨みなんてありません、だだの趣味です」
「趣味?」
意味が分からないという顔で、ルイスは呟いた。
「そう、趣味です」
「狂ってるわ」
「そんなこと無いですよ」
エアは心外だと言わんばかりに、自分の普通さをアピールした。
「よく子供が、蟻の巣に水を流し込んだり、虫の羽や足を千切って遊んでますよね?それと同じです」
「それは、10歳かそこらの子供の話でしょう。16歳にもなれば、もう殆ど、大人も同然です。同じになんて出来ません」
「じゃあ、先生はもし、妹さんが殺されて、犯人が10歳程度の子供だったら、「子供がしたことだから」って、許すんですか?」
「ソレとコレとは話が違いすぎます!」
これ以上、話をしても無意味だと理解したルイスが会話を打ち切る。
「とにかく、私にならばともかく、妹への……、生徒への暴行は見過ごせません。このことは学長に報告させて貰います」
「お好きにどうぞ」
「あなたはもう家に帰ってなさい、どうせ学園にいても学ぶ事なんて無いでしょ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて帰ります」
エアはそう言い残して学園を後にした。
「ん?」
エアは研究所のドアノブに触れた瞬間にあることに気付いた。
(誰もいない?)
エアは魔眼の視認範囲を広げてアシュティンを捜索する。
すると、肉屋で何やら店員と会話をしているアシュティンを発見した。
その手には、食材の入った袋が握られていた。
あり得ない物を見たという顔でエアが驚愕する。
(榴弾の雨でも降るのか……?)
もし本当に降ってきても、すべてエアによって回収され、物資が潤うことにしかならないのだが……。
そんなことを考えながら、エアはドアを開けて研究所に入った。
「まったく、何奴もこいつも握手だ、サインだと、鬱陶しい。静かに買い物も出来ん」
「食材を買って来たということは、リクエストでもあるんですか?」
「うおっ、え、エア、帰ってたのか」
「はい、ついさっき」
それで、とエアは続ける。
「その食材は?」
「コレは……」
何かいい誤魔化し方は無いかと、考えていたアシュティンだったが、よく考えれば、別に誤魔化す必要も無いと、思い至り、素直に口を開いた。
「は、ハッピーバースデー、エア。コレで美味しい物作って?」
「自分で作ろうという気は無いんですね」
「さすがの私も、炭は食えん」
エアがアシュティンから受け取った食材を確認する。
「ステーキ肉ですか」
「結構高かったから、それなりに美味しいはず」
「焼き加減とソースは何がいいですか?」
「……ミディアムでワインかな」
少々迷って注文を出す。
しかし、今は昼を少し回った程度、二人とも昼食は済ませてしまっていた。夕食の支度をするには早すぎる。
「夕飯も決まったところで……、実は、買い物に行く前に例の機材が届いてな、早速だが、改修するから、装備を持って工場まで来てくれ」
「分かりました、……その前にコレ、仕舞ってきますね」
アシュティンはそそくさと工場に向かい、エアは食材を片付けて、装備を取りに、自分の部屋へと向かった。
「はー、やっぱりエアの作る料理は最高だな」
「……ありがとうございます」
装備の調整が終わる頃には日も沈み、夕飯も食べ終えた頃、来客が訪れる。
「勝手に上がらせてもらったよ~」
「エア、何で追い払わなかったんだ……」
「多分ですけど、私に用事だと思ったので」
「そうなのか?」
勝手に上がり込んできた来客、アーデルハイトに、アシュティンが迷惑そうに質問する。
「そうだよ。できればティアにも聞いてて欲しいかな」
「何で私まで、エアに用なんだろ」
「そうだけど、保護者にもいて欲しいの」
「分かったよ……」
アシュティンは諦めて、この場に残ることを認めた。
「それで早速本題なんだけど、授業開始初日から被害者が二人も出ているんだけど、エアちゃん、何か言い分はある?」
「特に何も、して言うなら、この時間の無意味さを指摘します」
「エアに説教したって、何にもならんぞ」
「知ってた」
早々に諦め、アーデルハイトは一つの提案を提出する。
「うちの学園って試験さえ合格すれば進級も卒業もできるの、だから試験の日だけ登校して、それ以外は自宅謹慎をお願いできないかな」
「構いませんよ」
エアの返答に心底安心した顔で、言う。
「軍が手を焼くのも分かるわ、内に抱えた爆弾、諸刃の剣もいいところだ」
「エアがレアリオンに付いたら敵同士だな?」
「冗談やめてよホント……」
アーデルハイトはアシュティンから大体の事情を聞いて把握している。
軍に自分の運命を握られていると思うと、生きた心地がしない、アーデルハイトであった。
「さて、うるさい奴もいなくなったし、工作でもするかな」
「私も面白い遊びを思いついたので、準備をすることにします」
「面白い遊び?」
エアはアシュティンの疑問には答えず、自分の要望を伝えた。
「メッサ―・ビット、あと二基は欲しいんですけど、できますかね」
「いつまでにだい?」
「明日?」
「さすがに無理」
メッサ―・ビットは、MRSという特殊な鋼材で作られている。
MRSとは、魔力反応鋼という特殊な合金のことで、エアの愛剣にも使用されている鋼材だ。
この鋼材の凄いところは、魔力に反応して、分子間の結合力が強まるというところ。
その性能は、エアが約1800km/hの速度で岩壁に叩き付けても、傷一つ付かないほど。
ただし、加工が難しく、大量生産できないので、コストが高く、簡単に手に入らないという、難点もある代物だ。
なので、一晩で用意するのは、さすがのアシュティンでも無理がある。
「分かってます、六基でも十分足りるので問題ありません」
その代わりにと、エアが注文を口にする。
「ミサイル・ビット、作れるだけ作って欲しいですね」
「了解」
こうして、その場は解散となり、夜は過ぎていく。
夜空に消えていったビット達を残して。
実は料理できる系主人公のエアさん。
その腕前はプロ級…………かもしれない。
次回は、エアによる殺戮ショー(?)の予定。(予定)←念押し