初めての授業
実はミサイル・ビットの大きさは、トイレットペーパーの芯と同じだったりする。
メッサ―・ビットは200mmぐらいのCファ○ネルみたいなイメージ。
エーレンフリート魔法学園にはクラスという物も存在しなければ、制服も無い。
学園の寮か、自宅からその日受けたい科目の教材を持って登校し、授業を受け、下校。
一日中、戦闘服の者もいれば、実験服や作業服の者もいる。
そして現在、エアは自前の戦闘装備を身に纏い、授業を受けるべく、闘技場の一角を訪れていた。
「……」
「……」
エアが選択したのは魔法実技の無属性科。飛行魔法しか使えないのだから当然と言えば当然の選択である。
しかしこの場に居るのは、教師と生徒一人のみ。
「……私が言うのも何だけど、なんでこの授業を選んだのかしら」
「飛行魔法しか使うことが出来ないので、この授業を選択するしかありませんでした」
「え?飛行魔法しか使えない?……そんなことあるの?」
魔道具を使えば別だが、属性魔法は適性が要るので使えなくとも理解できる。
しかし、飛行魔法を使える時点で魔力は扱えているのだ、他の無属性魔法も使えなければおかしい。
「そんなことあるんです」
「……まぁ、いいわ」
ルイスは渦巻く疑問をねじ伏せ、授業のために思考を切り替える。
「エアさん、だったかしら、……さっきから気になっていたのだけど、その腰に付いてるのは何かしら」
ねじ伏せたはずの疑問が再び別の疑問となって浮上してくる。
「え?……飛行ユニットですが?」
質問の意図に気付いてはいたが、あえて誤魔化す。
「そうじゃなくて!その、飛行ユニットに付いてるやつよ!」
「あぁ、これですか。これはですね……」
「秘密兵器です」
「あなた、わざとやってるでしょ!」
「そうですよ?」
エアは悪びれることも無く、教師を弄び楽しそうにする。
「もういいわ。授業を始めます」
「そうしてください」
「……」
ルイスは文句を言ってやりたい衝動を抑え、授業に集中すべく、いきなり本題に入った。
「この学園での進級と卒業の条件は何か分かる?」
「選択した科目の試験で基準値以上の点数を取ることです」
一科目だけなら90点。二科目なら一科目70点。三科目なら60点。四科目以上は三科目同様60点。
「よろしい。じゃあ、魔法実技の試験内容は?」
「現役軍人と模擬戦をしてそれを教師が採点します」
「はい、正解」
エアからすればイージー過ぎる試験内容だ。数千を同時に相手取れるエアに掛かれば、一人程度1秒もあれば屠れる。
「……飛行魔法しか使えないあなたには厳しいと思うけど?」
「問題ありません。なんなら、試してみますか?学長がルイス先生は非常に優秀と言っていましたし」
「いいでしょう。では、鬼ごっこにしましょうか。私が鬼役、あなたが逃げ役です。いいですか?」
「問題ありません」
お互いに少し距離を取って向かい合う。
「五秒待つからその間に逃げること」
「分かりました」
この時、ルイスが待つという発想をした時点で、まともにやれば勝敗はほぼ決したも同然なのだが、ここで、エアの気まぐれが発動する。
「5」
ルイスが秒読みを開始したのを確認して、エアは比較的ゆっくり上昇を始めた。
「4」
エアが上昇を続ける。
「3」
ルイスが飛行魔法を発動し、何時でも動けるよう用意する。
「2」
エアが200m程で上昇をやめ、空中に静止する。
「1」
ルイスがエア目掛け飛翔した。
瞬く間に距離が縮まり、ルイスの腕がエアに伸びる。
「え?」
ルイスが困惑の声を上げる。
エアは逃げる事もせず、あろう事か伸びてきた掌に自分の掌を重ねたのだ。
「あ~、捕まっちゃいました……。……そうだ!、今度は私が鬼役やってみたいんですけど、いいですか?」
「え?、ええ。いいけれど……」
エアが何を考えているのか分からず、ルイスは思わず、役の交代を承諾してしまった。
「じゃあ、逃げてください。ある程度離れたら追い詰めますね?」
「わ、わかったわ」
訳が分からないと言った表情で、ルイスは離れていく。
その背後で不適な笑みを浮かべているエアに気付かずに。
「準備はいいですかー」
「何時でもいいわよ」
エアは相手の準備が出来たことを確認すると、
「行け!ビット!」
10発ほどのミサイル・ビットを100km/h程でルイスに向かって発射した。
そしてそのうちの1発がルイスの前方5m程のところで慣性制御を切られ急停止する。
その結果、急停止の衝撃でミサイル・ビットが爆発した。
「ちょ!?なにするの!」
「逃げないと危ないですよー」
ルイスは飛来するミサイル・ビットから逃げるため速度を上げ、障壁魔法を展開しつつ、魔法で撃墜を図る。
「飛行魔法しか使えないって、嘘じゃない!」
「嘘じゃないですよ、魔力感じないでしょ?」
確かにルイスは、自分を追いかけてくる物体からは強い魔力を感じたが、エアからは、飛行魔法の微弱な魔力しか感じることが出来なかった。
「ッ!このっ、恨むわよ!!」
そんな憎まれ口もむなしく、爆発は追いかけてくる。
「恨むだなんて、酷いこと言うなぁ。私は親切心からやってるんですよ?」
狂気を孕んだ笑みで語りかける。
「あんなに知りたそうにしてたじゃないですかぁ、だから見せてあげてるのになぁ、私の秘密兵器ぃ」
「この、ガキ!いい加減にッ!」
ついにルイスは襲ってくるミサイル・ビットだけでなく、エア本人にも攻撃を仕掛ける選択をした。
攻撃魔法をエアに放とうとするが、
「なっ!?」
使用していた魔道具が突如真っ二つに斬り裂かれ阻止される。
高速で飛来したメッサ―・ビットに斬り裂かれたのだ。
ならばと、無補助で魔法を放とうとして、気付いた。
先ほどまで、2、30mは離れていた場所に居たはずのエアが、真横に居たのだ。
「ッ!」
殺られる、っと本能的に察した。
しかし、与えられたのは死ではなく……。
「はい、捕まえた」
まるで、今までのことが無かったかのように、ルイスの肩に手が置かれた。
「…………」
「と、っと」
気を失い、飛行魔法の制御が失われ落下しそうになるのをエアが受け止める。
「この程度で失神するとか……。やめて欲しいんですけど……」
この程度とエアは言ったが、真横に移動した時、エアは本気でルイスを殺す気でいたのだ。殺気を纏った濃密な魔力を至近距離で浴びせられれば、失神するのも無理はない。
地面に付いたところで、起こそうと体を揺すった。
「もしも~し」
「……」
「起きてくださ~い」
「……」
「……仕方ない」
起こすのは諦めて、壁に寄り掛かけるようにルイスを寝かして、起きるのを待つことにしたのだった。
平民虐めは駄目で、教師虐めは許されるのかぁ!?
1時限目でコレとか、やべえな……。
ルイスさん、強く生きて……。