異動という名の排斥
主人公は時と場所を考える戦闘狂です。(……知らんけど)
3/2 ※速度表記の変更。時速○○km→○○km/h
(致命傷回避訓練はお預けか)
致命傷回避訓練とは、文字通り致命傷を回避する訓練である。
とにかく急所を狙われ続けられるので、それを避ける、防ぐ、などして、実戦での生存能力を高めるという名目の訓練である。
「エア少佐、ちょっといいか」
「テオドール大佐。何でしょうか」
「君に王都にあるエーレンフリート魔法学園に入学しろと参謀本部から命令が来た」
果たして学園に入学するのは異動というのかという疑問が吹き飛ぶほどにエアは呆れていた。
「……邪魔者に消えて欲しいからでしょうか」
「ま、そうだろうな。しかし参謀本部は学園を卒業したら単独作戦行動のライセンスを渡してもいいと言ってきたぞ」
「ッ!!」
参謀本部の無能連中に命令されるのは癪だが、単独作戦行動のライセンスを貰えるのならば話は別。
「ライセンスが貰えるのは願ってもないことですが、上はどうしても小娘に活躍して欲しくないようですね」
「上からすればたかが魔道具の実験をしているだけの小娘にいい顔されるのが気に食わないのだろうな」
「いい顔をしている気は無いのですが……。そのたかが魔道具にどれだけ救われているのか分かっていないのかもしれませんね」
魔道具があれば消費魔力を抑えて魔法を使うことが出来るのだ。長時間の戦闘を強いられる魔法士にとっては必需品だ。
「分かってはいるさ。ただ、自分たちが使えない物を使える人間に嫉妬しているだけで。それで?異動の件はどうするんだ?」
「まぁ、従いますよ。事実上3年間の投獄ですが、単独作戦行動を貰えるなら堪える価値はあります」
「そうか。では準備ができ次第出発するといい」
「了解しました」
自室で荷物をまとめていると、突然ドアが開け放たれ、見知った女性が侵入してきた。
「エア~、新装備出来たからテストして欲しいんだけど。……何してるんだい?」
「異動で王都に戻ることになったので準備をしています」
「何!?ならば私も準備しなければ!」
そう言うと白衣を着た女性は急いで部屋から出て行った。
彼女の名はアシュティン・ティアレット。エアの専属メカニックマンのような存在だ。飛行魔法を開発したり、ほかにも様々な魔道具を開発して世に出していた結構凄い人物なのだが、エアと出会ってからはエアにしか興味が湧かなくなってしまい、エア用の魔道具しか作らなくなってしまった残念な人でもある。
「やっぱり付いてくるのか……。まぁ、ありがたいけど。それにしても忙しい人だな……」
ぽつりと呟きながらエアは唯一使える飛行魔法を使いながら、正確には移動魔法を使って荷物の整理をする。
部屋にある物が次々にエアの元に飛んでいき、バッグの中へ詰められていく。
飛行魔法は、移動魔法、慣性制御魔法、空気抵抗低減魔法、の三つを組み合わせて作られた魔法で、簡単に仕組みを説明するなら、使用者の周りを空気の繭で覆い、慣性を消した状態にして、移動魔法を使用して飛ぶといった感じだ。
エアはこの飛行魔法を構成する三つの魔法しか使うことが出来ない。
しかしこの三つの魔法ならば人よりも自由に使用することが出来る。
例えばエアは、速度強化型飛行ユニットの最高速である時速500kmで装備側の飛行魔法を使用しながら、自分で更に飛行魔法を重ね掛けすることで限界以上の速度を出すことが出来る。
ちなみに、高機動戦闘ならば、最大800km/h、長距離直線飛行なら、マッハ1.5が現在エアに制御できる最高速だ。
もしエア以外の人間が同じ事をしようとすればおそらく、慣性と空気抵抗を消しきれずに空中でバラバラになるか、壁に激突してバラバラになるかのどちらかだろう。
「さて、さっさと出発することにしますかね」
そう言うとエアは整理し終えた荷物を持ち部屋を出た。
そして外に出たところで大量の荷物を背にアシュティンが待ち受けていた。
「……準備が早いですね……。何ですかその木箱……」
アシュティンの背後には荷物というより物資と表現した方がしっくりくるような量の荷物が置かれていた。
「何ってエア用の新装備だけど?」
その台詞にエアの頬が引きつる。
アシュティンの背後には1m四方の木箱が八個、二箱で一組に縛られて置かれている。
「そんな大量に何作ったんですか?」
「今回のも自信作だぞ。見てくれ」
そう言うとアシュティンは木箱の上に置いてあった長方形型の箱のような物を持ち上げた。
その箱ような物は、全長720mm程のサイズで計四つ置かれていた。
「何ですかそれ、装甲板か何かですか?」
装甲板ならば木箱の中にスペアとして同じ物が大量に入っていても不思議はないと木箱の中身について考察する。
「違う違う。コレはね、まぁ、簡単に言うならミサイルコンテナだよ」
「みさいる?何ですかそれ」
エアは聞いたこともない単語に思わず疑問を投げかける。
「ミサイルっていうのは、……コレだ!」
アシュティンはミサイルコンテナから1発のミサイルを取り出しエアに見せる。
それは筒型で、長さ100mm、半径20mm程のサイズだった。
「コレは簡単に言えば強い衝撃が加わると爆発する爆弾だ。正式名称はミサイル・ビットと言う」
「……今回の新装備はつまり、コレを飛ばして標的にぶつけて爆破する、と……」
「その通りだ!……とりあえず取り付けるから後ろ向いて。あ、重いから飛行魔法使っといた方がいいよ」
ひとまず指示に従って飛行魔法で数センチ浮かび上がり背を向ける。
そして4基のミサイルコンテナが飛行ユニットに取り付けられていく。
「……よし、出来た。……結構見栄え変わるね」
太腿から腰に掛けて装備されている飛行ユニットに4基のミサイルコンテナが腰背部と側腰部に装備される。
「……少し邪魔ですね……。もう少しコンパクトに出来なかったんですか?」
「まぁまぁ、そう言わず。ある程度ならアームを動かして調整できるし、少し大きい代わりに魔力コンデンサーも積んでるからさ」
「いやまぁ、触ってるんでコレの機能は大体把握しましたけど……」
魔力が使える人間であれば魔力を流して魔道具の大体の機能を把握することが出来る。
「まあいいです。それで、このミサイルはどれぐらいの威力があるんですか?」
「大体爆発半径が1mぐらいかな。あ、人間相手の場合は直接当てるんじゃなくて足下を狙ってね」
「なるほど……」
呟きと共に10発のミサイルが射出されエアの周りをクルクルと飛び回る。
「10発ぐらいなら余裕でコントロールできそうですね」
「分かってはいると思うが一基に付き30発、計120発だ。乱用するとすぐ無くなるからな」
「わかってます」
先ほどまでエアの周りを飛んでいたミサイルがコンテナに帰って行く。
「さて、では王都に向かうとしようか」
「……まさかこの荷物全部私が運ぶんですか?」
「安心したまえ。私も手伝う、……一組だけな」
エアは「はあぁぁ」と諦め混じりに大きなため息を吐きながら大量の荷物に向けて飛行魔法を発動した。
すると三組の、計六つの木箱が浮き上がり高度を上げていく、それを追いかけるようにエアも高度を上げる。
それを見てアシュティンもエアと同じように荷物と一緒に飛び上がる。
そして、ある程度の高度に達したところで、
「置いてけぼりは寂しいから、私に合わせてくれよ」
「分かってますよ。途中でミサイルのテストもしたいのでそのつもりで」
「ああ」
王都に向けて進発した。
学園に入学させるのはいいがその先がまったくイメージできん……。
コレだから思いつきで書いてる阿呆ぅは……。
ちなみにミサイル・ビットの元ネタはもちろんアレです。