幼馴染とゲーム
「幼馴染のゲーム」シリーズとして4編の短編シリーズとなっておりました。上記リンクからシリーズ一覧に飛べるので是非通して見てみてください。
音ゲーの一件で、私は耳まで赤くして屈んだ後、顔を上げたら……森の中に居た。
「えっ? まってまって?!」
森の中の、明るい月の光がこぼれる、まるで夜の妖精が現れそうな場所。遠くには魔獣同士が威嚇する唸り声が聞こえる。自分の姿を確認すると、貴族令嬢の恰好だ。
おかしい、コレは幼馴染が作った悪役令嬢ゲームだったはず。しかし、私は今、コントローラーも持たず、現実に森の中に居る。
そう、私は本当に悪役令嬢ゲームの世界に転移したのだった。
「おお、何と美しい。麗しの貴女よ、私と共に来てはくれないだろうか」
「あ、そうだった」
幼馴染に似た情けない顔の隣国の王子に声を掛けられた時点で、私はゲームを止めたので、王子が待ちぼうけをしていた。すまぬ。
しかし、コレどうしよう。以前プレイした時は、幼馴染の告白の裏をかいてやろう、と思ってストーリーガン無視でバグ探しばかりしたので、攻略も何もわからない。
そう思案に暮れ、難しい顔をしていると
「俺だよ、俺。まったく、追いかけて転移してきたんだよ。まあ、デートするには雰囲気の無い森だけどさ、俺に合わせて付いて来て」
王子の雰囲気が途端に庶民っぽくなったと思ったら、ウィンクしながら小声でそう話し出した。
幼馴染はいつもそうだ。
情けない顔してるのに。やり方も回りくどいのに。
途方もない時間がかかっても、一生懸命準備して、私との未来を見てくれている。
私への告白の為に、幼馴染が一生懸命作ったこの悪役令嬢ゲームの世界なら、全ての運命を任せてもいいだろう。ふうっと、一息吐いた後、その情けない顔をしっかりと見る。
「ええ、愛しの貴方。私も共に付いてまいりますわ」
「よろしい」
◇
「ちょっと芽音子さん、この【幼馴染と恋愛ゲーム】というアプリだけどさ……何か、言い訳はありますか」
「ええと……悪かったわよ……」
私、赤居芽音子は、幼馴染の長内翔琉の前で土下座をしていた……。
【幼馴染と恋愛ゲーム】は、私が作ったアプリゲームだ。
一章は【告白の悪役令嬢ゲーム】
二章は【手を繋ぐドラゴンシューティング】
三章が【デートとキスの音楽ゲーム】
そして四章【愛に気づく幼馴染ゲーム】
これら四章に連なる話で、親愛度を上げていき、ゲーム内の幼馴染とハッピーエンドを迎えるという恋愛ゲーム。
ここまでは普通の恋愛ゲームなのだが、このゲームの幼馴染にはモデルが居るのだ。それが、翔琉だ。
まあ、姿や性格は翔琉なのだが、現実は全くといっていい程に告白とか付き合ったりとかラブのラの字も無いので、そこら辺は私の拗らせ妄想を詰め込んだストーリーだ。進展しない腹いせだったのであまり後悔はしていない。まさか本人が見るとは思ってなかったけど。
「たまたまダウンロードしたアプリゲームやったら、やたら俺に似てる男居るし!」
「だから、悪かったって言ってるじゃない」
「俺って、こんな情けない顔なの?!」
「ええ、そ……いや何でもない」
「しかも何で俺の好きな歌とか、シューティング下手とかまで知ってるの」
「そりゃまあ、幼馴染……だし?」
「それに、ゲームの中の俺! 俺ってそんなに回りくどいやり口すると思われてるの?!」
「あー、あれは腹いせというか……」
翔琉の情けない顔がキッと鋭い目になり、私を見つめて大きなため息を一つ付く。
「でも、ゲームを作る程、拗らせさせてゴメン。ちゃんと芽音子を見て、男らしく、俺の想いを言うよ」
「……」
早くなる鼓動のタップ。
私を射貫く、ドラゴンブレスの様な翔琉の目。
コレは、来る、流石に来るでしょ?!
「アナタ……に、やってほしいゲームがあるんだけどさ」
「よろし……くないわ!! って、おい翔琉!!」
私達の関係は、【幼馴染とゲーム】がまだ続きそう……だわね。
シリーズ1作目「悪役令嬢がバグを雪だるま式に発見してきます」で好評を頂いた為、急遽短編を書き足し、4編の短編シリーズとなりました。このシリーズの短編での形はこの回で完となります。シリーズを通してご覧頂いた方々、ご評価、ブクマ、ご感想を頂いた方々に感謝申し上げます。他の作品共々、これからもどうぞよろしくお願いします。